(25) 父祖に対する濡れ衣を取り払わねばならない

元自衛官 宇佐静男

 これまで韓国は、事あるごとに「従軍慰安婦問題」について、謝罪と補償を日本に求めてきた。平成23年8月、韓国の憲法裁判所が「韓国政府が日本に対して元慰安婦の賠償請求のために外交交渉をしないことは憲法違反」とする判決を下した。韓国の反日団体は、ソウルの日本大使館前に慰安婦の「記念碑」設置まで計画している。
 そもそも「従軍慰安婦」という言葉は、戦後捏造されたものである。国家や軍による慰安婦の動員や強制はなかったことは、これまでの調査によって判明している。にも関わらず、「従軍慰安婦」を声高に主張し、「日本が強制した性奴隷」というデマを国際社会に垂れ流し続ける。
 日本も責任がある。慰安婦問題が主張される度に、政治家も国民も事なかれ主義に逃避し、反論することもなく反射的に頭を下げてきた。これでは捏造された歴史を認めることになってしまう。
 事の発端は吉田清治氏が昭和五十八年に書いた「私の戦争犯罪」という本である。著者は「済州島で9名の兵隊と共に約200名の朝鮮人女性を強制連行して慰安婦にした」と記述し、済州島での様子を描写した。後の調査で、これは創作だったことが判明したが、本が独り歩きした。
 平成元年、韓国語に翻訳され、韓国の人々を激昂させる。平成4年には、朝日新聞がとり上げ、根拠もないまま日本軍や警察が「慰安婦狩り」をやったと書きたて、韓国人の怒りを煽った。
 この本に疑問を持った許栄善氏(地元の新聞「済州新聞」の記者)は、詳細な聞き取り調査を実施し、「慰安婦狩りの話を裏付け証言する人はほとんどいない。島民もでたらめ」と一蹴している。
 金奉玉氏(韓国の郷土史家)も詳細な現地調査を実施し、次のように述べた。「昭和五十八年に日本語版が出てから、何年かの間、追跡調査をした結果、事実でないことを発見した。この本は日本の悪徳ぶりを示す軽薄な商魂の産物と思われる」(「ほんとうは、『日韓併合』が韓国を救った!」松木国俊著WAC社)
 吉田氏も調査結果を突き付けられ、創作だったことを認めたというが、遅きに失した。日本発の嘘から始まり、韓国全土で「慰安婦狩り」が独り歩きした。本を売る為という私利私欲の所業が国家を売ることになったのだ。
 戦前は日本も朝鮮も、他国と同様、売春そのものが合法だった。今、この是非善悪を裁いても意味はない。悲しいことであるが、貧しい女性たちが生きる糧を得るために、また親兄弟を養うため、身を売ったこともあった。戦争になれば、危険に見合う多額の収入を求めて、多くの「売春宿」経営者が戦地に赴き、商売を始めた。当時、工場で働く女性の平均月給は約30円、戦地で働く慰安婦は約300円だったという。知事や軍の大佐と同じくらいの高給だった。
 経営者は軍とは関係ない一般の民間人である。もちろん募集は民間人が実施し、軍や官憲は一切タッチしていない。当時、慰安婦募集に悪徳業者が様々な問題を起こしたこともあった。「軍の依頼」と嘘をついて募集したり、あるいは子女を誘拐して満州に売り飛ばし、金儲けを企むという卑劣な事件もあったという。
 内務省は、こういう事件は「帝国の威信を傷つけ、皇軍の名誉を害う」として、「契約内容や事情を調査して、略取誘拐等がないよう留意すること」「軍の名を騙る業者は厳重に取り締まること」など通達している。「朝鮮における慰安婦の不法な募集禁止」も閣議決定した。軍にあっては、兵士が飲酒して暴れたり、慰安婦や経営者に暴力をふるったりしないよう、不届き者を憲兵が厳しく取り締まった。
 軍や政府は、不法な募集を禁止し、慰安婦の健康指導や、人権を損なうことがないよう関与しているのであって、強制連行に関与した事実は全くないのだ。
 平成4年、朝日新聞の報道により再燃する。大学の教授が「軍慰安所従業婦募集に関する件」という陸軍省の文書を発見したと報じた。内容は「慰安婦の募集に対し、軍の名義や権利を利用して」誘拐に類するような悪徳業者がいるので、警察と連携して防止を指示する文書であり、軍による強制連行をむしろ否定するものであった。
 だが、朝日新聞はタイトルに飛びつき、内容とは逆に「募集について軍の関与があった」「強制連行があった」と世論を誤誘導した。これを受け、東亜日報は更にエスカレーションさせ、「12歳の小学生まで動員し、戦場で性的にもてあそばれた」と報道し、韓国の世論を激昂させた。
