山下塾第5弾

山下 輝男

第三十八話 「常設司令部への第一歩となるか?」

「2015年は、我が国の安全保障にとって画期的な年であったと後世指摘されるだろう。長年の懸案であった日・米防衛協力のための指針(ガイドライン)が改訂され、安保法制が成立し、そしてこれらのアウトプットの一つとして、日・米の「同盟調整メカニズム」が始動した。本調整メカニズムは、日・米共同の実効性を高め、抑止力の強化に大いに益するだろう。
本話では、今般始動した同盟調整メカニズムを取り上げたい。」


1 初めに
  ガイドラインは、その当時の安全保障環境に応じて改定されてきた。先般改定された新ガイドラインは、
 97ガイドラインから18年振りに改訂され、激変する安全保障環境に対応して、日・米共同の実効性を高める
 方策が多く盛られた。その一つが同盟調整システムである。云うまでもなく、この日・米同盟の実効性を
 高めるのを法制面で担保するのが安保法制である。
  同盟調整システムが、2015年11月上旬から始動した。今後は常設されたこの調整システムを如何に機能させ、
 そしてそれを更にグレードアップさせるかが問われることとなる。

2 調整メカニズムの始動
(1)新ガイドラインの策定
   日・米防衛協力のための指針(所謂ガイドライン)は、冷戦当時の情勢を背景に、日本に対する武力攻撃
  への対応を中心として策定された「78ガイドライン」(1978年策定)から、冷戦終焉などの安全保障
  環境の変化を踏まえ、周辺事態への対応と協力を拡大させることを狙いとした「97ガイドライン」
  (1997年策定)へと逐次に内容の充実・拡大が図られてきた。
   然しながら、97ガイドラインが策定されて17年、我が国を取り巻く安全保障環境が更に変化してきた。
  曰く、周辺国の軍事活動の活発化、国際テロ組織などの新たな脅威の発生、海洋・宇宙・サイバー空間等
  国際公共財の安定的利用に対する脅威の顕在化・先鋭化・深刻化等、自衛隊活動のグローバル化等が顕著に
  なったのである。
   このような安全保障環境の変化を背景として、安倍首相からガイドラインの見直しが指示され、
  日・米首脳会談においても見直し等が合意された。
   日・米外務防衛大臣の所謂「2+2」において、「防衛協力小委員会(SDC)」に対して見直しをするように
  指示されたのである。
   このような経緯を経て、日・米間で見直し作業が進められ、SDCが勧告した新ガイドラインが2015年
  4月27日に了承された。

(2)新ガイドラインの特色等
   新ガイドラインの特色は、次の通りである。本話と関係ある調整メカニズムが先ず挙げられている。
  ① 強化された同盟内の調整
    平時から緊急事態まで、両政府が緊密な協議並びに政策面及び運用面の的確な調整を行うことが必要
   であり、そのため平時から利用可能な同盟調整メカニズムを設置する。
  ② 日本の平和及び安全の切れ目のない確保
    平時から緊急事態まで、切れ目のない(シームレスな)協力を実現するための方向性を提示している。
  ③ 地域及びグローバルな平和と安全のための協力
  ④ 宇宙及びサイバー空間に関する協力

(3)強化された同盟内の調整
   本件について、今年度の白書は以下のように記述している。(下線等は筆者)
  『ガイドラインのもとでの実効的な二国間協力のため、平時から緊急事態まで、両政府が緊密な協議
  ならびに政策面および運用面の的確な調整を行うことが必要となる。このため、両政府は、新たな、
  平時から利用可能な同盟調整メカニズムを設置し、運用面の調整を強化し、共同計画の策定を強化する。
   ① 同盟調整メカニズム
    両政府は、日本の平和および安全に影響を与える状況その他の同盟としての対応を必要とする
    可能性があるあらゆる状況に切れ目のない形で実効的に対処するため、同盟調整メカニズムを
    活用し、平時から緊急事態までのあらゆる段階において自衛隊および米軍により実施される活動に
    関連した政策面および運用面の調整を強化する。
    両政府は、必要な手順および基盤(施設および情報通信システムを含む。)を確立するとともに、
    定期的な訓練・演習を実施する。
   ② 強化された運用面の調整
    両政府は、運用面の調整機能の併置の重要性を認識する。自衛隊および米軍は、緊密な情報共有、
    円滑な調整および国際的な活動を支援するための要員の交換を実施する。
   ③ 共同計画の策定
    両政府は、平時において、共同計画策定メカニズムを通じ、共同計画の策定・更新を実施する。
    共同計画は、両政府双方の計画に適切に反映する。』

(4)11月3日の報道から(要旨)
   日・米両政府は3日、自衛隊と米軍が平時から一体運用するための新機関「同盟調整メカニズム(ACM)」
  を設置した。クアラルンプールを訪問中の中谷元防衛相とカーター米国防長官が3日の会談で確認した。4月
  に再改定した「日・米防衛協力のための指針(ガイドライン)」に基づくもので日・米両国があらゆる事態
  に対し、緊密に連携し共同対処することが目的。自衛隊と米軍の共同計画をつくる「共同計画策定メカニズム
  (BPM)」も立ち上げた。

