第五十一話 恐竜は滅びる(ノモンハンの教訓は)

山下 輝男


 ノモンハン事件は、ある意味では思い出したくもない戦いである。巷間、近代的な装備と物量を誇るソ連軍に日本軍が壊滅的な惨敗を喫し、その事実をも隠蔽して、益々精神主義に傾倒していったとされる。戦争目的を達することもなく、北進論者であった陸軍が南進論に方向変換したとも。
更に、本戦争において日本陸軍の弱点(幕僚統帥、現地部隊の独断専行、無能な高級将校と勇敢な下士官・兵、兵站軽視、そして近代軍に肉弾戦で挑む愚)がいみじくも露呈したとされる。その全てを論じるには、許された紙幅では極めて不十分であるので、他に譲り、本稿では幾つか指摘するに止めたい。

1 ノモンハン事件の概要
 本事件は、満州国とモンゴル人民共和国の国境紛争に端を発した日本とソ連との大規模な国境紛争であった。戦いは、単なる局地戦に止まらず、謂わば全面戦争ともいえるレベルに発展した。張鼓峰事件を含む満蒙国境の紛争が大規模な作戦に発展したのである。

 1939(S14)年5月11日~9月16日の間、日本軍の損害率は、実に76%であり、日本陸軍始まって以来の惨敗であった。最も、最近判明したところではソ連軍の損害は日本軍を上回っていたという。
 作戦は一般的に二期に区分され、第一期は、フィフティ・フィフティで、第二期は日本軍の惨敗であったとされる。



2 幾つかの所懐
① 陸軍中央の意向を無視した「満蒙国境紛争処理要綱」の作成は極めて問題だ。
② 大敗・惨敗ではあるが、ソ連軍の損害は日本軍を上回っており互角に戦っていたのではないかとの指摘も最近されている。敢闘・健闘したともいえる。
③ 隠蔽したとされているが、少なくとも陸軍内においては教訓の共有はされていた。国家としての教訓にすべし。旧態依然たる組織は滅亡する。
④ 科学的近代的な軍隊創設の必要性を認識していたとしても、それを具体化することはなかった(出来なかった)。結果的に精神主義が更に増長。
⑤ 幕僚統帥、現地部隊の独断専行は断じて容認すべきではなかったし、厳しく対処すべきであった。大なる禍根を残した。
⑥ ソ連軍に関する戦略・作戦情報の入手不十分、軽侮?戦力集中の誤断?
⑦ 独ソ不可侵条約:政治指導者が、「複雑怪奇なり」という愚、不勉強さ
⑧ 地続き国境の警戒監視⇒島国の日本には難しい課題?
⑨ 戦没者遺骨収容遅延、国家の責任としての対応が望まれる。
⑩ 紛争の局地限定化の困難性 国家が乗り出し調停
⑪ 北支での戦いも完全終息しない中での日ソの戦いの是非、受身とは云え!

(第五十一話 了)