山下塾第5弾

山下 輝男

第二十九話「ミサイル防衛の決断と充実」

 我が国上空を飛び越えて太平洋に着水した北朝鮮のミサイル発射に、我が国は朝野共に、ミサイル防衛の必要性・重要性を理解した。以後、着実にBMDシステムの整備を図り、それなりに充実してきたが、ミサイルも日進月歩の進歩を遂げつつあり、更なるBMD能力向上が求められている。技術的可能性、費用対効果、敵基地攻撃論や集団的自衛権の課題もあり、目が離せない。現状と課題を瞥見したい。 


1 現代戦におけるミサイル防衛の重要性
(1)現代戦におけるミサイル
(2)中国及び北朝鮮のミサイルの概要
  日本をターゲットとするミサイルは中距離弾道ミサイルであり、射程が1000~5500km、再突入時の速度がマッハ8~21
 で、飛翔時間は10~20分(目標を東京とした場合)、弾体直径や全長は、テポドンの場合は、直径2.4m、全長30mである。
  探知してから着弾までは、7分程度の余裕しかない。
  ア 北朝鮮

   ノドンミサイルは、実戦配備されていると考えられ、車両搭載可能であり、山岳地域に建設されたと言われる地下施設
  で発射待機をしていると推測されている。発射された場合、目標が日本なら6~11分程度で日本各地へ着弾するとされる。
  射程は同型の実績を含めると、1300km~2000kmとなり日本の大部分が射程となる。弾頭はペイロードに合わせて高性能
  爆薬・核・生物化学兵器が選択可能である。
   詳細は不明であるが、発射基数は50以下、ミサイル数は200~300発と推定されている。
   IRBMであるムスダンの場合、我が国のみならずグアムまでが射程内にあると思われる。

  イ 中国

   わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収めるIRBM/MRBMについては、液体燃料推進方式のDF-3のほか、TELに搭載され
  移動して運用される固体燃料推進方式のDF-21も配備されており、これらのミサイルは、核を搭載することが可能である。
   中国はDF-21を基にした命中精度の高い通常弾頭の弾道ミサイルを保有しており、空母などの洋上の艦艇を攻撃する
  ための通常弾頭の対艦攻撃弾道ミサイル(ASBM:Anti-Ship Ballistic Missile)を配備しているとの指摘もある。
   また、中国は、IRBM/MRBMに加えて、射程1,500km以上の巡航ミサイルであるDH-10(CJ-10)のほか、核兵器や巡航
  ミサイルを搭載可能なH-6(Tu-16)爆撃機を保有しており、これらは、弾道ミサイル戦力を補完し、わが国を含むアジア
  太平洋地域を射程に収める戦力となるとみられている。
   SRBMについては、固体燃料推進方式のDF-15およびDF-11を多数保有し、台湾正面に配備しており21、わが国固有の領土
  である尖閣諸島を含む南西諸島の一部もその射程に入っているとみられている。
   一方、中国は10(同22)年および13(同25)年1月に、ミッドコース段階におけるミサイル迎撃技術の実験を行ったと
  発表しており、中国による弾道ミサイル防衛の今後の動向が注目される。
   中国は、米軍特に米空母機動打撃群の接近阻止戦略の切り札として、ミサイルの開発を重視している。対艦攻撃弾道
  ミサイルから如何に防護すべきかが課題である。


2 日本のミサイル防衛の経緯概観
 我が国で、ミサイル防衛に関する本格的な論議を齎したのは、北朝鮮による弾道ミサイルテポドンの発射である。1998(H10)年8月31日、人工衛星と称するテポドンミサイルと思われるミサイルを発射、第一段目は日本海に着水、第二段目以降は我が国の東北地方を飛び越えて、太平洋上に着水したのである。この事件以前においても防空システムにあり方に関する研究等が為されていたが、本事件を契機に弾道ミサイル防衛の研究や態勢整備に拍車がかかったのは事実だ。
 その経緯を見てみよう。
 ①1998(H10)年11月 弾道ミサイルに関する情報収集のために偵察衛星の導入決定
 ②同年12月25日:米国のミサイル防衛システム導入の共同研究決定(安保会議)
 ③2003(H15)年12月:弾道ミサイル整備についての閣議決定(BMD整備開始)
 ④2005(H17)年:自衛隊法改正(弾道ミサイル等に関する破壊措置)
 ⑤2007(H19)年:ペトリオットPAC-3の部隊配備、イージス艦によるSM-3発射試験
 北朝鮮は、2006(H18)年、2009(21)年、2012(H24)及び2014(H26)年と継続的に弾道ミサイルを発射して、威嚇を繰り
 返した。これらに対して、我が国は、破壊措置命令を発令して備えたが、実際に射撃するには至らなかった。


