山下塾第5弾

山下 輝男

第三十四話 「装備品調達方式の改革:単年度会計に風穴」

 厳しい財政状況にあって、必要な装備品をどのように調達するか、更に企業側にとってもメリットがあるような、Win―Winの関係の構築ができるような装備品取得方式が検討されてきた。長期複数年契約のネックが財政法であったが、去る4月22日、画期的な特措法が成立して、風穴が開いたと云えよう。
 本話では、装備品調達にかかわる課題解決に向けた努力状況を管見したい。


1 防衛装備品調達に係る問題点とその解決に向けた動き
(1)防衛関係費と装備品調達経費等
   防衛関係費は、近年減少傾向が続いていたが、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、平成25年度
   および26年度は対前年度増額となった。しかし、一般会計予算全体で見ると、厳しい財政事情の下、歳出の
   伸びの大半を社会保障関係費が占めており、防衛関係費等他の経費は抑制される傾向にある。
   歳出予算で見た防衛関係費は、人件・糧食費と歳出化経費という義務的な経費が全体の8割を占めている。
   歳出予算とは別に、翌年度以降の支払を示すものとして新規後年度負担額がある。防衛力整備においては、
   艦船・航空機などの主要な装備品の調達や格納庫・隊舎などの建設のように、契約から納入、完成までに
   複数年度を要するものが多い。しかし、わが国の予算は毎会計年度国会の議決を経なければならないため、
   原則として予算により認められた国費の支出は当該年度に限られる。そのため、契約から納入、完成までに
   複数年度を要するものについては、複数年度に及ぶ契約を行い、将来(原則5年以内)の一定時期に支払う
   ことを契約時にあらかじめ約束するという手法をとっている。このような複数年度に及ぶ契約に基づき、
   契約の翌年度以降に支払う金額を後年度負担額という。
   厳しい財政事情の中、装備品の高性能化などの要因による取得単価の上昇により調達数量の減少を招いている。
   調達数量の減少は、更なる取得単価の高騰を招くことから、安定的な防衛力整備が困難となる懸念がある。




   平成27年防衛関係費(当初予算)の内訳をみて頂きたい。装備品等購入費は全体の15.4%に過ぎない。


(2)指摘される装備品調達の問題点
   自衛隊の装備品や船舶、航空機の製造には長期間を要することから、一定数量を一括で調達しようとする場合に
   5年を超える契約が必要になるものが多い。また、自衛隊が使用する装備品等や役務については、①毎年度の
   調達数量が少数であること、②調達を防衛省のみが行っていること、③それらを供給する企業が限られて
   いることといった理由により、スケールメリットが働きにくく、また、企業としても高い予見可能性をもって
   計画的に事業を進めることが難しいといった特殊性がある。
   ア 市場の閉鎖性・競争性の欠如
   イ 従って、コスト高、随意契約の多さ等
   ウ 予算方式の制約
   我が国は原則として予算単年度方式であり、このため、まとめ買いが出来ないため調達規模が限定され、
   結果的にコスト高ともなっている。
   米国は複数年契約であるため、安定的な生産が維持でき、契約企業にとっても大量生産に伴うスケールメリット
   によるコスト削減効果を享受できるとされる。
  
(3)防衛省の取り組み
   防衛省では、取得改革を推進するため、複数年度分の防衛装備品や部品を特定の年度にまとめて予算化・契約
   することで効率化を図るまとめ買いや、種類の異なる装備品の構成品のうち共通する部分、あるいは異なる
   組織間で共通する装備品などの予算をまとめて執行する取組を行っている。
   これらの取り組みは、
   ①2007(平成19)年10月から「総合取得改革推進プロジェクトチーム」会合を開催
   ②2010(同22)年からは有識者による「契約制度研究会」を継続的に開催
   本研究会の成果は、第1回(H22/8)及び第2回(H23/4)に報告書としてまとめられ、これらを含めた
   第3回報告書が平成24年9月に公表された。
   これらの研究会を通じて提言されたPFI方式やPBL方式の活用が具体化されてきた。例えば、
   Xバンド衛星通信整備事業のPFI方式による事業化が行われ、「防衛省PBL導入ガイドライン」が
   策定された。

  *PFI方式とは
   PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」とは、公共施設等の
   建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法である。
   民間の資金、経営能力、技術的能力を活用することにより、国や地方公共団体等が直接実施するよりも効率的
   かつ効果的に公共サービスを提供できる事業について、PFI手法で実施する。
   PFIの導入により、国や地方公共団体の事業コストの削減、より質の高い公共サービスの提供を目指している。

