山下塾第5弾

山下 輝男

第三十六話 「整備維持費の増大にどう立ち向かうべきか!」

 防衛費が、抑制或いは微増しかしない中で、整備維持費が増大し、装備品調達経費との額面での逆転現象が起きた。このため、部隊も省も可動率向上否維持のため必死の努力を傾注している。その努力の一端を見てみたい。向かうべき努力の方向が誤っていた場合、取り返しのつかない事態が起きる。某国空軍のように。


1 整備維持費の増大、逆転
 防衛関係費が抑制、或いは微増に留まる中、物件費の内、装備品等契約額は減少し、一方、装備品等の整備維持経費が増大し、遂には平成17年度には逆転した。以降その傾向が顕著である。

 その要因は、装備品の高性能化に伴う維持・整備コストの増加である。
 整備維持費とは、装備品の修理や消耗品の対価及び役務費などに係る契約のための経費であり、現有装備品を高い可動率で維持するために不可欠のものである。

2 防衛省の対応
(1)従来からの対策
  ①整備修理用部品等の購入費の抑制
    コスト抑制の手っ取り早い方法は、安い部品類を購入することである。所要数を確保するためには
   止むを得ざる仕儀なのだが、結果的に安かろう、悪かろうという結果になる可能性がある。
    2013年某国産のタイヤがバーストして、20歳の女性陸士が外傷性くも膜下出血で死亡するとい
   う痛ましい事故があったが、経費抑制が遠因となっていないか?何でも一般競争入札を奨励するのは
   如何なものか、行うとしても信頼性の確保を如何に担保するかが十分に吟味されるべきだ。
  ②装備品の定期修理間隔の延長
    例えば、P-3Cの定期整備間隔は、48ヶ月であったものを60か月に延長する等の施策が実施された。
    平成26年度予算では、次の4項目を実施することとされた。
     ① 潜水艦ソーナー用ラバーウィンドウの換装間隔延伸
     ② 艦艇用ガスタービンエンジンの整備間隔延伸
     ③ 掃海・輸送ヘリ(MCH-101)エンジンのオーバーホール間隔延伸
     ④ 輸送機(C-130H)の定期整備間隔延伸

    本来の設定期間から延長しても信頼性に問題がないのだろうか? 全く問題ないのであれば、当初
   設定した期間は何だったのか?ある程度の安全係数を見込んでの期間設定ではあるが、使用者・運用者は
   当該装備品を信頼しうるだろうか?

  ③廃棄装備品の部品の新規装備品への転用・活用
    廃棄装備品の転用・活用は有効な対策ではあるが、当該部品の信頼性はどうなのだろうか?新品同様の
   信頼性が保証されるのか、疑問である。一時凌ぎとしては有効であるが、所詮、その程度である。

(2)整備維持費の更なる増加への対応策の検討
   増加する整備維持費への対応に関して種々検討されて、米国等で実施され、一定の成果を得ているPBL
  を適用しようという動きが具体化された。
  ア 米英におけるPBLの適用状況
   PBLは米英において2000年頃から取り組まれている装備品等の維持・整備業務を民間委託する手法の
   一つであり、維持・整備業務の作業量に応じて対価を支払うのではなく、可動率や安全性といった装備品等の
   パフォーマンスの達成に対して対価を支払う契約方式である。
   ・ その導入により可動率や信頼性の向上及びコスト抑制など、一定の効果がある。
   ・ 米英では、主に固定翼及び回転翼航空機を中心にPBLの導入が進められている。

  イ 防衛省の取り組み
    防衛省・自衛隊においても、厳しい財政状況の中、装備品等の質の維持・向上を図りつつ装備品等の
   維持・整備に係るコストを抑制する必要があり、米英において一定の効果が得られているPBL
   (Performance Based Logistics)の導入検討については、積極的に取り組むべき分野で
   あると認識し、検討が進められた。
    その成果が、「維持整備業務に関する新たな契約方式(PBL)の導入について」であり、それを発展
   させた「装備品等の調達効率化に係る施策について 平成25年12月19日 総合取得改革推進プロ
   ジェクトチーム」文書である。
    http://www.mod.go.jp/j/approach/others/equipment/sougousyutoku/pdf/siryou/21_01.pdf