3 我が国のミサイル防衛の現状
(1)ミサイルの飛翔過程
  弾道ミサイルの飛翔過程は、①ミサイルが発射されてからのブースターが延焼し終えるまでの「ブースト段階」
 ②ブースター終了後に宇宙空間を慣性飛行しながら大気圏に再突入するまでの「ミッドコース段階」③大気圏に再突入
 してから目標に着弾するまでの「ターミナル段階」の3段階に区分される。
  本来であれば、ブースト段階からターミナル段階の各段階における迎撃システムを準備すべきであろうが、個別的自衛権
 の範疇外となる懸念もあり、我が国としては現時点では採用していない。

(2)ミサイル防衛の基本的考え:多層防衛
  我が国のBMDシステムは、飛来する弾道ミサイルを、地上配備型レーダー[FPS-5]とイージス艦搭載の[SPY-1]レーダー
 で探知、海上配備型迎撃ミサイル(SM-3)(射程数百Km、20億円)を搭載したイージス艦によりミッドコース段階において、
 地上配備型迎撃ミサイル(PAC-3)(射程数十km)(1発5億円)によりターミナル段階において、それぞれ迎撃する多層的
 なシステムを採用している。云わば、「2段階迎撃」構想である。
  尚、米軍においては、ターミナル段階において、大気圏上層(成層圏)での撃墜は、THAADミサイルが担うことになるが、
 我が国はこのシステムの導入の可否は未定である。
  多層防衛のイメージ図を防衛白書に見てみよう。

  (平成26年版防衛白書から転載)

(3)BMDシステムの現状等
  BMDシステムは、指揮・統制システム、警戒・監視システム、迎撃システム、情報収集システムから構成される。
  ア 指揮
    我が国のミサイル防衛作戦は、航空自衛隊航空総隊司令官が兼務するBMD統合任務部隊指揮官によって一元的に指揮
   される。
    総隊司令部は、2012(H24)年3月府中から横田に移駐し、日米共同の更なる向上が図られた。日米共同の調整所・作戦
   センターで日米が勤務することにより、情報の共有、認識の同一及び意思の疎通が図られ、一刻を争う作戦においては
   極めて重要である。
  イ 管制・通信システム
    ミサイル防衛網の基幹回線として新自動警戒管制システム(JADGE)が運用され、早期警戒衛星や警戒管制レーダーで
   捕捉された弾道ミサイル情報は、このシステムにより各迎撃部隊に伝えられる。
  ウ 警戒・監視システム
    早期警戒衛星、ミサイル監視機及び警戒管制レーダーにより、弾道ミサイルに係る情報が収集される。
    ミサイル発射を最初に補足するのは米国の早期警戒衛星である。日本の情報収集衛星はリアルタイムの情報収集は
   不可能であり、米国に依存せざるを得ない。米国の北米宇宙防衛司令部の情報は直ちに通報される。イージス艦や
   AWACSは当然だが、官邸へも理想状態で1分であると云われている。
    在日米軍は、RC-135やWC-135などを展開させている。我が国はAWACSを保有しているが、より遠方から高精度に
   探知可能となるような日本独自のミサイル監視機を開発すべく努力中である。
    J/FPS-5(通称ガメラレーダー)が、大湊、佐渡、下甑島及び与座岳の4基地に配置されている。航空機による領空侵犯
   とミサイル防衛の双方に対応できる併用レーダーであり、数千キロとも云われる優れた長距離探知能力を有し、発射直後
   のミサイルを探知できる。アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーである。
    米軍は、弾道ミサイルの発射を探知・追尾する早期警戒レーダーシステム「Xバンドレーダー」を、国内配備は青森県
   つがる市(車力分屯基地)及び京都府丹後市(経ヶ岬通信所)に配置している。
  エ 迎撃システム
   〇イージスBMD
    6隻保有しているイージス艦のうち、「こんごう」「ちょうかい」「みょうこう」「きりしま」の4隻に、海上配備型
   迎撃ミサイル(SM-3)が搭載されている。今後、「あたご型」2隻へのBMD能力を付与すると共に、イージス能力を有する
   イージス艦2隻を増勢して8隻体制とする。

