山下塾第5弾

山下 輝男

第二十六話「平和安全法制の概要(完)課題:より良き法整備を目指して!」

 今次平和安全法制に係る法整備の課題は、従来の憲法解釈等の経緯もあって、全体として極めて抑制的である、即ち、武力行使との一体化論から脱却できなかったこと、集団的自衛権が限定容認となったこと、更には、積極平和主義を標榜する割には踏み込み不足ということである。
 政治的には、止むを得ないとは思うが、長年あるべきものを求めてきたものとしては、評価はするものの、残念な気もする。
 国民理解を十分に得た法整備であるべきだが、事態区分が多く、認定基準や要件等複雑過ぎて理解が進んでいるとも言い難い。
 現在の憲法解釈の延長線でなければならず、それに合致させるためにガラス細工のような精緻な論理を必要としており、多分これが限界なのであろう。
 国会論戦を聞いても、事態区分の不明瞭さ等を追求し、答弁の矛盾点を敢えて浮き彫りにする戦術に終始し、日本の安全の為に、国際平和のために如何にすべきかとの建設的な議論がないのは寂しい限りである。日本独特の論理は欧米からは理解困難なのではないだろうか。
 事態や事例を事細かに例示し、明らかにするように求めたとしても、それには限界があり、また現実の事態は事前に検討した通りには出現しないし、推移しない。そのような検討や追求に血道を上げるのは間違っているとは云わぬが、机上の空論に過ぎぬ。
 予め、自らの手足を縛って、フリーハンドの余地を狭くするのは賢明ではない。日本国民は賢明である。事態発生時の状況を国民に開示すれば正しい判断が為されるはずだし、もっと国民を信頼し、その国民から負託を受けた自らの見識を信ずるべきではないか。
 本話は、今次平和安全法制成立後を見据えて、将来的な課題を幾つか提起したい。



1 武力行使との一体化

(1)武力行使との一体化論の概念
 ア 「武力行使との一体化論」とは
   仮に自らは直接「武力の行使」をしていないとしても、他の者が行う「武力の行使」への関与の密接性等から、
  我が国も「武力の行使」をしたとの法的評価を受ける場合があり得る」とする考え方である。
   一体化を判断する際の考慮事項としては、①戦闘活動が行われている、または行われようとしている地点と当
  該行動がなされる場所との地理的関係 ②当該行動等の具体的内容、 ③他国の武力の行使の任に当たる者との
  関係の密接性 ④協力しようとする相手の活動の現況等 の諸般の事情を総合的に勘案して、個々に判断すべき
  ものとされている。
 イ 武力行使の一体化論の根拠
   武力行使を行う他国の軍隊に対する支援について、憲法第9 条において許されるものと許されないものを分け
  たのが、武力行使一体化論である。憲法上、明文規定がある訳ではない。勿論、国際法上も実定法上に明文の規
  定を持たないし、最高裁判所による司法判断もない。一体化論については、数々の政府の解釈が示され、この解
  釈に基づいて憲法第9 条で許容される範囲で他国に対する支援を規定する国内法が制定されてきた。

(2)法整備における武力行使一体化論回避のための措置等
   今迄の、国際連合平和協力法案(廃案)、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法案、周辺事態安全確
  保法案、テロ対策特別措置法案及びイラク人道復興支援特別措置法案の国会審議の際にも、しばしば問題になっ
  たが、「武力行使の一体化」論は、後方支援が如何なる場合に他国による武力の行使と一体化すると見做すのか、
  その判断を誰が行うのか、「戦闘地域」と「非戦闘地域」の区分は何か等の議論に終始した。
  今次法制整備においても、武力行使との一体化論は引き継がれているが、微妙に地域的に拡大されている。
   ①重要影響事態における後方支援活動等
    一体化の回避の為に、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない。」こととし、一時休止等及び中
   断に関する措置を明確にした。
   ②国際平和共同対処事態における諸外国軍隊に対する協力支援活動
    前項と同様の規定

(3)課題は斯様な観念的概念を持ち出さざるを得ないことである。
   戦闘は流動的であり、前線後方の区分は観念としてはあったとしても、それを明確に区分することが現実的に
  出来るのかどうか極めて疑問である。自衛隊が派遣される所が現に戦闘が行われていない現場であると強弁する
  のはどうだろうか?
   確かに、従来の武力行使との一体化論に関する解釈を維持するためには、このような観念を持ち出さざるを得
  ないのは理解できる。政治的にはそうでなければ堪え切れないだろう。

