(21) 「トモダチ作戦」と対中国戦略

元自衛官 宇佐静男

 3月11日の東日本大震災発生後、国際社会からの支援申し入れは161の国と地域に及び、23カ国から緊急援助隊が日本に到着した。
 中でも米国の支援は一段と際立っていた。「トモダチ作戦」と名付けられ、最大人員約2万人、艦船約20隻、航空機約160機が投入された。
 震災直後から大量の食料や水を被災地に運び、自衛隊とともに三陸沖で行方不明者の捜索、そして仙台空港の復旧や瓦礫除去にもあたった。福島原発事故に対しても、専門部隊を派遣すると共に、無人偵察機からの映像を日本側に提供した。
 震災当日、オバマ米大統領は次のような声明を読み上げた。
 「友情と同盟関係は揺るぎなく、日本の国民がこの悲劇を乗り越える上で、    立場を共にする決意は強まるのみだ」翌12日には、「米国として日本に対する可能なあらゆる支援を行う用意がある」明言している。
 陸海空、海兵隊からなる統合軍を編成し、司令官には海軍大将を起用。米韓合同演習のために航行中であった空母ロナルド・レーガンを、即座に三陸沖に展開したことでも、米国の本腰の入れ様が伺われる。
 沖縄で厄介者扱いされている第31海兵隊遠征隊は、揚陸艦エセックスで被災地沖合いへ急行。孤立している気仙沼市の離島、大島に救援物資、工事用車両、及び電気工事作業員を上陸させ、瓦礫除去作業を含め島民支援に大活躍した。トモダチ作戦は約2ヶ月にわたって実施された。
 一方、中国は東日本大地震に、いつもとは違った高い関心を寄せた。中国メディアは、甚大な被害を報じる一方、整然と列を作って帰宅する市民や日本人のマナーの良さ、パニックにならない日本人の冷静さを賞賛した。
 中国政府はレスキュー隊員7人、医師1人を含む15人の緊急援助隊を編成し、13日に羽田空港に到着。岩手県大船渡市で行方不明者の捜索などに当たった後、1週間後の20日には帰国している。
 韓国からは12日に隊員5人と救助犬2匹が到着。その後救助隊員102人が追加派遣され、約10日間活動して23日には全員帰国している。
 米国、中国、韓国はじめ多くの国が支援の手を差し伸べてくれたことには、日本国民として心から感謝しなければならない。支援の多寡によって、支援国の気持ちを忖度することは慎重でなければならない。だが5ヶ月以上が過ぎる今も、震災の爪跡が残る惨状を垣間見るとき、自国並みの復旧活動にあたってくれた米国へは、理屈抜きに深い感謝の念を覚える。数十人規模で1~2週間という支援が大多数であったのに対し、米国は2万人という大部隊で、2ヶ月近くにわたって支援にあたったくれたのだ  中国政府は15人を1週間派遣し、「日中友好の証しだ」と胸を張った。だが米国の支援活動にくらべると、言葉は悪いが「アリバイ作り程度」の支援にすぎない。やはりいざというときは、同盟国である米国が頼りになるという実感を日本国民は再認識したに違いない。
 他方、菅内閣の対応には首を傾げざるを得ない。韓国、中国の派遣隊が到着した際、それぞれ、高橋千秋副大臣と伴野豊副大臣が羽田空港で出迎えた。
 米空母や在日米軍の他に、約150人もの大救助隊を派遣した米国をはじめ、英国(63人)、仏国(100人)など、世界各国から救助隊は駆け付けているが、副大臣が出迎えたのは中韓2国だけだった。
 菅内閣の政治姿勢そのものと言えるが、安全保障・外交に対するセンスのなさを露呈している。何が重要か判断できない現政権には甚だ不安が募る。真に頼りになる米国につれない対応をし、反日感情を抱く中韓2国に対して、阿るような姿勢は国益を損ねるものに違いない。
 鳩山政権以降、日米間に軋みが生じ、同盟関係の漂流が危惧されてきた。だがトモダチ作戦は今なお日米同盟が災害対処のような国家的危機にも有効に機能することを証明した。
 我々はこれを当然の事と甘えてはならない。ギクシャクした政府間関係にも係わらず、これまで培われた自衛隊、米軍間の強い絆、あるいは防衛実務者間の緊密な信頼関係が同盟を繋ぎ止めたのである。
 何より重要なことは、現下の国際情勢が米国に対し日米同盟の緊密化を求めたことである。米国は国益に叶っていたから今回の行動をとったのである。
 「永遠の敵も、永遠の味方もない。永遠にあるのは国益であり、国益を追求するのが我々の責務である」とパーマストン(元英国首相)は語った。米国は同盟国だから日本を助けたのではない。まして慈善事業で日本を救援した訳でもない。大規模な部隊を派遣してでも日本を助けることが米国の国益に合致したのだという冷厳な現実を忘れてはならない。
