山下塾第5弾

山下 輝男

第三十話「土木工事等の受託:役割が小さくなったと云え!」

 左の写真は、小生が勤務した帯広市の郊外、ハナックの第二展望台上の部外工事記念碑である。
「清野雄大一望千里」と当時の師団長の揮毫

 従来、防衛白書には、資料編に「陸上自衛隊における部外土木工事の受託実績」なるデータが掲載されていたが、1985年度(S60)版に昭和59年度の実績が掲示されたのを最後に示されなくなっている。それでは役割がなくなったかというと、大阪貝塚市で防災拠点ともなり得る運動公園整備に部外土木工事方式を活用すると云うニュースもある。
 本話では、部外土木工事等の受託について見てみたい。

1 土木工事等の受託とは
 自衛隊法100条に、「土木工事等の受託」として規定されている。
①自衛隊の訓練の目的に適合する場合
②国、地方公共団体その他政令で定めるもの(土地改良区、港務局) の委託
③土木工事、通信工事その他政令で定める事業(防疫、医療又は輸送事業)
④受託者:方面総監、師団長、旅団長等
⑤費用の分担:旅費=受託前は受託者、受託間は申し出者、
 輸送費・燃料費・事務用品等・宿泊施設の提供・通信費等・諸資材等=申し出者

 自衛隊法第8章(97条~117条)には、雑則として、土木工事等の受託の他運動競技会に
対する協力、南極地域観測に対する協力、国賓等の輸送、教育訓練の受託、適用除外規定等が
設けられており、結構重要な規定である。


2 土木工事
(1)受託実績等
  S28~S47 計 5829件(年平均291件)
  S48~351 毎年200件以上
  S52~S57 毎年 100件以上(毎年低減傾向)
  S58~H12 100件以下 
  H13~   一桁台(H18,H19年度は0件、H20年度は2件)

   こうしてみると、申し出が少なく、部外土木工事の受託はその役割をほぼ終えているとも云えなくはない。
   然しながら、国や地方公共団体等のニーズが全くない訳ではない。唯、部外土木業者の施設建設機材が充実して、
  最早自衛隊の施設機材を必要としなくなったこと、民間業者の受注を圧迫するのは適切ではないので、受託件数が
  少なくなったのであろう。

(2) 果たした役割
 ア 民間業者が二の足を踏むような厳しい環境条件下、財政的に厳しい地方公共団体の要求に応えることで、地方公共団体等の
   土木工事等に大いに寄与した。多くの現場にはその旨を記した記念碑等が建立されている。
 イ 演習場ではない、云わば生地における実際の工事であり、工事を担当した施設科部隊等は持てる技術の全てを発揮し、また、
   厳しい条件をクリアするための具体的要領を考案する等により工事を所望のレベル、所定の時期までに完成させた。
   このことにより部隊の練度が格段に向上した。
 ウ 担当部隊が長期にわたり宿営して工事に専任するので、その間において部隊の団結や士気の向上が図られ、若い小隊長等は
   部外工事で大いに鍛えられ、部隊指揮の何たるかをも学んだ。
 エ 長期にわたる工事を通じて、地域住民との交流が行われ、自衛隊に対する理解の増進が図られた。長年にわたり、その交流が
   住民の記憶に残っているようだ。

(3)最近の土木工事等の受託に関する状況
 ア 奄美大島町道補修工事の受託・引き渡し
   平成22,23年に襲った集中豪雨により荒廃した町道約1.1㎞を、第2施設群(飯塚)が、
   平成26年11月~平成27年2月までの間に、実施し、工事の引き渡しを終えた。(防衛ホーム)
 イ 大阪府貝塚市は、南海トラフ巨大地震等を想定し、市内の丘陵地に防災機能を備えた運動公園整備を計画、
   敷地造成の土木工事を陸自3師団に委託する手続きに入ったと報じられた。(2015/2/20 産経ニュース)


