第六十六話 特務機関は悪か?

山下 輝男


 「諜報(活動)」は悪で、不正義、非合法活動であり、残虐非道なる活動を行う特殊部隊とのイメージが付き纏う。その批判の前に、帝国陸海軍が創設した特務機関を概観する必要がある。海軍にも存在した。

1 特務機関とは 
 公式には日本陸軍の平時編成上の機構のひとつで,軍隊,官衙、学校を除く特別な軍事機関のこと。元帥府,軍事参議院,外国駐在武官などとされているが、一般的には、平時・戦時を通じて諜報・宣撫工作・対反乱作戦に当たった特殊軍事組織と言える。
 日露戦争中の明石元二郎大佐による「明石機関」の活動を契機として、シベリア出兵以降、陸軍では特殊任務にあたる実働グループを「特務機関」と呼ぶようになった。
 陸軍は中国各地の地方政権や軍閥に軍事顧問(団)を派遣した。それらの軍事顧問と配下の機関員ら含む、組織全体でもって「特務機関」として活動していた。


2 機関名と任務(広範に展開し、多様な任務を、異郷において長期間に亘り)
① 奉天特務機関(土肥原賢二大佐、国民政府との和平工作) ②綏遠特務機関(田中隆吉大佐、蒙古地区工作)③上海特務機関 ④ハルピン特務機関 ⑤ハイラル特務機関  ⑥興安特務機関(金川耕作大佐、蒙古地区工作)⑦梅機関(影佐禎昭大佐、汪工作)
⑧ 松機関(対重慶経済工作) ⑨竹機関(対重慶経済工作) ⑩菊機関
⑪ 桜機関(対重慶経済工作) ⑫小野寺機関(小野寺信中佐、対ソ諜報工作)
⑬ 北原機関(北原竜雄大佐、対中国共産党工作) ⑭坂田機関(坂田誠盛大佐、対重慶経済工作) ⑮南機関(鈴木敬司大佐、ビルマ独立工作、ビルマ義勇軍養成)
⑯ 藤原機関(藤原岩市少佐、F機関、マレー作戦支援、インド工作) ⑰岩畔機関(岩畔豪雄少将、インド独立工作) ⑱光機関(山本敏大佐、インド独立工作)
⑲ ペナン特務機関(岩畔機関、インド人に対する特務教育) ⑳安機関(金子正剛大尉、フランス軍工作、ベトナム支援 ㉑西原機関(西原一策少将、援蒋物資ルート禁絶)㉒その他(太原陸軍特務機関、山西陸軍特務機関、大同陸軍特務機関)
海軍は①海軍特務部、②X機関(暗号無電傍受・解読)③G機関(上海と東シナ海沿岸の諜報・謀略工作)




3 評価等
○ 機関長以下特務機関員は、純粋にアジア解放を理想として任務に邁進したのは事実。
○ F(FujiwaraのFとFreeのF)機関後に岩畔機関に改組、更に光機関に改組され、当初はマレー作戦支援に従事し、後に自由インド仮政府軍の育成に寄与、光機関は1943(S18)年、ナチス・ドイツに亡命していたインド独立運動の大物チャンドラ・ボースを迎えた。光機関の命名はインドの言語(ヒンディー語)で“ピカリ”という言葉と、「光は東方より来る」との伝説から“光”とされた。
○ 南機関は、ビルマ独立義勇軍の誕生に貢献した。今日の日本とミャンマーとの友好関係の基礎を築いたとも評価されている。
○ 陸軍中野学校出身者が活躍した。卒業生総数2500余名、各作戦に従事
○ 活動の性質上、その成果を詳らかに出来ない面もあろう。

 謀略(と諜報は異なる。)は不可だが、諜報活動はあって然るべきではないだろうか?その要否等に関する議論が行われていいと思うのだが・・アレルギーの強い現状では無理なのだろう。複雑な国際情勢の分析に資するような諜報活動は為されるべきではないか?国家としての情報機関の創設が必要だ。陸軍が創設展開した特務機関とは違う形できめ細かい諜報活動を行う必要性は高まっている。

(第六十六話 了)