第八十七話 大東亜戦争の「開戦時における戦争指導計画上の問題点」

山下 輝男


 大東亜戦争の周辺話題(それはそれで大事なトピックスであるのは確かだが・・)から話を本筋に戻す。小生の書棚に300頁余りの大著がある。「大戦略なき開戦」(原四郎(士44期)著 原書房)がそれである。その12章は、「開戦時における戦争指導計画上の問題点」となっており、小生も大いに参考にさせて頂いるのだが、含蓄に富んでいる。40頁弱の内容を簡潔に紹介するには無理があるので、項目のみを紹介し、その意のある所を汲んで頂ければと思う。


1 戦争指導計画の廟議決定なし
① 作戦の先行専行 
② 天皇に対する配慮上戦争指導計画の廟議決定を差し控える
③ 「対米英蘭蒋戦争終結促進に関する腹案」に作戦を統制する権威なし


2 戦争の性格に対する認識のフィードバック徹底不統一
① 長期持久戦 
② 航空、船舶の消耗戦 
③ 民需用船舶三百万総トン確保が絶対不可欠


3 作戦様相を誤断す
① 陸海軍共に大艦巨砲、艦隊決戦思想を脱却し得ず 
② 陸軍は太平洋戦面に一兵の陸軍運用を予定せず 


4 戦争相手の決定慎重を欠くうらみあり 
① 南方局地政略出兵戦争から対米英蘭全球絶対戦争への質的転換―政略介入の余地なし
② 対米戦争は受けて立つべく努むるを可とすべし


5 南方要域攻略後の戦争指導大綱を開戦時確立し置くを要す
① 蒋介石政権との早期単独和平の実現 
② 西太平洋における政戦両略上の長期不敗態勢の確立


6 戦争目的の混迷
① 戦争目的は自存自衛の一事にあり 
② 戦争目的として大東亜新秩序建設を加えたのは過望かつ軽率である 
③ 情報局の失態及び東条首相の演説を始めとする戦争目的の混迷



 戦争指導の要諦は、『支那事変戦争指導史』の著者堀場一雄氏(陸士34期、支那派遣軍参謀、 元戦争指導班長)が喝破しているように、「戦争目的の確立、進軍限界の規整及び戦争終結の把握」である。
 大東亜戦争の戦争指導は、その何れにも違背しており、誠に残念である。
 孫子の兵法「謀攻篇」に「百戦百勝は善(ぜん)の善なるものに非(あら)ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」」とあるが、そのような方策はなかったのか? 支那からの撤兵決断が「鍵」だと感じるのだが・・出来ぬ相談か?
 戦争に引きずり込まれない為にどうすべきだったのか、ドカ貧よりもじり貧を選択すべきだったのか?一時の屈辱にも耐えるべきだったのか?その場合、民族、国家の誇りはどうなる? 政戦略の一致こそが大戦略の肝だが、日本では特に昭和期においては政戦略の一致はなかった。陸軍の政治化は避け得なかったのだろうか?
 (本件に関しては何れ書く所存です。)

(第八十七話 了)