第八十四話 甘く切ない声のDJ(東京ローズ)は誰?

山下 輝男


 戦時中は、プロパガンダ放送が行われるのが常だが、大東亜戦争間、日本も「ラジオ・トウキョウ放送(現在のNHKワールド・ラジオ日本)」で、米・英・豪軍向けに行っていた。アナウンサーの、その甘く切ない声に魅了され、「東京ローズ」と名付け、心待ちにしたという。未だにその声の主は特定されていないようだ。


1 ゼロ・アワー
 日米両国は開発されたばかりの短波放送を使って最前線に情報を伝える一方、互いに厭戦意識を植え付けようとプロパガンダ放送を行った。
 番組改正により、「ゼロ・アワー」が、1943年(昭和18年)3月から、1945年(昭和20年)8月14日まで放送され、太平洋前線のアメリカ軍兵士等の評判となった。
 軍当局の発案で、連合国軍捕虜の中のラジオ放送の専門家を使う事にした。音楽と語りを中心に、米人捕虜が連合国軍兵士に向けて呼びかけるというスタイルを基本とした。


2 東京ローズ
 英語を話す女性アナウンサーは複数存在したが、いずれも本名が放送されることはなく、愛称もつけられていなかった。アナウンサーは自らを「孤児(みなしご)のアン」と名乗っていた。この中の特定のDJを、米兵士達は声の主に「東京ローズ」の愛称を付けた。意外にも美しく、且つ甘く切なく挑発的な声で「貴方の奥さんは今ごろ他の男に抱かれているわ」等と戦意喪失・ホームシックを煽ったようだ。上品な口調で下品な言葉を繰り、予言めいた発言までとも云われる。
「東京ローズ」はアメリカ本国でも注目され、記事になり映画も公開された。



3 「東京ローズ」探し
 終戦後、来日した米人記者達は東京ローズを、GHQの制止を振り切っても捜し回った。「ラジオ・トウキョウ放送」側は、アメリカの従軍記者の取材に対し、東京ローズと名乗った女性は一人もいないと回答した。
 候補者1:女性飛行家のアメリア・イアハート
 候補者2:アイバ・戸栗・ダキノ(アイバ・戸栗・郁子)(本人が認めた。が、声質や放送内容が一致せず。)何故、本人は認めたのか?
 候補者3:日本初女性英語アナウンサーであるジェーン・須山こと須山芳江(本命?)


4 アイバ・戸栗・ダキノのその後
 日系アメリカ人2世、加州育ち、1941(S16)年(昭和16年)7月に叔母見舞い来日
 そのまま日本滞在、DJを引き受ける。戦後巣鴨プリズンに拘置(反逆罪容疑)、逮捕され、強制送還、最も重罪である国家反逆罪で起訴された。
 判決は有罪で、禁錮10年と罰金1万ドル、アメリカ市民権剥奪等、女性として史上初の国家反逆罪となった。6年余りの服役後、模範囚として釈放された。
 1977年、特赦により米国籍を回復した。晩年の2006年1月に、「困難な時も米国籍を捨てようとしなかった“愛国的市民”」として退役軍人会に表彰され、感激の涙を流している。2006年9月26日、脳卒中のため、90歳で死去。数奇な人生だった。


5 ザカライアス放送:米国の対日短波放送ラジオによる対日宣伝
 独の降伏後から開始された。基本的に毎週土曜日、14回実施。和平派と強硬派の分断が狙いだった? 要路に対する対日和平メッセージの面もあった。最も、日本では短波放送の受信は禁じられていた。

* 現在のような高度情報化社会における対外宣伝はどうするべきなのか? 自らの正当性すら発信することを躊躇する御国柄で良いのだろうか?「宣伝」に対する悪いイメージの払拭が必要だ。

(第八十四話 了)