第三十八話 対米最後通告遅延責任は現地大使館のみか?

山下 輝男


「日本人は、宣戦布告なしに真珠湾を奇襲攻撃し、騙し討ちした卑劣な民族」とレッテルが貼られ、「リメンバー・パールハーバー」として、米国民をして対日参戦に一気に舵を切らせた「対米最後通告の遅延」問題の責任の所在について、駐米日本大使館員の勤務怠慢との定説に対して異論が出ている。



 先ず、定説を確認してみたい。

① 12月6日 日本は、対米交渉打ち切りの通告文及びワシントン時間12月7日午後1時に米側に手交することを決定した。攻撃開始に先立つ対米最後通告は天皇陛下のご指示でもあった。山本長官もしつこく確認している。

② 外務省から野村大使には、5日「明日から外交電を送る。」旨のパイロットメッセージが発せられ、14部の対米覚書のうち8部は、6日2000頃までに解読終了、送別会終了後に職場で7日明け方までに13部迄を解読終了していた。最後の14部目も7日1000までには解読を終えていた。解読した文書はタイピストを使わぬようにとの指示もあり、高等官たる書記官が7日朝からタイピングにかかった。この間、修正電報や慰労電報等があり、中には至急電もあり最後の14部目の電報が解読に回されたのは数時間後であった。慣れぬタイピングにミスも相次ぎ、時間は過ぎていった。

③ 野村、来栖両大使が、ハル国務長官に合って最後通告を手交したのが、本来渡すべきであった午後1時を1時間以上も過ぎた午後2時20分
 マレーのコタ・バルに日本部隊の上陸が始まったのは、これより2時間30分前
 因縁のハワイ真珠湾に最初の爆弾投下はこれより1時間前
 大使館は、独断で、両大使のハル長官面談時間を延ばすよう申し入れている。


④ 米側は、日本側の電文を全て傍受・翻訳済みで、日本側の意図を承知した上で、対支と会見、叱責もし、素知らぬ態で、最後通告を受け取った。


 以上の定説からは現地大使館の不手際・怠慢との謗りも当然だろう。この定説は、東京裁判において、外務省本省の局長等の証言や東郷外相が遺稿において在米大使館の過失を強調したこと等により定着したと思われる。


 以上の定説に対し、幾つかの異論が表されている。

① “外務省は最後通告の原文を改竄したのではないか”との疑念
(本件に関する質問主意書への答弁(2007//23)では“確認できない”と回答)
“14部分割が事前連絡されていなかった”のであれば、現地大使館の責任は?


② 14部目の発信は意図的に遅くしたのではないか?

③ 最後通告は果たして最後通牒なのか?宣戦布告との文言がない。

④ 14部目にあった、「一切の事態」との文言が削除されているのではないか?

⑤ 抑々、自衛戦争に宣戦布告は必要あるのか?との問いもある。
(この件については大本営政府連絡会議でも議されている。)


⑥ 外務省本省には本当に責任はないのか?電報形式、優先順位の付与等は
現地に責任を押し付けているのではないかとの論もある。


⑦ 意図的な訂正電報の発信があったのではないか?(大使館の作業を遅延させるため)


 日本だけの問題であるにも拘らず、未だに異論が出され、また外務省本省の責任が全く不問とされている事には聊か違和感がある。責任の所在を明確にしてこその、教訓摘出だろう。事実確認と責任の所在を有耶無耶にしないことが招来の為にも肝要だ。

(第三十八話 了)