   *PBLの定義(防衛省ガイドライン)
   平成20年3月に公表された「総合取得改革推進プロジェクトチーム報告書」において、「民間委託の拡充」
   への取組としてPBL(Performance Based Logistics)手法を活用することとした。
   以下少々、解りにくいが、御参考までに。
   ガイドラインでは、「装備品等の補給、維持・整備に係る業務について、部品等の売買契約または製造請負契約、
   若しくは修理等の役務請負契約の都度、必要な部品の個数や役務の工数に応じた契約を結ぶのではなく、
   役務の提供等により得られる成果(可動率の維持・向上、修理時間の短縮、安定在庫の確保等のパフォーマンスの
   達成)に主眼を置いて包括的な業務範囲に対し長期的な契約を結ぶもの。」と定義されている。
   具体的には、官民間の合意により業務評価指標(Key Performance Indicator:KPI)や目標値を設定し、
   契約相手方にその目標を達成するために用いる手法において裁量を与えるものである。また、それらの目標を
   達成した場合には、報奨金や契約延長等のインセンティブを与える。これにより、契約相手方の自主的な
   改善・効率化活動を促し、民間企業で実績のあるSCMや成果管理手法の適用を進め、品質を維持・向上させつつ
   長期的なコスト低減を図ることを目指すものである。

(4)短期集中調達や一括調達の実施
   平成19年度以降、複数年度分の防衛装備品や部品を特定の年度にまとめて予算化・契約することで効率化
   をはかる集中調達や、種類の異なる装備品の構成品のうち共通する部分、あるいは異なる組織間で共通する
   装備品などの予算をまとめて執行する一括調達に取り組んでいる。たとえば、平成26年度予算では、
   南西地域の防衛体制の強化に必要な地対艦誘導弾などの防衛装備品を集中調達することにより、契約ベースで
   約330億円の節減が可能であると見積もられた。
   しかしながら、対象となる事業に対する予算の配分が確保される場合に限られることや、財政法により
   契約期間が最大5年に限られるなど、この手法を拡大するに当たっては制約も多い。

(5)23大綱の指針
   Ⅵ(3)「装備品取得の一層の効率化」の項において、「契約に係る制度全般の改善や短期集中調達・一括調達等
   効率的な調達方式の一層の採用を図るなど、調達価格を含むライフサイクルコストの抑制を更に徹底し、
   費用対効果を高める。」と述べている。

2 長期契約を可能とする特別措置法の成立とその概要
(1)特措法の成立と狙い・メリット
   ア 特措法の成立
   契約制度研究会において、その導入が期待された複数年の長期契約を可能とする特別措置法
   (「特定防衛調達に係る国庫債務負担行為により支出すべき年限に関する特別措置法」)が、
   平成27年4月22日の参院本会議で、自民、民主、公明、維新の党などの賛成多数により成立した。
   ・平成26年度から5年間の中期防衛力整備計画(中期防)に合わせて31年3月末までの時限立法である。
    現行の財政法では、契約の翌年度以降に支払う「国庫債務負担行為」は最長5年だが、10年まで延長する。
   ・対象
    特定防衛調達の対象は、装備品に限っている訳ではない。整備に係る役務も対象とされている。
    対象となる装備品等、装備品等の整備に係る役務について、指針において基本的な考え方を示している。
    装備品では、専ら自衛隊の用に供するものとされ民生品については対象外。計画的な整備に必要なもの
    として大綱・中期防に基づ機、かつ製造に要する期間が長く長期契約が必要となるもの、経費縮減、
    調達の安定的実施に特に資するものとなっている。
   整備に係る役務についても同様の考え方を示している。
   ・防衛大臣と財務大臣が協議

   イ 狙い・メリット
   特措法は、南西諸島防衛を重視する中期防衛力整備計画(2014~18年度)に基づく装備調達を大幅
   に効率化する狙いがある。
   厳しい財政状況の下、調達費の抑制は欠かせない。中期防は、7000億円程度Wの財源を調達改革で
   確保すると定めた。長期契約はその有効な手段と評価できる。
   短期契約の場合、企業は将来の受注が見通せず、人員配置や設備投資の計画を立てにくい。長期契約なら、
   人材育成や投資を積極的に行えるし、材料などのまとめ買いによるコスト縮減も可能だ。
   海外では、長期契約による調達が一般的である。米仏は、艦船や戦闘機、ミサイルなどを10年前後の契約で
   購入している。英国は最長25年の契約ができる。日本もようやく国際標準に近づいたと評価されている。
   計画的な防衛力整備が実現されるとともに、企業側も、将来の調達数量が確約され、人員・設備の計画的な
   活用と一括発注による価格低減が可能となる。さらに、下請企業の防衛産業からの撤退防止にも寄与する。
   ウィン-ウィンの関係にある。

