第六十七話 自決を命令・強要することはあり得ない

山下 輝男


 大東亜戦争末期沖縄における戦いの中で、住民の集団自決があり、それは軍命令によるものだとした大江健三郎氏の著書を巡る名誉棄損訴訟が行われ、2011年結審し、原告側の敗訴が確定している。

1 座間味、渡嘉敷両島の集団自決と裁判
 沖縄戦開始直後の昭和20年3月下旬、両島に上陸した米軍に追い詰められた多数の住民が手榴弾のほか、鎌や鍬などを使って自決した。死者は座間味島で約130人、渡嘉敷島で300人余りとされるが、正確な人数は不明である。
 住民の集団自決を命じたなどとする記述で名誉を傷つけられたとして、座間味守備隊
 長梅澤裕元少佐(故人)、渡嘉敷守備隊長赤松嘉次元大尉の弟等が、岩波書店と作家の大江健三郎に著書「沖縄ノート」の出版差し止めや損害賠償などを求めた訴訟があった。
 この上告審で、最高裁第1小法廷(白木勇裁判長)は、2011(H23)4月21日に、原告側の上告を退ける決定をした。大江氏側の勝訴が確定した。


2 軍の強制性の有無に関する双方の主張(名誉棄損関連は除いた。)
(1)否定する側
・梅澤裕、赤松嘉次は「集団自決」命令を発していない
・命令によるとの証言は援護法適用のためのものである
・宮城晴美の『母の遺したもの』により、梅澤裕が命令を発していない事が明らか
・曽野綾子の『ある神話の背景』により、赤松嘉次が命令を発していない事が明らか 
・梅澤裕は自決用の弾薬などを求める村民に対し、「帰れ、死んではいけない」と述 べている


(2)被告側の主張
・梅澤裕、赤松嘉次は「集団自決」命令を発した、もしくは発したと信じる十分な理由がある
・梅澤命令説、赤松命令説は、援護法適用以前から存在する。それを示す多数の資料や文献が存在する
・宮城『母の遺したもの』はむしろ、軍命があったことを裏付けている。宮城の母と梅澤とのやりとりの内容は、原告の主張とは大きく隔たっている
・曽野は、当時兵事主任で赤松隊の命令を伝達した富山に1969年に取材し、「軍命」の証言を得ているにもかかわらず「会ったことはない」と虚偽の証言をしている。『ある神話の―』は、一方的な見方で不都合な要素を切り捨てており、信用性があるとは言えない。
・梅澤が弾薬提供を拒んだのは、敵を倒すための物を自殺になど使わせたくなかったからであって“死ぬな、命を大切にしろ”という意味ではない。



3 論点
 住民に対する自決命令の有無が争点だった筈だし、その点については、裁判所は、軍命令があったと断定できる証拠はないと認めていた。然しながら、「関与があった」との曖昧模糊としたものを根拠として、原告棄却している。論点が変わったような気がする。鬼畜米英に何されるか解らないのであれば、死ぬのも止むを得ないとの集団心理や空気は多分にあったのだろう。断じて言えることは、国民を保護すべき軍が住民に自決を命令することはあり得ない。もし仮に、有ったとしたら、それは違法な命令だ。全ての将兵が解っていた筈だ。

(第六十七話 了)