(4)武力行使との一体化論からの脱却を!
  武力行使との一体化論は、海外における自衛隊の活動を国内政治的に認めさせるために一定の役割を果たしてき
 たのは事実である。然しながら、自衛隊は幾多の経験を積み、国際情勢からも日本に対する期待も高まり、日本と
 して国際的に応分の責任を果たすためにも、憲法上や実定法上に明文規定のない「武力行使との一体化」論は放擲
 すべきである。精緻な論理構成、ガラス細工のような論理に振り回されるのは如何なものか?
  フルに後方支援を可能とし、どのような支援をどのようにすべきかは、当時の政策判断に任せればいい。勿論政
 府の恣意的判断に陥らぬように、国会の適切な関与は必要である。

 参考 武力の行使と武器の使用
  国会論戦で物議を醸した「武力の行使」と「武器の使用」の差
  政府見解を整理すれば、
  武器の使用とは、「火器、火薬類、刀剣類その他人を殺傷する道具などを用いること」を云う。
  武力の行使とは、「国家の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為である。」を云う。



2 特異なる存立危機事態の設定

(1)日本独特の存立危機事態の設定
  昨年7月の閣議決定で認められ、今次安保関連法制整備においては、事態対処法に武力攻撃事態等と併記された
 存立危機事態は、集団的自衛権の行使を可能とする内容ではあるが、極めて日本的な論理に彩られている。
  一般的な意味における「自国と密接な関係のある他国に対する攻撃を自国に対する攻撃と見做して自衛権を行使
 する。」という集団的自衛権の行使をフルスペックとすれば、存立危機事態は、“他国への武力攻撃で国民の幸福
 追求の権利などが根底から覆される明白な危険がある場合”と極めて限定的にとらえ、それを存立危機事態と設定
 した限定容認である。

(2)限定容認からフル容認への転換を!
  限定容認の厳しすぎる認定基準は、果たして現実的であろうか?これでは集団的自衛権の行使は不可能ではない
 かと思われる。柔軟性をもって、幅広な行使が可能となるような認定基準とすべきだ。勿論、認定基準に合致すれ
 ば、直ちに集団的自衛権を行使するというのではない。そこには国会の関与が担保されており、問題はなかろう。
  武力攻撃を受けた友好国が、我が国に対して来援を求めたとしても、存立危機事態に該当しないので、武力の行
 使は出来ないと断るような事態が惹起するならば、日本に対する国際的な信頼は地に落ちよう。
  行使できないような権利を設定することに如何ほどのメリットがあろうか?デメリットのみである。
  法律上はフルに容認できる態勢にして、実際の行使はその時の状況に応じて、国民と国会の判断に従うというこ
 とにすれば十分ではないか?



3 積極平和主義と自衛隊の役割について

(1)積極平和主義とは
  2013(H25)年12月17日国家安全保障会議を経て閣議決定された「国家安全保障戦略」(NSS)において、「国際政治
 経済の主要プレーヤーとして、国際協調主義に基づく積極平和主義の立場から・・・」(3頁)と積極平和主義を国
 家安全保障戦略の中核に位置付けている。
  積極平和主義とはかくなるものであるとの明確な定義は述べられていないが、次のようにまとめられよう。
 「国際政治経済の主要プレーヤーとして、国際協調主義の下、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を
 実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保に積極的に寄与しようという国家安全保障の基本理念」である。
 英語では、Proactive Contribution to Peaceと訳される。

(2)積極平和主義を達成するための目標
  目標としては、次の3つの挙げることが出来る。
  第1の目標は、我が国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために、必要な抑止力を強化し、我が国に直
 接脅威が及ぶことを防止するとともに、万が一脅威が及ぶ場合には、これを排除し、かつ被害を最小化すること。
  第2の目標は、日米同盟の強化、域内外のパートナーとの信頼・協力関係の強化、実際的な安全保障協力の推進
 により、アジア太平洋地域の安全保障環境を改善し、我が国に対する直接的な脅威の発生を予防し、削減すること。
  第3の目標は、不断の外交努力や更なる人的貢献により、普遍的価値やルールに基づく国際秩序の強化、紛争の
 解決に主導的な役割を果たし、グローバルな安全保障環境を改善し、平和で安定し、繁栄する国際社会を構築すること。

