山下塾第5弾

山下 輝男

第二十三話「平和安全法制の概要(6)事態対処法の改正等 新3要件等」

 云うまでもなく、今般の安全保障法制に係る大改正は、現行枠組みでは対応することが不可能或いは著しく制約を受ける部分を解消して、我が国の平和と安全を全うするために必要な法律の整備を行うことである。平時から有事のあらゆる段階、我が国・国民に関する事項から広く国際社会にかかわる事項までを網羅し、シームレスな対応を可能とするものである。今般の平和安全法制の中で、最も議論を呼んでいるのが、事態対処法制、集団的自衛権の限定容認についてであろう。
 本話では、事態対処に係る内容を見てみたい。



1 国際法上の自衛権と我が国の自衛権

(1)集団的自衛権とは
 国際法上、一般に、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていない場合にも、実力をもって阻止する権利と解されている。また、集団的自衛権の行使は、武力攻撃の発生、被攻撃国の要請又は同意という要件が満たされている場合に、必要性、均衡性という要件を満たしつつ行うことが求められる。
 我が国においては、この集団的自衛権について、我が国と密接な関係にある外国に対して武力攻撃が行われ、その事態が我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるときには、我が国が直接攻撃されていない場合でも、その国の明示の要請又は同意を得て、必要最小限の実力を行使してこの攻撃の排除に参加し、国際の平和及び安全の維持・回復に貢献することができることとされている。

 即ち、一般的な集団的自衛権よりも厳密に解釈している。
(2)国連憲章等
 ア 国連憲章第51条
   この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和
  及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛
  権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安
  全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能
  及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。
 イ 北大西洋条約 5条
   第5条に「(条約加盟国の)一国ないし二国以上に対する武装攻撃は全ての(加盟)国に対する攻撃と見なす」と
  規定し、国際連合憲章第51条で認められた集団的自衛権を行使すると定めた。
 ウ 日米安保条約 5条
   第5条各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全
  を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危機に対処するように行動するこ
  とを宣言する。
   この第5条は日米両国の「共同対処」宣言を記述しており、第三国の武力攻撃に対して条約にもとづく集団的自衛権
  や積極的防衛義務を明記しているわけではないと解される。

(3)憲法9条の下で許容される自衛の措置は
 ア 個別的自衛権の行使
   自衛権発動としての武力行使の発動の3要件は、以下の通りである。①我が国に対する急迫不正の侵害があること、
  ②これを排除するために他の適当な手段がないこと、③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと、その実際の行
  使に当たっては、その必要性と均衡性を慎重かつ迅速に判断して、決定
 イ 集団的自衛権
  (ア)従来の解釈
    憲法9条2項の規定により、個別的または集団的を問わず自衛権は認められているが、憲法上認められている必要
   最小限度の自衛権の中に個別的自衛権は入るが、集団的自衛権は入らないと解釈されてきた。
    我が国は、国連憲章51条及び日米安保条約に明確に規定されている集団的自衛権を権利として有しているが、行使
   することは出来ないとしてきたのである。
  (イ)安全保障環境の激変と許容される解釈
    日本を取り巻く安全保障環境は、激変しており、「必要最小限度」の考え方を変更する必要がある。
    安全保障環境の変化は、①技術の進歩と脅威やリスクの性質の変化 ②国家間のパワーバランスの変化 ③日米関
   係の深化と拡大 ④地域における多国間安全保障協力などの枠組みの変化 ⑤国際社会が対応しなければならないよ
   うな深刻な事案の増加 ⑥国際社会における自衛隊の活動である。とりわけ、我が国周辺における軍事バランスの変
   化中国の急激な台頭と米国の影響力の相対的変化は顕著である。
    従って、必要最小限度の自衛権の行使の中に、集団的自衛権の行使をも含まれると解釈するべきである。
  (ウ)他国に対する攻撃と我が国の存立や国民の安全・安心との関係
    安全保障環境の変化を踏まえれば、他国に対する攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我
   が国の存立等に脅威を及ぼすことが現実的に起こりえると考えるべきである。
  (エ)解釈改憲か
    これまでの政府見解の基本的な論理の枠内での解釈の再整理と云うもので一部変更ではあるが、憲法解釈としての
   論理的整合性や法的安定性を有している。合理的な解釈の限界を超えている解釈改憲ではない。
 ウ 過去の事例に見る集団的自衛権行使の課題等
   ①北朝鮮第一次核危機(1993~1994年)
    IAEAによる北朝鮮の特定査察により北朝鮮の核疑惑は更に深まり、北はNPTを脱退し、核危機が出現した。米朝枠
   組み合意により一応の危機は回避できた。
    米国は、この危機に対して海上封鎖、さらには核施設へのピンポイント攻撃までも検討の俎上にのせた。この時、
   日本は初めて朝鮮有事を現実の問題としてとらえ、あらゆる事態を想定した危機管理の検討に着手したのである。例
   えば、「海上封鎖時の米艦船に対する協力(燃料補給や民間港湾・空港使用)」「大量難民の受入態勢」「原発等へ
   のテロ対応」等が検討対象だった。然しながら、検討が具体化されることはなかったが、次項の政府が提示した事例
   に該当する内容もあったのである。
   ② 北朝鮮の弾道ミサイル発射への対応
    累次のミサイル危機の際にも、日米の集団的自衛権行使の制約が足枷となることが指摘された。



