第九十四話 対立から良きライバル関係へ

山下 輝男


 大東亜戦を通じて思い知らされるのは、陸海軍の対立或いは相克である。厳しい陸海軍の相克があるのは確かに、旧帝国陸軍と帝国海軍のみではなく、何れの国でも多かれ少なかれ見られる共通的な宿痾みたいなものだ。が、帝国陸・海軍の相克は列国に比して際立って激しいような気がしてならない。埋められない溝があるので、表面的な語句だけで帳尻を合わせてしまい、それが後に国家に重大な危機を齎してしまう。以下参考事項を記したい。

1 建軍以来の「陸主海従」思想とそれへの反発
 陸海軍創設経緯、兵部省からの分離、統帥機構の整備等を通じて人員予算の多い陸軍が主となり、海が従となる態勢が長らく続き、対立・相互不信につながった。為に海軍は常に陸との対等性(パリティ)を頑強に主張、日本はもともと陸軍国であったが、対外戦争を通じて海軍国ともなった。

2 興味と関心の差異が体質に
 陸軍は、土地や兵隊そして国家について関心が高く、海軍は超然として技術や艦艇以外にはさしたる関心等なし。


3 国家予算の獲得における対立
 国家予算の獲得は、政治のリーダーシップなく、陸海軍省は激しく対立した。その余波が、現地部隊にまで及んだ面は?


4 仮想敵国の相違
 伝統的にソ連を仮想敵とする陸軍と米海軍を建艦努力目標とした海軍


5 出師準備(戦争準備態勢)に時間を要する海軍と招集で戦力造成が可能な陸軍
 海軍は兵の戦力化に時間を要す。


6 戦争決意の陸軍と決意なき海軍

7 建軍の範とした国の差
 陸軍はメッケル少佐招聘来独陸軍を範とし、海軍はロイヤルネービーに憧れた。


8 陸軍の政治化と反政治的体質の海軍
 陸軍は大正期以降政治化したが、海軍は常に政治から一歩身を引こうとしていた。
 五一五事件は例外的だし、政治的な幕僚が居なかった訳ではないが僅少。


9 陸軍の暴走を牽制するは海軍の役割との認識

10 陸海軍の調整役たる天皇は無為が原則、首相等も調整・裁定役たり得なかった。

11 物動計画、船舶割当問題は戦争遂行力に直結し、陸海が深刻な対立惹起。

12 現地レベルにおける協同はスムーズに行われた例もあるが、国家レベルにおける無理解、相互不信が波及して齟齬をきたす面多々あり。給養の差の相違が微妙な影響を及ぼした面がある・・?

13 大東亜戦争初期は対ソ優先を主張する陸軍と北守南進を主張する海軍の対立
 国策の方向性を巡る対立:日清日露戦で流した血に拘り大陸からの脅威を常に意識する陸軍と自由な海洋に力点を置く海軍

14 陸軍内に親独派の増大、冷ややかな海軍、されど海軍にも親独派増大

15 統帥部の統一に対する海軍首脳の強烈な反対 

16 対米艦隊決戦思想の海軍と対露支作戦体制重視の陸軍は抑々相容れない?

* 自衛隊でも、陸海自の意見相違やライバル関係がない訳ではないが、帝国陸海軍ほどではない。防大が果たしている役割は大きい。更に主敵の認識が同一、統合体制の樹立も朗報。更に政治的リーダーシップが効いていると信じる。対立している余裕がないもの事実だ。空自を含めて共に切磋琢磨して日本の安全保障に貢献するを切望

(第九十四話 了)