3 輸送事業
(1)入院患者移送
   本輸送事業は土木工事ではなく、「等」に包含される受託可能な事業の一つである。
  入院患者の移送には細心の注意と時間を余りかけて実施するわけにはいかないという要素があり、且つそれに応えられる
  民間の能力は非常に限られている。従って、実際の患者を移送することは衛生科隊員の訓練目的にも合致するので、時に
  受託し、実施されている。
   小生連隊長在任間に、某病院の移転に伴う入院患者輸送を担当したことがあった。
   また、平成26年3月1日、入院患者154人の佐久医療センターへの移送が無事に終了したと報じられたが、本移送に自衛隊の
  救急車や衛生隊員が協力した。
   その他にも、類似の輸送事業の受託が行われている。

(2)投票箱の輸送
   離島等の投票箱が海上輸送できない場合に、空輸を受託することがある。最新の実績は次の通りである。
  2014年12月14日、衆院選投開票日、鳥羽市の離島・神島の投票箱が悪天候のため海上輸送できなくなり、
  同市選管の要請で陸上自衛隊第10飛行隊のヘリが空輸した事例がある。

(3)史上最大の現金輸送作戦(沖縄返還時)
   自衛隊は輸送事業も受託しているが、その大規模な例としては、沖縄の復帰の際、自衛隊の艦艇・航空機により
  現金輸送を行ったことがある。
   1972年5月15日の「沖縄復帰の日」から20日まで、米ドルから日本円への通貨交換が行われた。このため
  現金540億円を積んだ海上自衛隊のLST(揚陸艦)2隻が、2日早朝、東京から那覇軍港に到着した。これは、
  昭和47年、大蔵大臣からの委託により、本邦通貨を沖縄に輸送し、交換された米国通貨を本土まで輸送したものである。


4 防疫事業
(1)京都府鳥インフルエンザ対応=防疫業務から災害派遣へ
   平成16年2月末京都府船井郡丹波町で一万羽を超す鶏の死亡事案があり、鳥インフルエンザウィルス感染と判明した。
  3月1日、自衛隊に派遣可能性の検討依頼がある。
  3日には、第3師団司令部と京都府総務部消防防災課は連名で防疫業務の受託実施に関する協定書の締結を発表、部隊派遣
  3月6日夕、第3師団は災害派遣要請を受理し、部隊を派遣した。
  3月11日 廃棄溝の掘削作業完了。撤収要請により撤収した。

(2)これ以降も、各地で鳥インフルエンザに感染した鶏対応の為に自衛隊に災害派遣が要請されて、防疫業務や
  殺処分等を行っているが、これは土木工事等の受託に云う防疫業務ではなく、災害派遣の一環としての任務である。
  勿論、災害派遣における防疫業務については緊急性や非代替性等について異論がある。


5 通信工事、医療に係る受託実績については確認できなかった。


6 若干の所見
(1)土木工事等の受託の果たす役割は小さくなったとは言え、所要に応じ活用されており、今後とも相応の
  役割を果たすだろう。

(2)自衛隊が行う演習・訓練は、演習場等で行われるのが一般的であり、演習場等は、云わば勝手知ったる
  地域であり過ぎる。そのような地域での訓練はその効果が減殺される。そういう意味で、生地における
  訓練が願望もされてきた。土木工事等の受託の実施場所は、真正の生地であり、行う事業も実業であり、
  勿論、完成後に復旧することはない。
  正に実戦そのものであり、実戦を経験して居ない部隊にとっては厳しい状況ではあるが、それだけに
  それを経験するということは部隊の練度が格段に飛躍するのである。 
  係る意味において土木工事等の果たした役割は大きいと断言できる。

(3)自衛隊が行う土木工事等の受託は、民間事業者等では採算性等に問題があり、国や地方公共団体の強い
  要望があるのが通常である。国や地方公共団体等に寄与してきたことは事実であり、今後とも、小なり
  といえどもそのような役割を果たし続けるだろう。

(了)