2 改正の方向

(1)集団的自衛権の限定容認=存立危機事態を追加
  日本有事の事態は、従来は「武力攻撃事態等」(武力攻撃事態、同予測事態)のみであったが、存立危機事態への対処
 を事態対処法に追加規定すると共に、関連法令を改正する。
  ア 存立危機事態の定義
    我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自
   由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
  イ 例示
    2007年の安保法制懇報告書及び政府が2014年5月に示した15事例のうち、集団的自衛権に係る事例は以下の通りであ
   る。(①②は2007年報告書の4類型の2)
   ①公海における米艦の防護
   ②米国に向かうかもしれない弾道ミサイルの迎撃
   ③邦人輸送中の米輸送艦の防護
   ④武力攻撃を受けている米艦の防護
   ⑤強制的な停船検査
   ⑥米国に向け我が国上空を横切る弾道ミサイル迎撃
   ⑦弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護
   ⑧米本土が武力攻撃を受け、我が国近隣で作戦を行う時の米艦防護
   ⑨国際的な機雷掃海活動への参加
   ⑩民間船舶の国際共同護衛

  ウ 新3要件
    従来の武力行使の要件を見直す形で、従来の憲法解釈との法的整合性を図り、1972年の政府見解の一部を盛り込
   んだ案で、自公両党が合意し、見直し案が確定した。政府は団的自衛権の行使を認める政府の閣議決定案の根幹である。
    従来の「自衛権発動の3 要件」と閣議決定された「新3 要件」
    〇自衛権発動の3 要件 (旧)
     ①我が国に対する急迫不正の侵害があること、すなわち我が国に対する武力攻撃が発生したこと
     ②この場合にこれを排除するために他の適当な手段がないこと
     ③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
    〇自衛の措置としての武力の行使の新3 要件(新)
     ①我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これ
      により我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
     ②これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
     ③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
    特に①については72年の政府見解を直接引く形で、日本に加えて他国に対する武力行使も前提に「我が国の存立が
   脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがある」ことを新たな要件とした。「他国
   に対する武力攻撃」を加えた点が、集団的自衛権の行使を認めることにあたる。

