山下塾第6弾

山下 輝男

第四話 日本の国家戦略と安全保障戦略(その1)

1話から3話を踏まえて、我が国の国家戦略及び安全保障戦略を考察する。

1 日本の国家戦略
(1) 国家戦略とは
   色々な定義が試みられているが、次のように考えれば、良いのではないだろうか。
   国家の生存・繁栄及び生き様を、外交的、経済的、軍事的方策等を駆使して達成する方策と考えれば十分である。
  「等」には心理的なものや文化的なものをも含むと解するべきである。
   生き様とは何か?国家としても、個人と同じく、如何なる国家足りたいかが問われている。生存や繁栄のみを
  追求するのでは、余りにも寂しい。世界の諸国から尊敬もされ、頼りにされるような国家像を生き様と名付けた。
   現憲法の前文にある「国際社会において名誉ある地位」を目指し、世界の国々から信頼もされ尊敬されるような
  国家を理想とすべきだろう。グローバルな共通的な理念や価値観を共有しつつ、世界各国と協調することが必要だ。
  この様な国家の生き様を求めていくことが肝要だ。
   国家戦略は、国益の最大限追及の方策であるとも云える。日本の国益とは何かを、日本の与件を基礎に考察
  して、確立する必要がある。

(2) 日本の国家戦略
   (1)項から考えられる国家戦略目標は以下の通りと考えればよい。
   ① 自由主義陣営
   ② 日米同盟を基軸に豪、印との連携、ASEAN協調・支援
   ③ 積極平和主義により国際平和への寄与
   ④ 科学技術立国、貿易立国の追求
   ⑤ 中級国家(覇権の不追及)

(3) 若干の補足
  ア ②について
    我が国が目指すべき方向性は、大陸との連携或いは進出ではなく、広大な太平洋等を活動の主たる場
   とする海洋貿易立国であり、米国、豪州、インドとの連携を考える。日米同盟、米豪同盟、日印戦略対話、
   日豪戦略対話等で二重三重に連携が深まりつつある。
    このダイアモンドの中にある国々特に、ASEAN諸国とは対中戦略上も重要であり、このダイヤモンドの
   中に取り込んでいくことが必要だろう。


  イ ⑤中級国家について
    日本が政治的な大国になるには、その国力上無謀な試みだ。米国のような超大国になる国力も勿論ないが、
   日本人の意識上も考えられない。中級国家と云っても、国際政治的に重要な役割を果たさないかと云えば
   そういうことではない。グローバルな安定化に寄与すべき責務を有していると認識すべきだし、そういう
   能力も有している。


2 国内外情勢概観
 国家戦略目標の達成に影響を及ぼす国内外情勢を概観しよう。下図は、先般の講演の際に使用したスライドである。


(1)1項について
   絶対的なパックスロマーナを謳歌した米国は、ベトナム戦争で疲れ、イラク戦争で傷つき、その威信は低下
  した。国防費の削減圧力も強く、民主党政権の国際政治への関与・関心の低下もあって、相対的な退潮傾向と
  云える。
   一方、かっての冷戦の対局であったロシアは、今や見る影もないと云ったら言い過ぎであろうが、そのように
  評されても良いぐらいの影響力しか持ちえない。対して、眠れる獅子と評された中国は、長い鬱屈した時代を
  経て、どうやら目覚めたようだ。
   斯様に、グローバルなパワーバランスの地殻変動が起きつつある。
   目覚めた中国がどこに向かおうとしているのかが全世界の最大の関心事項である。
   G2論を米国に認めさせたこと、軍事費の急伸振り、AIIBの設立や南シナ海等における海洋進出状況、
  一路一帯構想の提唱等を考えれば、米国の覇権に挑戦しているかに見える。中国主導の国際秩序構築に邁進
  しているかのようである。
   中国が、日米欧等の諸国と価値観や理念を共有し、現行国際システムに従うのであれば、彼等の成長を歓迎
  こそすれ、脅威に感じることはないのだが…
   米国は伝統的に支那大陸に異常な関心を示してきた。経済的な魅力を感じているようだし、中国の
  米国債保有に脅威を感じても居るようだ。一方、安全保障という観点からは、中国に対して信を置いていない、
  近未来の敵対国と位置付けてもいるようだ。米国の対中政策は、この両極の中で時に右にそして左にと
  揺れている。わが国としては、このような微妙な心理を承知して付き合う必要があり、極端な対中接近が
  起きないような対米政策を考慮すべきだ。


(2)2項について
   アジア諸国は経済的に台頭する中国経済に依存せざるを得ないが、さりとて全面的に依存していいものか
  どうか疑心暗鬼・逡巡している。中国に取り込まれ、飲み込まれるのではないかと恐れているのだ。
   中国は軍事力を背景に経済的なASEAN進出を積極的におこない、ダイアモンド戦略の分断を図っている。

(3)3項については、国際情勢を考える視点で説明したとおりである。中国やロシアの最近の行動を見れば
  首肯出来よう。

(4)4項について
   9.11米国同時テロ以降、世界はテロの時代に突入した。記憶に新しいのは、ダッカ・レストラン襲撃
  人質テロ事件である。現地時間で2016年7月1日の夜、バングラデシュの首都ダッカのレストランで、武装
  した7人が襲撃したテロ事件である。この事件では28人が死亡したが、うち17人は外国人、2人が警察官で、
  犯人のうち6人も射殺された。うち7人は日本人であった。

(了)