   〇ペトリオットPAC-3
    当初は3個高射群(第1(入間)・第2(春日)・第4(岐阜)に限定して配備する計画であったが、北朝鮮の弾道
   ミサイルの脅威に対応すべく他の3個高射群にも配備することとし、現在では、全高射部隊にPAC-3を分散配置している。

(4)研究開発等
  ア 能力向上型PAC-3の搭載
  イ 自動警戒管制システムの能力向上、FPS-7固定式警戒管制レーダーの能力向上等
  ウ BMD用能力向上型迎撃ミサイルの日米共同研究


4 米国・米軍とのミサイル防衛と日本
 弾道ミサイル防衛における日米共同については、集団的自衛権の絡みで種々議論されているが、我が国及び周辺における米軍のミサイル防衛の状況を簡単に見てみたい。
 米国は、弾道ミサイルの飛翔経路上の各段階に適した防衛システムを組み合わせ、相互に補って対応する多層防衛システムを構築している。
日米両国は、弾道ミサイル防衛に関して緊密な連携を図ってきており、米国保有のミサイル防衛システムの一部が、わが国に段階的に配備されている。
 ①米軍車力通信所にTPY-2レーダー(いわゆる「Xバンド・レーダー」)が配備
 ②空自経ヶ岬分屯基地にTPY-2レーダー追加配備
 ③BMD能力搭載イージス艦が、我が国及びその周辺に前方展開
  米第7艦隊のイージス艦は9隻であり、そのうち5隻がBMD対応艦であるが、国防長官は、BMD対応艦2隻を追加配備すると
  言明した。9隻中7隻が対応艦となるのだろう。最新鋭の迎撃システムを備えたミサイル駆逐艦(イージス艦)が2015年
  及び2017年に配備されるか?
 ④嘉手納飛行場などにペトリオットPAC-3の配備
 ⑤三沢飛行場に統合戦術地上ステーション(JTAGS)を配備

 米韓協議について
  韓国は、世宗大王級駆逐艦と呼ぶイージス艦を二隻保有し、一隻は建造中である。このイージス艦には、色々な問題点
 が指摘されている。日米韓の連携が適切になされるのか懸念がある。
  米国は、移動式地上配備型迎撃システム「ターミナル高高度防衛ミサイル(THAAD)」を韓国に配置する計画であるが、
 中国が横槍を入れているようだ。THAADのレーダーは、日米の防衛態勢の強化になると思われる。


5 ミサイル防衛に関する論点
(1)実現可能性と費用対効果
  高速で飛翔する弾道ミサイルを迎撃するのは、至難の業である。極めて好条件下での実験結果を基礎とすることの懸念
 も表されている。弾道ミサイルの迎撃回避措置(デコイや多弾頭化)が進化し、まして多数のミサイルが飛翔する状況で
 はミサイル防衛は不可能に近いとの意見もある。
  更に、技術的には可能だとしても、その為に要する費用を考えると費用対効果が低いのではないかとの懸念である。
  然しながら、他に有効な手段がないのであれば、難しくともチャレンジすべきであり、ミサイルの着弾を許した場合
 には甚大な被害を及ぼす可能性もあるので、対応せざるを得ない。費用対効果の問題ではないとも云える。相手国に対
 する抑止効果はあろう。全ての防護対象は困難だとしても緊要な防護対象は防護できる可能性がある筈だ。
  確かに、そして2004年(平成16年)度から、2009(平成21)年までは1,000億円から2,000億円の近い予算、事後は
 数百億円の予算を計上して、ミサイル防衛体制の構築と研究開発を続けている。因みに、平成26年度予算では、弾道
 ミサイル防衛関連経費として606億円が計上されている。内訳は、イージス艦の能力向上(2隻:103億円)、
 PAC-3ミサイルの取得(116億円)、BMD用能力向上型迎撃ミサイル(SM-3BlockⅡA)の日米共同開発
 (52億円)、PAC-3部隊の市ヶ谷における展開基盤等整備(17億円)、固定式警戒管制レーダーの換装
 (FPS-7)及びBMD対処機能の付加、将来の弾道ミサイル迎撃体制についての調査研究(0.4億円)である。
  厳しい財政事情を反映して、防衛予算が伸び悩む中、新たな経費として相応の予算が充当されていることは、それは
 それで必要ではあるが、他の予算を圧迫することとなっている。政治はその辺を考慮して決断して頂きたいものである。