(3)積極平和主義を行うためにとるべき政策
  積極平和主義を具体化する政策目標には以下の6項目がある。①日本の能力・役割の強化・拡大 ②日米同盟の
 強化 ③国際社会の平和と安定のためのパートナーとの外交・安全保障協力の強化 ④国際社会の平和と安定のた
 めの国際的努力への積極的寄与 ⑤地球規模課題解決のための普遍的価値を通じた協力強化 ⑥国家安全保障を支
 える国内基盤の強化と内外における理解促進である。
  特に④項の「国際社会の平和と安定のための国際的努力への積極的寄与」において、具体的に如何なる活動を行
 うかが問われよう。
  ハード、ソフト両面の方策があるが、ハードの部分では自衛隊を積極平和主義の立場から如何に運用するかを真
 剣に検討する必要がある。

(4)軍事的貢献は?
  後方支援すら議論のあるところであり、まして軍事的な貢献をすべきだなどと表明したら、早速に憲法違反と謗
 られよう。
  軍事的措置を伴う国連の集団安全保障措置への参加については、これまでの政府の憲法解釈では、正規の国連軍
 については研究中としながらも、いわゆる国連多国籍軍の場合は、武力の行使につながる可能性のある行為として、
 憲法第9条違反のおそれがあるとされてきた。
  しかしながら、憲法第9条が国連の集団安全保障措置への我が国の参加までも禁じていると解釈することは適当
 ではなく、国連の集団安全保障措置は、我が国が当事国である国際紛争を解決する手段としての武力の行使に当た
 らず、憲法上の制約はないと解釈すべきである。
  国連安全保障理事会決議等による集団安全保障措置への参加は、国際社会における責務でもあり、憲法が国際協
 調主義を根本原則とし、憲法第98条が国際法規の誠実な遵守を定めていることからも、我が国として主体的な判断
 を行うことを前提に、積極的に貢献すべきであろう。

 参考 4つの事態一覧表 

事態 定義 対応 法律
武力攻撃事態等 日本への武力攻撃が発生または発生する明白な危険が切迫している事態 個別的自衛権の行使 事態対処法の改正
存立危機事態 我が国と密接な関係にある他国が攻撃を受け、日本の存立が脅かされ、国民の生命などが根底から覆される明白な危険がある事態 集団的自衛権の行使
重要影響事態 日本の平和と安全に重要な影響を与える事態 米軍など他国軍を後方支援 重要影響事態安全確保法(周辺事態法を改正)
国際平和共同対処事態 国際社会の平和と安全を脅かす事態 国際平和支援法(新設)



4 自衛隊の抑制的活用は是か?

(1)論争の本質は
  今次平和安全法制の整備においても、従来の憲法解釈や政府答弁等の枠内での改正となったために、自衛隊の運
 用について、相変わらずの抑制的活用となっている。その最たるものが、上述2項の武力行使との一体化論と集団的
 自衛権の限定容認のために設けられた存立危機事態論である。それ以外にも、存立危機事態でも議論されている
 敵基地攻撃の可否論、地理的範囲を可能な限り限定しようとする考えであり、自衛隊を運用する事態を務めて類型
 化し、その類型化された以外には運用させまいとする動き等枚挙に暇がない位だ。正に日本的論理のオンパレード
 である。
  国会論戦は、詰まる所、自衛隊を務めて抑制的・限定的にしたいと目論む野党と可能な限りフリーハンドを持ち
 たいとする与党の鬩ぎあいの様相となっている。

(2)自衛隊をどう認識するかの差異に起因する論争
  現行及び審議中の新たな法制度においても、自衛隊の行動については、「事態」を明確に区分したうえで、「対
 応措置」を規定している。自衛隊は規定されていない行動は採れないということでもある。自衛隊に係る法律がポ
 ジリスト方式であると云われる所以である。自衛隊が国家行政組織であれば、法治主義の立場からも、警察と同様
 にポジリスト方式であって当然ではあるが、自衛隊は列国で云えば軍隊に相当するのであり、自衛隊の行う対外作
 用は、ポジリスト方式で規定するのが国際標準だ。
  防衛出動時の武力行使にですら、ポジリスト方式である。勿論、内容的に国際の法規慣例の順守や必要な武力行
 使を行うことが出来る等のネガリスト的要素を加味しているが、今次法制の整備では、そこまでも踏み込んでいない。

