山下塾第5弾

山下 輝男

第二十二話「平和安全法制の概要(5)国際平和支援法の制定」

 今般の平和安全法制の柱の一つが新規制定される恒久法である「国際平和支援法」である。従来、国際平和のために活動
する他国軍を支援するために自衛隊を派遣する場合は、時限立法である特別措置法を制定する必要があったが、本法が成立
すれば新たな立法手続きは不要となる。
 一部に地球の裏側まで自衛隊を派遣するのかとの批判があるが、果たしてそうであろうか?新規制定される本法を見てみたい。



1 本法の必要性

(1)人的貢献がない場合の国際的評価
  国際社会の平和と安全が脅かされ、国際社会が国連決議に基づいて一致団結して対応する時、我が国としても相応の対応
 をする必要がある。資金提供や物資協力もあるが、国際社会と共に汗を流すということが必要である。1990年8月イラクがク
 ウェートに軍事侵攻して始まった湾岸戦争では、日本は「湾岸ショック」とか「湾岸トラウマ」と呼ばれる政治的敗北を喫
 した。130億ドルにも上る多額の資金提供を行ったが、戦後クウェートが謝意を表明した中に日本の国名がなく、人的貢献を
 しなかった日本の威信が低下したことは事実である。(湾岸戦争終了後に、海上自衛隊の掃海部隊が派遣されペルシャ湾の
 機雷掃海を行った。)
(2)如何なる人的貢献を行うか
  我が国の憲法9条の解釈の下で、国際紛争を解決する手段としての武力の行使は出来ないが、自衛隊による国際社会の平和
 と安全のために活動する外国軍隊への支援は可能である。
  然しながら、自衛隊派遣を可能とする根拠法がなく、その根拠法制定の国会審議に時間を要し、タイムリーな派遣が困難で
 あると指摘された。
  ①イラク特措法 2004年(平成16年)1月16日~2008年(平成20年)12月
   陸自部隊及び空自派遣空輸隊
  ②テロ特措法2001年(平成13年)11月~2007年(平成19年)11月
   海自艦艇による各国艦艇への後方支援
  ③新テロ特措法 2008年(平成20年)1月~2010年(平成22年)1月
  
(3)平素からの準備の必要性
  国際平和の為に所要の後方支援を行うことが、可能であるので、平素或いは状況が進展する段階から所要の情報収集が可能
 であり、所要の訓練等を行うことが可能となり、派遣決定後速やかな派遣が可能である。

(4)参考
  政治の混乱、与野党の深刻な意見の相違等により、国際社会に貢献しようとする法律が適時に成立せず、時には失効し、
 支援活動を中断するという事態も起きた。その状況を瞥見しよう。国会の審議引き延ばし戦術を多用し、主張を通そうと
 する政治風土が我が国に存在するのも事実である。議論を尽くして、最後は多数により決すると云う民主主義が定着して
 欲しいものである。
  ①イラク特措法の制定に至る経緯
   日本でイラク復興支援への取り組みを具体化させる切っ掛けとなったのは、2003年5月22日に採択された米英軍の
  役割を認め、人道支援・治安回復への支援を各国に呼びかけた安保理決議1483である。政府と自民、公明、保守新
  の与党3党との協議の結果、イラク復興支援への散り組を具体化する観点から6月に法案を衆議院に提出した。
   片や、野党は、復興支援に関与する必要性は認めながらも、民主党は、文民による人道復興支援を主張し、自由党は
  自衛隊の派遣は国連決議に基づくものとは認め難いと、共産・社民は米英への協力は憲法違反として反対した。衆議院
  では民主党の修正案を否決した後、政府案の通り可決された。
   参議院では、7月25日の委員会で動議の提出等もあって、混乱のうちに採決され、翌未明の本会議で与党の賛成多
  数により可決・成立した。
   安保理決議から約2ヶ月後の特措法の成立である。