3 同盟調整メカニズムについて
(1)同盟調整メカニズム(ACM)の構成
   ACMは、自衛隊と米軍の活動に関する政策面の調整を担う「同盟調整グループ(ACG)」、運用面の調整を
  行う「共同運用調整所(BOCC)」、各軍種レベルが連携する「自衛隊・米軍間の調整所(CCCs)」で構成される。
   ACGは外務・防衛当局、国家安全保障局などを中心に局長級、課長級、担当級で組織され、日・米合同委員会
  とも情報共有する。BOCCは自衛隊と米軍の幹部級、CCCsは陸海空各軍種の代表から成る。
   これを図示したものが下図である。(防衛省HP)




   常駐する人員や場所などは定めないが、自衛隊と米軍が連携して対処する事態が発生した際、それぞれが
  必要に応じて起動し、互いに情報を共有しながら最善の施策を実施する。
   ACMでは、北朝鮮による弾道ミサイルの発射実験や東日本大震災のような大規模災害、武力攻撃に至らない
  侵害のグレーゾーン事態など、平時から有事まで全ての事態に活用できるのが特徴だと指摘されている。
 
(2)共同計画策定メカニズム(BPM)の構成
   BPMを通じて自衛隊と米軍の緊急時の共同計画の策定も進めることとなる。自衛隊や在日米軍の代表で構成
  する「共同計画策定委員会(BPC)」を設置し、緊急事態に対応する共同計画の策定作業を進める。



4 同盟調整メカニズムの意義
(1)抑止力の強化
   あらゆる事態に対して日・米の共同が迅速かつ実効的に行われることとなり、抑止力が高まる。特に
  南シナ海や東シナ海で航行の自由を脅かすような中国に対する強力な抑止力足り得る。
(2)平時から有事の全てに対応可能
   成立した安保法制とも密接に連携して、日・米の調整システムが平時から有事の全てに渡って調整できる
  ようになり、日・米同盟が更に深化し、抑止力も一段と高まる。
   従前のガイドラインでも同様の調整システムは設けられていたが、それは基本的には有事を対象とする
  ものであり、平時或いはグレーゾーン事態時の日・米調整の根拠はなかった。大規模災害時にも対応出来る
  のは勿論である。
(3)共同作戦計画の充実
   共同の作戦計画を策定する場が明確にされたことで、検討段階からより具体的な計画策定の進展が期待できる。 
(4)政策決定の迅速化
   日・米の情報共有と意思の疎通が進むことにより、日・米の政策決定が迅速になされるだろう。
(5)政策と運用面の調整
   政策の遂行は、軍事的側面を抜きに出来ないし、軍事的運用は政策の忠実な僕でなければならない。
  日・米双方が政策と運用を密接に調整させる体制を構築したことの意義は大きい。
  

5 今後の課題は
(1)常設の意義を生かすべく、努力を!
   普段から意思の疎通や情報共有は行っているというものの、そのような場が常設されるということは、
  それらが格段に進むことを意味する。大いに期待したい。   
   これらにより、日・米共同の実効性は相当高まり、抑止力が高まる筈である。そのような努力を双方が
  行わねばならぬ。

(2)経験積み重ね、より実効性ある体制を構築すべし!
   調整メカニズムから常設合同司令部へと進むのかどうか、日・米の部隊がそれぞれの国の指揮権を維持
  しながらの常設司令部の在り方はどうなのか、検討することとなろう。
   日・米は、各種の共同訓練を通じ、或いは計画策定を通じて、共同のあるべき姿を求めつつ色々な経験を積む
  ことになる。NATO型でもない、米韓型でもない日・米ならではの実効的な作戦遂行のための方式を編み出して
  呉れる筈と信じて已まない。

(3)日・米の信頼関係を更に強固にすべし!
   日・米が真に信頼し得る関係になるためには、相当の努力が必要である。
   情報の漏洩は特にその信頼関係に亀裂を齎す。特定秘密保護法が成立しているとは云え、懸念は残る。
   また、日・米の国益が時にぶつかることも無きにしも非ずだし、そのような場合に、本音で徹底的に議論し、
  調整して打開の道を探るべきであり、そうすることによって信頼関係は強固になる筈だ。
   信頼関係というものは、軍や政治レベルの絆も勿論重要であるが、それ以上に双方の国民にとってお互いを
  不可欠な存在とする関係となることが根底である。米国にとって、日本は不可欠の存在にならねばならぬし、
  Win-Winの関係にならねばならない。

6 終わりに
 体制は整ったが、その体制が実際に機能しなければならない。仏を作って魂を入れぬということにならぬよう、日・米双方の政治も軍レベルも努力する必要がある。

(了)