(2)事態対処法の改正
  ①事態対処法の「目的」に存立危機事態を追加
   武力攻撃事態等及び存立危機事態への・・・・
  ②対処基本方針の項に、武力攻撃事態又は存立危機事態と認定する場合に武力の行使が必要な理由についても記述する。
  ③国会承認    現行規定同様、原則国会の事前承認を要する。
(3)自衛隊法の改正
  ①自衛隊の任務 「直接侵略及び間接侵略に対し」の文言を削除
  ②防衛出動(76条) 二項として存立危機事態を追加
  ③防衛出動時の武力行使 改正なし
   「武力行使に際しては、国際の法規慣例によるべき場合にあってはこれを遵守し、且つ、事態に応じ合理的に必要と
   判断される限度を超えてはならないものとする。」
  ④その他 存立危機事態時に適用するもの、適用しないものを明示
(4)その他
  ①米軍行動関連措置法  米軍以外の外国軍隊に対する支援も
  ②海上輸送規制法    存立危機事態を適用追加、実施海域の拡大
  ③捕虜取扱い法     存立危機事態にも適用
  ④国民保護法      N/C
  ⑤特定公共施設利用法  米軍以外も対象に追加
  ⑥国際人道法違反処罰法 存立危機事態での適用あるも改正不要



3 論点等

(1)解釈改憲は立憲主義の否定ではないのか
   合理的な解釈の限界を超えるのもではない。従前の政府見解の論理の枠内における合理的な当てはめ
(2)憲法改正の要は?
   必要最小限の自衛の措置を行うと云う憲法解釈の基本的考えを何ら変えるものではない。
(3)十分な議論は?
   第一次安倍内閣以来種々議論されてきているが、今回も充分に議論し、国民の理解を得る必要ある。
(4)憲法の平和主義との関係
   聊かも変えるものではない。
(5)歯止めが曖昧では?
   新3要件が憲法上の歯止め、国会の事前承認が条件である。
(6)新3要件①の「存立危機」の事態認定基準、時の政府が恣意的に判断するのではないか? 
   現実に発生した事態の個別・具体的な状況に即して、各種要素を総合的に勘案して、蓋然性、事態の深刻性、重大性
  等から新3要件を満たすかどうかを客観的合理的に判断する。
(7)エネルギー危機等の経済的重大な事態は、存立危機事態か?
   それのみをもって認定するのではない。
(8)ホルムズ海峡への機雷敷設は存立危機事態か?
   明白な危険はあるが、新3要件に当てはまるか否かはその事態の状況や国際的な状況を考慮して判断
(9)機雷除去は武力行使では
   自由航行確保のための機雷除去は武力行使であるが、受動的・限定的であり、性格が異なる。戦闘行為が行われてい
  る場所への派遣は想定していない。
(10)米国の戦争への巻き込まれ論
   あくまでも日本の存立危機時に発動、自動的に発動するものではなく、日本が主体的に判断、万全の態勢を構築して
  抑止力を高めることがより重要
(11)個別的自衛権等で対応可能では?
   我が国に対する武力攻撃がなければ個別的自衛権で対応できない。本来集団的自衛権で対応すべきを個別的自衛権で
  対応すれば国際法違反にもなり得る。
(12)海外派兵の禁止との関係は
    所謂武力行使を目的とした海外派兵を行わないのは、従前と同じ
(13)他国の領土、領海、領空での集団的自衛権行使について
    新3要件を満たせば、他国領域での行使が許されない訳ではない。(政府答弁書)
(14)フル容認は
    必要最小限度との現行憲法解釈の範囲内では限定容認である。
(15)ミサイル基地攻撃について
    自国に対するミサイル発射であると判断される場合は、個別的自衛権で対応可能、新3要件に該当すれば敵ミサイル
   基地攻撃が可能



参考
 「集団的自衛権と憲法との関係に関する政府資料」(昭和47年(1972年)10月14日参
 議院決算委員会提出資料)
「憲法は、第9条において、同条にいわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているが、前文において「全世界の国民が・・・平和のうちに生存する権利を有する」ことを確認し、また、第13条において「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、・・・国政の上で、最大の尊重を必要とする」旨を定めていることからも、わが国がみずからの存立を全うし国民が平和のうちに生存することまでも放棄していないことは明らかであって、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない。しかしながら、だからといって、平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであって、それは、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべきものである。そうだとすれば、わが憲法の下で武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。」

(了)