  ②テロ特措法
   2001年9月11日に発生した「アメリカ同時多発テロ事件」を受け、小泉政権が2001年10月5日に法案を提出し、同月
  29日に成立・制定された。施行・公布は2001年11月2日で、2年間の時限立法であった。1週間後の11月9日には、海上
  自衛隊の艦船3隻がインド洋に向けて出航した。
   当初は2年間有効の時限立法であったが、2003年10月の改正で2年延長、2005年10月の改正で1年再延長、2006年10月
  の改正で1年の再々延長が行われた。
   2007年11月1日限りとなっている法の有効期間が延長されるかどうかが注目された。特に民主党の出方が注目されて
  いた。しかし、9月12日に安倍総理大臣が突然辞意を表明し国会が空転したため、本法の改正(有効期限延長)が日程
  的に困難となってきた。
   これに対し内閣は、2007年10月17日に衆議院に後継の法律としてテロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施
  に関する特別措置法案(新テロ特措法)を提出した。10月26日から衆院テロ特別委員会で審議を始め、同年11月13日に
  衆議院本会議で与党の賛成多数で可決、2008年1月11日に参議院本会議で野党の反対多数で否決されたが、同日午後に
  衆議院本会議で与党の3分の2以上の賛成多数で再び可決・成立した。
   しかし、新法案は本法の失効の11月1日まで成立せず、結局本法が11月1日24時をもって失効することに伴い、海上
  自衛隊はインド洋から撤退することとなった。

  ③新テロ特措法(略称を「補給支援特措法」)
   2007年 10月17日:内閣から衆議院へ法案提出。
   11月12日:衆議院特別委員会で自民・公明与党の賛成多数で可決
   11月13日:衆議院本会議で自民・公明与党の賛成多数で可決され、参議院に送付
   2008年 1月10日:参議院外交防衛委員会で野党の反対多数で否決
   1月11日 午前:参議院本会議でも反対多数で否決され、衆議院に返付
       午後:衆議院本会議で自民・公明与党により出席議員の3分の2以上の賛成多数で可決され、成立(衆議院の
       再可決規定に基づく)。
   1月16日:同法を公布、即日施行。補給活動の実施計画を閣議決定。
   1月24日:補給艦及び護衛艦が出港、2月21日から補給活動を再開。
   10月21日:活動期間を1年間延長する改正法案が衆議院本会議で可決、参議院送付
   12月12日 午前:参院本会議において改正法案が野党の反対多数により否決
        午後:衆院本会議において与党の賛成多数により再可決、成立
   2010年 1月16日:法律が失効。自衛艦は撤収。

  ④PKO協力法
   時限立法ではないが、本法案成立までの紆余曲折を見てみると新たに法律を制定すると云うのは大変だと思える。そ
  れだけ、重要であるという証左でもあるが・・
   その状況見てみよう。アンゴラに続き、モザンビークやカンボジアでも国際社会が協調して、内戦の収拾・復興の兆
  しが出、国連主体の和平構築の動きが見え始めると、日本にも相応の貢献が求められるようになり、1992年の通称PKO
  国会で国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律が成立し、文民・自衛隊によるPKO参加が開始されることと
  なった。
   1990年の湾岸戦争でショックを受けた日本は、国際協調主義の流れに沿って自由民主党政権(海部俊樹~宮沢喜一内
  閣)が法案を提出した。自衛隊海外派遣を軍国主義の再来と捉えた日本社会党や日本共産党、社会民主連合などは強硬
  に反対。逆に、民社党は積極的に賛成した。社会党はPKOを自衛隊とは別組織の文民に限定する代案を出し、1990年10月、
  自民・公明・民社の三党も、一度は同様の合意を行った。しかし、自公民は社会党の助け無しに可決ができる見通しに
  なると(参議院で自民党は過半数割れしているねじれ国会状態のため、法案可決には少なくとも公明・民社の協力を得
  る必要があった)、11月には自衛隊と別組織案を破棄し、当初の予定通り、自衛隊海外派遣を中心に据えた法案となった。
   社会党は態度を硬化させ、共産党、社民連と共に徹底した牛歩戦術によって投票を妨害する。社会党衆議院議員137人
  全員が議員辞職届を出して衆議院解散に追い込む作戦も行われたが、衆議院議長の櫻内義雄が辞職届を受理しない対応
  をしたため頓挫。野党は国会で各個別閣僚への不信任決議案を衆議院に提出して採決を行うことによる議事を引き伸ば
  そうとしたが、与党は内閣信任決議を衆議院に提出、内閣の全閣僚を一括して信任することで対抗し、一事不再議の原
  則で内閣信任後の個別閣僚への不信任決議提出を封じた。
   1991年12月3日に衆議院本会議で可決。1992年6月8日に参議院本会議で修正案が可決。同年6月15日に衆議院本会議で
  参議院修正案が可決し、成立した。