(3)新大綱・中期における考え方
  ア 25大綱
    『Ⅳ 防衛力の能力発揮のための基盤 の 2 運用基盤』の項に次の記載がある。「必要な弾薬を
   確保・備蓄するとともに、装備品の維持整備に万全を期すことにより、装備品の可動率の向上等、装備品の
   運用基盤の充実・強化を図る。」
  イ 新中期
    同じく、新中期においても、同じ項目を起こして、次のように記述している。
   「装備品の可動率をより低コストかつ高水準で維持できるよう、装備品の可動率の向上を阻む要因に係る
   調査を行うとともに、維持整備に係る装備品 の可動率をより低コストかつ高水準で維持きるよう、成果の
   達成に応じて対価を支払う新たな契約方式( PBL)について、 より長期の契約が予見可能性を増大
   させ費用対効果の向上につながることを踏まえ、その活用の拡大を図る。」とした。

    当面、PBLを整備維持費の抑制の切り札、可動率向上に寄与する施策と位置付けているのが見て取れる。

3 韓国軍が直面している問題!
 隣国韓国との関係は政治的には色々あるが、軍事的には極めて重要な国家であることは論を待たない。然し、
その韓国(空)軍で看過できない事態が進行しているようだ。以下ネットで拾った記事を紹介する。
 ①産経Westによれば、韓国空軍は、F15戦闘機や早期警戒機で共食い状態が続いているようだ。以下引用。

  『朝鮮日報が、昨年10月、韓国空軍の主力戦闘爆撃機F-15Kについて、「部品の使い回しが度を
  越しているとの指摘が相次いでいると批判した。」
  韓国では「同類転用」と呼ぶこの“使い回し”。故障しても修理部品の在庫がなく、他の機体から
  使える部品を外してくる「共食い整備」のことだが、F-15Kではこれが過去4年間で528回、
  1機あたりで8・8回にも達していたことが明らかになった。
  朝鮮日報電子版や世界日報電子版など韓国マスコミが最近一斉に報じたもので、空軍がクォン・ウンヒ
  議員(新政治民主連合)に提出した国政監査資料によると、F-15Kを含む空軍の主要戦闘機では、
  共食い整備回数は同期間で1182回。このうち半数近く(44・7%)がF-15Kだったことに
  関係者は衝撃を受けているという。』
  (http://www.sankei.com/west/news/141201/wst1412010005-n1.html


 ②2014/2/10付の産経Bizによれば、『・・防空識別圏を監視する早期警戒機は4機を導入した
  ばかりだが、整備不良で1機しか飛べない状態。スクランブル(緊急発進)する戦闘機も1機が
  マンホールに落ち込み大破するという“伝説的な事故”を起こしたばかりか、ミサイル誘導用の
  電波が民間の携帯電話の周波数と一致するトンデモぶり。もはや軍は「外華内貧」の実態を隠し
  通せない事態に直面している。(岡田敏彦)

 共食いする早期警戒機
  整備不良が問題となったのは、2011年から12年にかけて総事業費約1800億円で4機を導入した
 防空用の早期警戒機「ピースアイ」。・・・韓国では12年10月に実戦配備したが、同国のJTBC
 テレビが報じたところでは、1年後の13年10月には飛べる機体はわずか1機だけとなった。飛べない
 理由はずばり「部品不足」。軍用機に限らず航空機には決められた飛行時間ごとに交換しなければ
 ならない部品が多くあり、航空機を導入する際はこうした交換部品もセットで買うのが基本。韓国
 も3年分の部品を購入していたのだが、なぜかエンジン関係など早急に必要となる部品を買ってい
 なかった。その結果、不具合の多い機体を“部品取り用”にし、修理の際はこの機体から他の機体
 へ部品を転用するというカニバリゼーション(共食い整備)を行っていた。それでも1年で(部品
 取り用機を含め)3機がジャンクと化し、飛べるのは1機のみになってしまった。もちろん共食い
 整備は、近代軍隊ではタブー。導入時には韓国マスコミが「日本の早期警戒機よりも性能は上」
 などと報じていたのが空々しく聞こえる。…』

