山下塾第6弾

山下 輝男

第二話 国内外情勢を考える視点その2

3 地政学的考察
 国家安全保障を考える際には、その国が置かれた地理的環境条件を考慮する必要がある。近年「地政学」即ち地理的な位置関係が政治、国際関係に与える影響を研究する学問が盛んになりつつある。
 一国のとりうる外交・防衛政策はイデオロギーなどとは無関係に、その国に与えられた地理的条件でかなり左右される。

(1) 日本の地政学的環境特性
 日本の戦略環境を例示すれば以下のとおりである。
 ① 南北約3,700㎞、東西約3,100㎞、海岸線の総延長約35,000㎞に及ぶ長大な四面環海の弧状列島
 ② 海上保安庁の統計によれば、北海道・本州・四国・九州を含めた日本の構成島数は、6,852
 ③ 都市部に産業・人口が集中、重要施設も海岸部に多数存在
 ④ 宗谷海峡、津軽海峡及び対馬海峡(西及び東水道)及び大隅海峡の5つの国際海峡
 ⑤ 領土に懸かる係争 北方領土、竹島、尖閣諸島
 ⑥ 広大な排他的経済水域(EEZ)
 日本の領土面積は約38万km²で世界第60位に位置するが、領海およびEEZの総面積は世界6位となる。水域面積は広大で、領海(含:内水)とEEZを合わせて約447万km²で、世界で第9位である。


( 出典: http://garden.accueil.ne.jp/2014/01/post-164.html

 ⑦ 資源小国、貿易立国、科学技術立国、高い民族的均一性、安定的な治安状況  ⑧ 大陸近縁に位置する弧状列島  日本列島は、ユーラシア大陸の近縁部に位置している。大陸との距離は近からず遠からずと云う微妙な位置にある。大陸との交流は比較的密であるが、さりとて大陸から日本に大部隊が進攻するには四面環海であり相当な渡海能力を有する、かっては100万の兵力に相当するとも云われた。

(2) 逆さ地図から見えること
 ア 逆さ地図について
 「逆さ地図」と云われるものがある。富山県が作成した「環日本海・東アジア諸国図」がそれである。この地図は、富山県が、中国、ロシア等の対岸諸国に対して、日本の重心が富山県沖の日本海にあることを強調するため、従来の視点を変えて北と南を逆さにし、大陸から日本を見た地図としたものである。(下図)この地図は、実に示唆に富んでおり、以下この地図から見えることを説明する。


( 出典: http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1510/kj00000275.html
 この地図は、富山県が作成した地図を転載したものである。(平24情使第238号)

 イ シベリアから見た日本列島
 下図は、逆さ地図に筆者が矢印等を付記したものである。ロシアは帝政ロシア時代以来、伝統的に不凍港を求めて南下政策をとり、太平洋・インド洋等に自由に進出したいと切望している。ロシアにとってのクリミア半島の重要性は外洋への出口の要衝であり、是非とも自らの勢力下に置くべき地位を占めている。
 シベリアから見た場合、南下するには広大な中国が強大な障害になる、その点日本や朝鮮半島を手中に収めるか自由に経由することが出来れば太平洋への極めて良好なアクセスとなる。
 逆に云えば、朝鮮半島や日本は、ロシアの大洋進出の制約要衝となるということである。目障りでならないということである。


 ウ 支那大陸から見た日本列島等
 (ア)支那大陸から見える日本列島
    下図を見て頂こう。(筆者:逆さ地図に矢印等付記)
    支那大陸に蟠踞して、太平洋への進出を目論む場合には、日本列島そのものよりも日本列島の南西部分、九州から
   与邦国島まで、それに連接する台湾・フィリピンが、中国が太平洋に進出する際の障害になるのは一目瞭然である。更には
   台湾から連接される東南アジア島嶼諸国は、南シナ海からインド洋への進出を制約していると感じる。
    また、近未来の主敵であると考えられる米国との戦いを考慮すれば、日本列島から東南アジア島嶼国は大陸防衛の
   抵抗線・防御線でもある。
    逆に云えば、このライン上の島嶼が米国にとっての不沈空母的な拠点となった場合には極めて脅威となる。
    進出するためのラインであり、対米防御のラインである。敵の大陸進攻の足掛かりであり、後方支援拠点であり、
   大陸防御のために敵に渡してはならない要衝でもある。
    国家態勢的には、対中包囲網のラインであり、鬱陶しい存在でもある。閉じ込められていると感じるのも頷ける。


 (イ)海洋勢力から見た日本列島
    逆さ地図を逆さにして見てみよう。

    日本列島は、大陸包囲網の主要部を形成している。また大陸勢力の進出抵抗線であり、大陸進攻のための拠点や
   後方支援拠点ともなり得る。

    正に日本列島が何れの勢力側に位置するかによって、この地域の関係はガラッと変わってしまう。
    中国も、米国も日本列島の戦略的重要性を十分に知悉している。己の価値を知らぬは日本人のみであると云ったら
   言い過ぎか?

(3) 参考
 ア 山縣有朋の利益線論
   当時の情勢から、日本は、ロシアと清国の危機を管理するために、国家を規定する主権線と、国境から離れた地域に
  おいて国益と関係する境界線として利益線を提唱した。
 イ 南シナ海の中国による実効支配に関連して
   中国が血眼になって、南シナ海の実効支配(西沙諸島、南沙諸島、スカボロー環礁)を着々と進めつつあるが、
  それぞれの戦略的重要性は下図から明らかであろう。太平洋進出が困難である場合には南シナ海正面が重要正面となる。


 ウ 典型的な地政学理論(ウィキペディアから)
  ① ラッツェルの理論
  ② チェレンの理論
  ③ ハウスホーファーの生存圏理論
  ④ マハンのシーパワー理論
  ⑤ マッキンダーのハートランド論
  ⑥ スパイクマンのリムランド理論

(4) 地図を見て何が見えるのか?
  ① 包囲と被包囲
  ② 遠交近攻
  ③ 勢力均衡、同盟締結、分断
  ④ 国家発展軸と阻止
  ⑤ 弱点攻撃、資源入手
  ⑥ 国家生存の条件