(3)あるべき規定の方式
  自衛隊の行う対外的作用に関する規定の方式をポジリスト方式からネガリスト方式に転換する必要がある。警察的
 作用に関しては、国民が対象であり、国民の権利・義務に関係するので、今までのようなポジリスト方式で規定する
 必要があるのは言うまでもない。
  自衛隊の行動を規定する法規が、武力紛争法や国際人道法の戦時国際法であり、国際法で禁止される事項以外の行
 為は原則として、自由になし得るようにする必要がある。
  戦時国際法等のうち曖昧なものについては、それを国家の責任において明確にする必要はあろう。



5 事態の例示・類型化の陥穽等

  重要影響事態、存立危機事態等を解り易く説明するために、政府与党は相当の数の例を提示した。理解促進という
 面では、事態を類型化し例示することは有益であるが、幾つかの問題点がある。
  ①例示された事態にしか適用されないのだと思い込む危険性
  ②将来起こりうる事態を正確に予測し得ないことによる混乱
  ③小さい相違点等を論っての非本質的議論の惹起
  従って、事態の定義が重要であり、当時の状況に応じ、事態認定基準に合致するか否かを判断すればいいのである。
 事態の例示や類型化は頭の体操には有益であるが、所詮それだけのことである。
  尤も、存立危機事態の認定基準のように厳しすぎるのも如何かと思わざるを得ない。
  また、その文言を巡っての神学論争が起きることも危惧するが、杞憂であろうか?



6 国民の良識を信頼すべし

  自衛隊を如何に運用するかは、国権の最高機関である国会の責務である。仮に時の政権が恣意的に運用しようと
 しても、国会が適切に関与すれば、それを是正出来る筈だ。
  何を善とするかの判断は難しいが、少なくとも政策的には、国会が判断した内容が善であり、正しい判断である。
  そういう意味においては、変転極まりなき情勢や事態の推移に適切に対応して自衛隊を運用する最終判断を国会
 に与えることは重要なことだ。
  大枠は法律で決めるとしても、現実の運用は国会の関与に任せればよい。政府が大事な情報を出さないというが、
 そうだろうか?国民の信頼を得られない政権は雲散霧消しよう。もっと国民の良識を信じるべきではないか?
  国民世論と国会を信頼することが基本である。敢えて言うが、自衛隊が独走・暴走することは有り得ないし、日
 本の社会は成熟しているものと確信している。この2点を信じられぬ者が抑制的・抑制的にと狂奔しているのだろう。



7 終わりに

(1)早期の成立を期待する。
  憲政記念館で実施された第44回呉竹会アジアフォーラムに縁あって参加した。宮崎正弘先生が「米国を追撃する中露の
 野望」と題して講演された。その詳細についての説明は割愛する。中国は自信過剰気味で傲慢になりつつあり、行き詰ま
 る可能性すらあるようだ。若し仮に、そうなった場合には、我が国の安全保障に大きい影響を及ぼすことは明白だ。
  ①軍事革命が起きるやもしれぬ。はたまた、共産党内部における宮廷革命もない訳ではなかろう。
  ②中国は伝統的に国内不安の眼を外部に向けさせてきたが、そのような可能性を考慮しておくことが必要だ。現在進出し
   つつある南シナ海正面での更なる強硬な行動を起こす。或いは、懲罰名目での武力侵攻等があり得る。当然東シナ海正
   面も要警戒だ。
  ③大量の難民発生と日本への大挙押掛け、難民の中に武装した工作員等が紛れ込んでいないという保証もなく、海保や警
   察、入管当局だけでは対応できないだろう。
  このようなシナリオに如何に対応するか?
  現在の平和安全法制で云う重要影響事態が惹起する可能性が高い、また所謂グレーゾーン事態も当然起こるだろう。
  早期に平和安全法制を成立させて、切れ目のない体制を速やかに構築する必要がある。
(2)抜本的な方向を模索
  我が国の安保関連法制には今迄にも、そして今次法制が成立しても幾多の問題点がある。問題点の源泉は憲法第9条にあ
 る。これらの問題点を解決するには、憲法の改正しかないのだろう。憲法に自衛隊を明確に軍事組織として位置付け、緊
 急事態・非常事態に関する明文規定を設け、軍事組織刑法を確立し、国家防衛に任ずる自衛官に名誉と相応しい処遇を与
 えなければならない。そうなった時にこそ日本の戦後は終わる。

(了)