(2)平成27年度予算
   特措法の成立を受けて、平成27年度予算における特定防衛調達の概要が、5月15日公表された。
   それによれば、最新鋭のP1哨戒機20機を7年契約で一括購入する。総額3396億円で、4年契約で
   4回に分けて5機ずつ購入する従来方式に比べ、417億円も節減できる。
   上記に関連して、通信電子機器に係る契約が成立し、順次関連契約がなされる予定であるという。

(3)平成28年度概算要求にみる装備品取得の合理化・効率化
   ア 長期契約を活用した装備品等及び役務の調達[縮減見込額:371億円]
   ○ 回転翼機(60シリーズ)25機の一括調達(6国)
   (縮減見込額:154億円(10.0%))
   長期契約を活用し、部品や製造工程に共通性を有するSH-60K(17機)及びUH-60J(8機)を
   平成28年度に一括して調達


   ○ティルト・ローター機(V-22)12機の一括調達(6国)


   ○ 可動率の向上と適時適切な部品供給態勢の確保等を図るためのPBL
   (Performance Based Logistics)の長期契約
   ・特別輸送ヘリコプター(EC-225LP)(6国)
   (縮減見込額:16億円(26.2%))
   ・練習ヘリコプター(TH-135)(6国)
   (縮減見込額:19億円(23.0%))

   イ 装備品のまとめ買い[縮減見込額:275億円]
   少量かつ長期間の整備の結果、高価格となっている装備品等について、経費縮減効果の見込まれるものを
   単年度にまとめて予算化し、効率化を追求
   【施策例】
   ○ 艦対空誘導弾(標準型ミサイルSM-2)のまとめ買い
   3年分:886億円→ 720億円 (縮減見込額:166億円)
   ○ 戦闘機(F-15)用整備器材(AIS)の一括改修
   3式:73億円→ 57億円 (縮減見込額:16億円) 

   ウ その他「維持・整備方法の見直し」「民生品の使用・仕様の見直し」
   縮減効果 計981億円

3 今後の課題等
(1)特措法の恒久法化
   前述したように、特措法は平成31年までの時限立法である。効果や課題を検証する必要はあるが、相応の
   経費削減が見込めることから、恒久法化することも検討すべきであろう。

(2)防衛費の増額を
   装備品の取得のみならず、あらゆる面で合理化・効率化の更なる促進を図ることは当然であるが、その
   努力にも限度があるのではないだろうか?厳しさを増す安全保障環境に対応するためには更なる防衛費の
   増額が必要である。

(3)防衛産業の健全育成に寄与を
   軍需工廠を有しない我が国は、装備品の調達を民間防衛産業に依存せざるを得ない。
   防衛産業は、マ-ケットが国内に限定されており、規模はさほど大きくはない。わが国工業生産額全体に
   占める割合で言えば、0.6%程度である。しかし、関連企業の数は結構多く、例えば護衛艦の製造関連企業は
   2500社もあり、戦車で言えば1300社、戦闘機では1200社である。斯様に工業生産額全体に占める
   割合は小さいが、関連企業が多いという特色がある。
   防衛装備品の供給及び運用支援基盤の維持、バ-ゲニングパワ-の源泉、潜在的な防衛力としての抑止効果、
   日本の国力の一部として経済力・技術力の保持、国内産業や経済への波及効果から重要な産業であることは
   論を俟たない。
   然しながら、防衛産業は概して、厳しい状況にある。下請け企業には撤退を余儀なくされるものもある。
   防衛産業の健全育成は国家にとって極めて重要な施策でもある。
   調達数を安定的に確約できる事は防衛産業にとってもメリットのあることであり、係る観点からも装備品調達の
   安定性が必要であり、そのような施策を望みたい。

(4)透明性の確保
   防衛装備品の調達を巡っては、過去に幾多の不祥事が起きており、新たな調達制度の導入、10月には
   「防衛装備庁」が発足し、装備品調達が様変わりする可能性がある。厳しい財政状況の中、合理的・効率的な
   調達を行って、国民の一層の理解を得る必要があり、特に過去の不祥事に鑑み、苟も疑義を持たれることの
   ないようにして頂きたい。

4 終わりに
  長い間、法律の壁があって無理だと思われていた長期複数年契約が特措法であるとはいえ、成立し、それが
  適用されたということは我が国装備行政において画期的なことである。
  今後は恒久法化されて、自衛隊の装備品等の調達業務が合理化・効率化されるものと期待したい。

(了)