山下塾第5弾

山下 輝男

第四十話 「産・学・官の連携で!」

 12月9日、日本の金星探査機「あかつき」が、金星を回る軌道に入った。5年ぶりの軌道再投入に成功したものだ。あかつきは金星の大気現象の解明をめざし、2016年春から本格的な観測に入る予定だという。
 我が国は、科学技術大国であると思い込んでいたが、どうも認識不足だったようだ。そのような日本の科学技術の現状に危機感を抱いた政府は、平成27年12月10日第5期科学技術基本計画素案をまとめ、18日には14回総合科学技術・イノベーション会議を開催して、諮問第5号『科学技術基本計画について』を了承した。年明けには閣議決定される見込みである。  本基本計画の最大の特色は、安全保障に係る技術の研究開発を推進すると明言したことだ。以下、その概要を紹介したい。


1 国家安全保障戦略:技術力の強化
  国家安全保障戦略(平成25年12月17日閣議決定)において、我が国がとるべき国家安全保障上の戦略アプローチの
 一つとして、「技術力の強化」を取り上げて、次のように述べている。
 「我が国の高い技術力は、経済力や防衛力の基盤であることはもとより、国際社会が我が国に強く求める価値ある
 資源でもある。このため、デュアル・ユース技術を含め、一層の技術の振興を促し、我が国の技術力の強化を図る
 必要がある。
  技術力強化のための施策の推進に当たっては、安全保障の視点から、技術開発関連情報等、科学技術に関する
 動向を平素から把握し、産学官の力を結集させて、安全保障分野においても有効に活用するように努めていく。
  さらに、我が国が保有する国際的にも優れた省エネルギーや環境関連の技術等は、国際社会と共に我が国が
 地球規模課題に取り組む上で重要な役割を果たすものであり、これらを外交にも積極的に活用していく。」
  更に、本戦略において、「国の他の諸施策の実施にあたっては、本戦略を踏まえ、外交力、防衛力等が全体
 としてその機能を円滑かつ十全に発揮できるよう、国家安全保障の上の観点を十分に考慮するものとする。」と
 され、本話の科学技術基本計画の所掌は文科省であるが、以下を読んで頂ければ、本安保戦略の趣旨が活かされ
 ていると首肯して頂けよう。

2 第5期科学技術基本計画(素案)の概要
  第5期科学技術基本計画は、2016年から20年までの今後5年間の国の科学技術政策をまとめたものであり、
 安倍政権の成長戦略を受け、イノベーションを前面に打ち出した。
(1)我が国の科学技術の課題
   それなりの実績は残したものの、次のような問題点があると指摘している。
  ① 科学技術イノベーションの基盤的な力が近年急激に弱体化
  ② 産学連携は未だ本格段階に至らず。
  ③ 科学技術や研究者・技術者に対する信頼の喪失
  ④ 政府研究開発投資目標の未達
(2)目指すべき国の姿
  ① 持続的な成長と地域社会の自律的な発展
  ② 国及び国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現
  ③ 地球規模課題への対応と世界の発展への貢献
  ④ 知の資産の持続的創出

(3)第5期科学技術基本計画の4本柱
  ① 未来の産業創造・社会変革に向けた新たな価値創出の取組
  ② 経済・社会的な課題への対応
  ③ 科学技術イノベーションの基盤的な力の強化
  ④ イノベーション創出に向けた人材、知、資金の好循環システムの構築

(4)GDP比で1%、5年間に約26兆円の研究費を投じる目標が明記された。8つの数値目標も盛り込まれた。
  イノベーションを起こす研究に重点投資する。基本計画を着実に実施するため、総合戦略を毎年作成し、
  各省庁が概算要求に反映するよう求めている。また、①産学連携の強化 ②若手研究者の育成 ③女性の
  活躍促進 ④中小・ベンチャー企業の創出強化等を打ち出している。

(5)安全保障に関連した項目等
  国家安全保障に関する内容は、第3章 経済・社会的課題への対応 の(2)「国及び国民の安全・安心の
  確保と豊かで質の高い生活の実現」に記載されている。また(4)「海洋や宇宙政策と一体となった推進」
  も密接な関係がある。

3 安全保障に関する記述
(1)重要政策課題
   国の安全を確保していく上では、我が国を巡る安全保障環境の変化や、犯罪・テロ・サイバー攻撃等の発生
  への適切な対応が欠かせない。
   以下の四つの課題を重要政策課題として設定し、研究開発の重点化を行う。
   ① 自然災害への対応(略)
   ② 食品安全、生活環境、労働衛生等の確保(略)
   ③ サイバーセキュリティの確保
     ICTの進展によりサイバー空間の利用が経済社会活動の基盤として定着するに伴い、パソコンのみならず、
    家電、自動車、ロボット、スマートメーター等のあらゆるモノがインターネット等のネットワークに接続され、
    実空間とサイバー空間の融合が高度に深化した社会を迎えつつある。そのため、サイバー空間の安全の確保は
    これまで以上に重要となっている。しかし、サイバー空間を脅かす悪意ある攻撃がとどまることはなく、
    ウェブサイト改竄のような個人の愉快犯から、詐欺、機密情報の窃取、重要インフラを狙ったサイバー攻撃、
    国家の関与が疑われるようなサイバー攻撃に発展し、国民生活及び経済社会活動に影響を及ぼしており、我が
    国の安全保障に対する脅威も年々高まってきている。
     このため、サイバーセキュリティの確保の重要性の社会的認知の向上や質的にも量的にも不足している
    人材の育成を推進しつつ、日々進化するサイバー攻撃の脅威に対処して、サイバー攻撃から国民生活や
    経済活動を守る。
     具体的には、サイバー攻撃の検知・防御技術、認証技術、制御システムセキュリティ技術、暗号技術、
    IoT分野でのセキュリティ技術、ハードウェアの真正性を確認する技術、重要インフラのシステム
    構築時及びシステム運用時にシステムとして健全な状態であることを監視・確認できる技術等の開発を
    推進する。