 狼狽した宮沢内閣は、「外交上の配慮」として強制連行の事実を認める方向で検討に入った。だが「証拠となる資料が発見されないことから、対応に苦慮」した結果、韓国が作成した資料と元慰安婦の証言のみで「従軍慰安婦問題に旧日本軍が関与したと思われることを示す資料が発見されたことを承知しており、この事実を厳粛に受け止めたい」と謝罪した。
 証拠資料を精査せず、裏付け調査もなしに謝罪した宮沢内閣の罪は重い。元慰安婦の証言も、後の調査で信憑性が無いことが判明している。文書を発見した教授も、慰安婦強制連行は証明できていないことを認めている。
 内外世論に押されて実施した二度にわたる政府調査でも、「強制連行させないための政府の関与」は認めたが、強制連行を立証する資料なしと結論づけた。
 当初、あまり問題にしたくない雰囲気だった韓国政府も、激昂した世論を放っておけず、「強制連行」の認定を日本政府に強く迫るようになる。当時の官房副長官、石原信雄氏は次のように証言している。
 「一切強制連行した証拠は見つからなかった。『強制連行がなかったとすると、韓国が言論を押さえられない。賠償は請求権協定により、一切要求しないから、あったことにしてほしい』と依頼され、政治的に認めたものである」
 訪韓した宮沢首相は反日の嵐の中で謝罪と反省を八回も繰り返した。謝れば事は収まるとの甘い読み、とにかくその場は収めたいという事なかれ主義が日本の国益を大きく損なうことになる。
 「以心伝心」は日本の美徳である。だが、国際関係においてこの美徳が通用すると思うのは日本人のナイーブさに違いない。悪意を持って謀略宣伝を行う勢力を勢いづかせるだけなのだ。
 これに気が付かない日本政府は、平成5年8月4日、戦後最大の外交汚点となる「河野談話」を発表する。談話で「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれにあたったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意志に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことがあきらかになった」と述べ、重大な人権侵害を認め、謝罪してしまった。
 根拠も示さぬまま「官憲等が直接これに加担したこともあった」の一文は、軍と官憲が強制連行に関与したことを既定事実とした。その後の日本非難は、全て「河野談話」が根拠となる。韓国での国家賠償を求める裁判や、米国、欧州での「慰安婦非難決議」も「河野談話」を証拠としている。「河野談話」は、日本政府の思惑とは逆に、慰安婦問題を益々エスカレートさせてしまう。
 韓国の中学、高校の国定歴史教科書では「女性までも挺身隊という名で連行され日本軍の慰安婦として犠牲になった」と記述。「女子挺身隊」まで「慰安婦」と意図的に混同させる始末である。
 「女子挺身隊」とは、戦時中多くの成年男子が出征したため、兵器工場などが極度の人手不足になり、男子に代わり工場で働いた女子の組織のことである。
 自発的な勤労奉仕団体だったが、戦争の激化によって昭和19年、「女子挺身勤労令」という法律が公布され、12歳から40歳までの独身女子が動員された。朝鮮半島ではこの法律は施行されなかったが、朝鮮でも愛国心に燃え、多くの女子学生が自発的に工場で勤労に就いた。この「女子挺身隊」が「強制連行された慰安婦」との構図で語られているのだ。
 「河野談話」後は、「慰安婦と女子挺身隊とは異なる」「政府や軍は慰安婦募集に関与していない」と、いくら真実を述べようと「河野談話にも関わらず歴史を捏造している」と聞く耳を持たれなくなった。今や「従軍慰安婦という言葉はない」という真実さえ語るのをはばかられる状況だ。
 日本人の事なかれ主義、その象徴たる「河野談話」の罪は重い。現代に生きる日本人が父祖に濡れ衣を着せ、父祖の顔に泥を塗ったのだ。「日本は何十万という女性を『性奴隷』にした20世紀最大の野蛮国」という荒唐無稽なレッテルまで貼られようとしている。
 放っておけば、益々エスカレートすることは間違いない。韓国憲法裁判所の判決も然り。日韓基本条約見直しの動きまで出てきている。そうなれば日韓関係は根底から揺らぎ、北東アジア情勢も不安定となるだろう。
 日本の汚名を雪ぎ、正しい日韓関係を構築するためにも、今こそ全世界に向かい、勇気を奮って歴史的事実を、体系的かつ丁寧に説明しなければならない。父祖に対する濡れ衣を取り払うことは、北東アジアの安全保障そのものなのである。

宗教法人念法眞教機関紙「鶯乃声」 2012年2月号より転載