  何れも信じられないような事案であるが、事は、最も華々しい戦闘機や早期警戒機で起きた事案であり、
 事態は深刻である。深読みすれば、陸軍や海軍でも同じような事例が頻発しているのではないか、まして、
 平素余り注目されない正面では更に酷い状態になっている可能性すらある。今では改善されているとは
 確信するが、・・・
  明日は我が自衛隊ということにならなければ良いが・・

4 自衛隊はどうすべきか
 自衛隊の整備は、部隊自らが行う部隊整備、補給処整備及び外注整備に大きく区分されている。定期的に行う
整備と使用の都度の整備がある。(古い記憶なので曖昧な面もあるが・・)
 部隊勤務時の記憶にあるのは、「部品納入待ち」となっている装備品が意外に多かったということだ、流石に
共食いを命じた記憶はないが、今では第一線部隊レベルでも共食い(ともぐい)や流用がなされているのではない
かと懸念している。

(1)在庫及び請求補給システムの効率化
  可動率の向上は、現有装備品を駆使して任務を遂行すべき部隊にとって極めて重要である。部品の適時の
 補給が必須である。どの段階に如何ほどの在庫を保有すべきか、如何なる請求補給手続きにより、部隊の要求に
 答えるかが重要だ。この点においても更なる努力が求められよう。

(2)新方式PBLの効果最大限発揮
  整備維持費の削減のために、PBLが如何ほどの効果を発揮するのか明確ではないか、現時点ではそれ以外の
 方策が見つからないので、本方式の効果の最大限発揮に努力する必要があろう。

(3)コスト削減努力
  整備維持費のコスト削減は重要ではあるが、行き過ぎたコスト削減がマイナスにならないように留意すべきだろう。
  整備周期の延長や廃棄装備品の転・活用は一時的な対策としては有り得ても、恒久的なものとしてはならない。
  最近の部隊の整備状況は具に承知していないので、明言できないが、共食いの状況はない筈だ。若し仮に、
 部隊が部品等の共食いを苦し紛れに実施しているとしたら、そういう状況に追い込んだ国策の失敗である。

(4)高可動率維持のための方策の検討
  米国製装備品等の場合、当該装備品等の生産が打ち切られた場合、或いはバージョンアップした場合、
 ブラックボックス化された部品も何れ入手出来なくなる惧れがある。長期的視野で対応を検討すべきだ。
  可動率は、定期的に上級部隊に報告されている筈である。報告に嘘はないとしても、高可動率の実態を
 実際に調査すべきではないか?今まで見えなかったものが見えてくるのではないだろうか?

(5)整備維持費の増額、ひいては防衛関係費の増額を!
  ともすれば、目玉の装備品を何機購入するとかと云うような華々しい面に目を奪われがちだが、果たして、
 それが正しいのか?少なくとも防衛力の整備・運用に携わる者は、バランスある装備品調達と整備維持に意を
 用いるべきだ。正面と後方、現在と将来にしっかり目を向けるべきだろう。
  我が国民性の弱点かも知れぬが、兵站、ロジは後からついてくる、何とかなるというお気楽な意識がある。
  部隊は可動率の向上・維持のために懸命の努力をしている、省としても相応の努力をしてはいる。然しながら、
 それも限界。破断界に達しつつあるのではないかと危惧している。某国の二の舞を踏まぬように高度の
 政治的判断を望む。
  硬直化した防衛予算から、柔軟且つバランスある予算への大転換が必要だ。そうしてこそ、我が国の防衛は
 全うされる。

(了)