(2)敵基地攻撃論
  ミサイル防衛について、敵ミサイルが発射される直前或いは第一撃を受けた後に、更なるミサイル発射を行わせない
 ために、ミサイル発射場などの敵基地を攻撃するかどうか、国会でも度々議論されてきた。
  この議論には二つの側面がある。法理的に自衛権が発動できるかどうかという点と敵基地をたたくような装備を保有
 しているかどうかという面である。
  前者について云えば、「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨」ではなく、「・・他に手段がないと認め
 られる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲である」と解釈されてきた。
  自衛隊の能力上出来ないと云うのではなく、政策判断上そのような装備システムを持たないと決めたということである。
  敵基地攻撃能力とは、F35のようなステルス機による爆撃や巡航ミサイルといった打撃力を使い、敵国内のミサイル
 発射装置などを破壊する能力である。伝えられるところでは、防衛省と米防総省は現在、担当者レベルで自衛隊による
 能力保有の是非や可能性について研究、議論をしている。東アジアの軍事バランスを崩しかねないとの懸念が米国政府
 にはあるとも云われる。米国の抑止力或いは矛としての信頼性がどの程度かとの懸念もある。自らが矛たる武器を持つ
 必要性に係る論議も加速されよう。トマホークのような巡航ミサイルやF35のようなステルス性能の高い戦闘機の保有
 と運用が議論がされてよい。
  敵地攻撃論に類似した論議として、先制敵基地攻撃論がある。所謂敵基地攻撃論が第一撃を受けた後の反撃(明らか
 に我が国を標的として発射準備をしているとの徴候をも含む。)であるが、この先制論は、事前に芽を摘み取ろうと
 するものであり、純軍事的には有り得たとしても、我が国の今迄の国是からは採りえないであろう。

(3)中国のミサイル攻撃対応
  当面のミサイル防衛の焦点は、明らかに北朝鮮の弾道ミサイルであるが、南西諸島域におけるミサイル防衛も忽せに出来ない。
  大陸近縁部に位置して、中国の進出ラインである所謂第一列島線にある我が国としては、日本列島全体を不沈空母と化して、
 太平洋に進出する中国艦船や潜水艦を阻止すると共に、来援する米機動打撃部隊の日本来援を容易ならしめる必要がある。
  大気圏を含む我が国上空を飛翔するミサイルを有効に阻止できれば来援は容易になり、日本防衛は、容易になろう。
  そういう意味において、米軍との連携は勿論、我が国としても地上配備型の高性能型のSAM-3、或いはTHAADの導入も
 検討課題となろう。
  先般、我が国の情報収集衛星の打ち上げが成功したが、情報収集能力の更なる向上も必要となろう。米軍との調整も
 必要だが、リアルタイムでの情報収集ができるような早期警戒衛星も必要だ。基地や重要施設等の防護力・抗堪性の
 向上も課題だ。
  衛星については、過日(2015/3/24)、中国が、2007年1月に続き、昨年7月に人工衛星を破壊する実験を実施して
 ミサイルを発射したものの、命中しなかった(意図的に命中させず?)と報じられた。警戒を要する。

(4)集団的自衛権に関する議論
  米国あるいは米軍を目標として飛来する弾道ミサイルを我が国がBMDシステ ムで迎撃することは、集団的自衛権の行使に
 当たり得ることになるが、近年、集団的自衛権の行使に関し、憲法の解釈変更または憲法改正を通じ、一定の条件下で
 集団的自衛権の行使を可能とするべきであるという主張が度々なされた。
  第一次安倍政権時の「安保法制懇」の報告書では、4類型のうちの1つに、米国に向かう弾道ミサイルの迎撃が挙げられた。
  第二次政権における安保法制懇の報告書(2014/5/15)でも、同様の問題認識で事例を挙げて集団的自衛権行使の必要性を
 指摘し、同年7月1日の閣議決定につながる。
  先般、与党協議が決着し、法案整備が為されよう。

(了)