 「禍転じて福となす」ではないが、民主党政権によって漂流していた日米同盟は、今回の大震災によって揺れ戻され、「トモダチ作戦」という錨によって停留した。不安定さが増すアジア太平洋地域においては、米国の国益上最も重要な関係は、今なお日米同盟であることを如実に示したのが「トモダチ作戦」であったのだ。
 現在、米国の安全保障上の最大の懸念は中国の台頭である。台頭する一党独裁国家である中国が、国際法など国際規範を無視して傍若無人に振舞うようになると、世界の秩序、平和と安定は保てない。これを回避するため、中国を国際社会で責任ある平和国家に導いていかねばならない。これが関与政策であり、目下の最重要課題である。
 関与政策は関与する側が中国に圧倒されては実行できない。だが、今や米国一国では手に余るものがある。民主主義国家が結束して関与政策を遂行する必要があるのだ。北東アジアにあっては緊密な日米同盟、米韓同盟が関与政策に欠かせない。
 中国のGDPは日本を抜いて第2位に躍り出た。2020年台にはアメリカを抜いて世界最大の経済大国になるとの予想もある。
 中国は「2040年にはハワイまで中国の海」をスローガンに、20年余にわたる驚異的な大軍拡を継続中である。香港誌「鏡報」によると中国は空母を来年10月1日までに正式配備するという。「力の信奉者」である中国は、増す実力に比例して大胆さ、傍若無人さが増す。
 過去の振る舞いは力の信奉者の実相を如実に示す。73年に米軍がベトナムから徹底するや西沙群島に進出。84年にソ連航空部隊がベトナムのカムラン湾から撤退するや、南沙群島に進出した。92年には米海軍がフィリピンのスービック基地から撤退するのにあわせて領海法を制定し、南沙、西沙群島を自国領として明記した。力の空白には躊躇なく入り込む。力の信奉者の常道である。
 中国の狙いは海底に埋蔵される鉱物資源である。膨大な海底資源の存在はナショナリズムの興隆と相まって、領域主権を互いに尊重することを非常に難しくしている。特に中国が海上覇権を狙い、強硬姿勢を堅持する以上、紛争は非常に起こりやすい。相手が弱いと見るや、実力行使を躊躇せず、既成事実作りを図るのが中国なのだ。
 昨年9月、尖閣諸島付近で違法操業の中国漁船が海上保安庁の巡視船に故意に衝突させる事件が起きた。船長の即時釈放を求める中国は日本に対し、レアアース禁輸などの経済制裁を発動した。
 尖閣はもちろんだが、沖縄の日本帰属も中国は認めていない。日本の主張する日中中間線も認めていない。沖ノ鳥島も「岩」だと主張し、日本の排他的経済水域を認めていない。海底に鉱物資源が埋蔵されているからだ。現在、中国が実力行使を自重しているのは、日米同盟が緊密であるからだ。
 現在、南シナ海で緊張が高まっている。石油や天然ガス、鉱物資源が豊富に埋蔵されている南沙、西沙群島は、中国との領有権争いの中心地である。
 昨年からインドネシア、ベトナム、フィリピンと中国の間で衝突寸前の事態が続いている。中国の実力行使に対し、ベトナム・フィリピンは実弾演習や不買運動で対抗しているが実力不足は否めない。
 米上院は、南シナ海における中国の実力行使に遺憾の意を表明し非難決議を可決した。これに対し、中国は米国の関与を拒絶した。中国の狙いは、あくまで米国抜きで、各々の国と個別協議し、各個撃破を図っていくことにある。力の信奉者の定石である。
 ゲーツ米国防長官は最後の外遊となったシンガポールでの会合で「どんなに財政赤字が増えようと、アジアへの軍事介入の予算は減らさない」と語った。また「日韓豪の同盟を強化する。中国のアクセス拒否、領域拒否は許さない」とも述べた。更にASEANやインドにも軍事的関与を増やすとも語っている。
 アジアの平和と安定に欠かせないのは米国の存在である。アジアから米国が撤退した途端、中国は東シナ海、南シナ海で海上覇権を確立するだろう。日本の安全保障は風前の灯となる。
 日本が今やるべきことは韓国、豪州、インド、ASEANなどと共に、米国がアジアから出て行かないよう、米国の関与政策を支援することだ。間違っても米国が沖縄から撤退するような政策をとってはならない。米国が沖縄から撤収すると韓国やアジアでドミノが広まり、軍事バランスが間違いなく中国に有利になる。中国の思うつぼであり、日本にとっては自殺行為である。
 幸い中国に対する日米の国益は一致している。だが、「トモダチ作戦」で示された日米同盟の強い絆に甘えてはならない。「同盟はガーデニングと同じである。常に手を入れなければすぐに荒廃する」と元駐日大使は言った。更なる同盟緊密化を求めて地道な努力、同盟国として相応しい貢献が日本に求められている。

宗教法人念法眞教機関紙「鶯乃声」 2011年9月号より転載