2 国際平和支援法の概要

(1)目的
  国際平和共同対処事態において、当該活動を行う諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等を実施して、国際社会の平和
 及び安全の確保に資する国際平和共同対処事態とは、
  ① 国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、
  ② その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、
  ③ 我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの

(2)要件
  以下の国連決議(総会又は安保理)があること
  ①支援対象となる外国が国際社会の平和及び安全を脅かす事態に対処するための活動を行うことを決定し、要請し、
   勧告し、又は認める決議
  ②①のほか、当該事態が平和に対する脅威又は平和の破壊であるとの認識を示すとともに、当該事態に関連して国
   連加盟国の取組を求める決議

(3)対応措置
  ① 協力支援活動
   諸外国の軍隊等に対する物品及び役務の提供
   補給、輸送、修理及び整備、医療、通信、空港及び港湾業務、基地業務、宿泊、保管、施設の利用、訓練業務、
   建設(※)武器の提供は含まない。
  ② 捜索救助活動
  ③ 船舶検査活動(船舶検査活動法に規定するもの)

(4)一体化の回避
  国際平和支援法には、後方支援のための活動が他国軍の武力行使と一体化し、憲法に違反することを避けるための規定も
 設ける。自衛隊の活動地域が戦闘現場に変われば部隊が活動を休止したり、退避したりすることで一体化を防ぐ。

  ○「現に戦闘行為が行われている現場」では実施しない
 (※)遭難者が既に発見され、救助を開始しているときは、部隊等の安全が確保される限り、当該遭難者に係る捜索救助
   活動を継続できる。
  ○自衛隊の部隊等の長等は、活動の実施場所若しくはその近傍において戦闘行為が行われるに至った場合、それが予測
   される場合等には、一時休止等を行う。
  ○防衛大臣は実施区域を指定し、その区域の全部又は一部において、活動を円滑かつ安全に実施することが困難である
   と認める場合等には、速やかにその指定を変更し、又は、そこで実施されている活動の中断を命じなければならない。

(5)国会承認
  公明党が拘った国会承認については以下の通り
  ○国会承認について例外なき事前承認
  ○7日以内の各議院の議決の努力義務
  ○対応措置の開始から2年を超える場合には再承認が必要
 (※)再承認の場合は、国会閉会中又は衆議院解散時は事後承認を許容

(5)その他
  〇防衛大臣は自衛隊の部隊等の安全の確保に配慮しなければならない旨の規定あり
  〇武器使用権限は、自己保存型のみ



3 批判に対して

 これによって、自衛隊は地球の裏側まで派兵されることになり、他国の紛争で、死傷者が続出することとなると一部の、
野党やマスコミが批判している。
  ①日本が積極平和主義の下、相応の貢献を行うことは必要であり、国連決議があり、加盟国の責務でもある。
  ②実際に派遣するかどうかの判断は日本が主体的に行うべきものである。当該派遣の必要性については、至当に判断
   されるべきであり、その為に国会が関与する。
  ③グローバル化した国際社会では日本のみが、われ関せず足りえず。
  ④自衛官のリスクが高まると声高に一部野党やマスコミが騒ぐが、自衛官に然も寄り添い、自衛官のことを大事に考
   えていると訴えているが、白々しく感じるのは小生のみではあるまい。云うまでもなく、自衛官は服務の宣誓を行
   っており、身を持って責務を完遂するとの気概を持っているし、如何なる任務をも完遂しうる、高い練度も保持し
   ている。
   実際の派遣に当たって、周到な準備と訓練を行い、万全の態勢を整えるべく措置するのは為政者の責務であり、自
   衛官はその枠の中で責務を持って完遂あるのみである。
  ⑤自衛官のリスクが高まるのではなく、日本のリスクが高まっているのであり、そのリスクに如何に対応するかが問
   われている筈だ。


(了)