   ④ 国家安全保障上の諸課題への対応
     我が国の安全保障を巡る環境が一層厳しさを増している中で、国及び国民の安全・安心を確保するため
    には、我が国の様々な高い技術力の活用が重要である。国家安全保障戦略(平成25年12月閣議決定)を踏まえ、
    国家安全保障上の諸課題に対し、関係府省・産学官連携の下、適切な国際的連携体制の構築も含め必要な技術の
    研究開発を推進する。
     その際、海洋、宇宙空間、サイバー空間に関するリスクへの対応、国際テロ・災害対策等技術が貢献し得る
    分野を含む、我が国の安全保障の確保に資する技術の研究開発を行う。
    なお、これらの研究開発の推進とともに、安全保障の視点から、関係府省連携の下、技術開発関連情報等、
    科学技術に関する動向の把握に努めていくことが重要である。

(2)オープンサイエンスを推進するものの、国家安全保障等に係るデータなどは公開適用対象外とする。その際、
  研究分野によって研究データの保存と共有の方法に違いがあることを認識するとともに、国益等を意識した
  オープン・アンド・クローズ戦略及び知的財産権の実施等にも留意する。」とされていることは画期的である。

(3)オープンイノベーションを成功裏に進めるには、海外の大学、研究機関、企業等との連携が必要になる場合も
  増えており、国において必要となる検討を進め、適切な措置を講じる。また、我が国の産業競争力や安全保障上の
  配慮が必要な技術及びその情報については、それらの特性に応じて、不正競争防止法や外国為替及び外国貿易法等の
  法令や関連するガイドラインに基づき、各主体が組織として適切に管理することが求められる。

4 評価等
(1)科学技術基本計画に安全保障の視点から所要事項を明記したのは画期的だ。
   我が国は、従来、軍事に対して拒否反応傾向が強かったが、近年の厳しさを増す安全保障環境もあり、国民の
  安全保障に関する理解の深まりもあって、拒否反応が薄らいできつつあるようだ。一昔前であったならば、
  文科省所管のこのような文書に安全保障に関する内容が含められることは考えられなかった。まさに隔世の
  感がある。

(2)産学官連携を推進することにより、デュアル・ユース技術の共同研究拡大の可能性が増大しよう。
   安全保障に関しては、特に「学」に激しい拒否反応がある。仄聞するに、安全保障関連内容は不要とのコメント
  が寄せられたと。
   過去に、宇宙の平和利用に関する国会決議があって、宇宙政策において安全保障に関する項目が中々盛り込まれ
  ないという時代が長らく続いたが、同じように、科学技術に関しても軍事協力には反対との風潮は未だ厳然
  としてあるようだが、何れ産学官連携の必要性も理解される筈だと信じたい。

5 今後の課題・期待
(1)計画の具体化と推進
   科学技術における優越は、わが国の国益そのものであり、勿論安全保障上も極めて重要であることは論を
  俟たない。今次基本計画が速やかに具体化され、我が国の科学技術が世界に冠たるものとなって貰いたい。
  東京五輪時にはその姿に世界が瞠目する位に発展すべく、成長戦略の一環でもあり、資源投資すべきだろう。

(2)防衛技術にかかる態勢の更なる促進
   装備庁が発足し、研究開発と装備調達の一貫性が確保されることとなった。体制は整ったのだから、後はその
  中味である。研究予算の増額、研究者等の人材の育成と確保、そして大学や産業界との密接な連携方策を速やか
  に確立して、我が国防衛技術の底上げを図ることが最大の抑止に裨益する。

(3)研究開発分野における日本人研究者が少なく、外国出身の研究者が多数存在しているが、我が国の知的財産が
  野放図に流出する懸念はないのか?明らかにそれを目的に日本での研究に参画している者も存在しよう。
  オープンにすべきものとクローズすべきものの弁別整理も必要だろう。コントロール・規制が必要ではないのか。

6 終わりに
 ノーベル賞の受賞者数も多く、あかつきやハヤブサも話題となり、日本の科学技術は最高だと信じて疑わなかった小生であるが、本基本計画が指摘した課題を見て、大いなる誤解であったと思い至った。
 我が国は潜在能力に優れており、方策によっては、世界最高レベルに容易に到達可能である。その起爆剤に本計画がなることを期待したいし、その一環として防衛技術のイノベーションが起きるよう望んで已まない。

(了)