(43) 米中首脳会談と日本の対中国戦略

元自衛官 宇佐静男

 6 月 7 日、8 日の 2 日間、米カリフォルニア州パームスプリングズ近郊の保養施設において、オバマ米大統領と習近平中国国家主席の 8 時間にわたる首脳会談が実施された。
 これまで、胡錦濤、江沢民など中国最高指導者の初訪米にあたっては、就任後 2~3 年をかけて入念に準備したのに対し、就任 3 ヶ月での訪米は異例である。
 日本の安倍首相が就任後、東南アジア、モンゴル、ロシア、インドとの関係を深め、積極的に対中国外交を展開したことにより、中国の孤立感と焦りが高まったことが背景にあるらしい。
 世界で 1 位、2 位の軍事・経済大国が信頼醸成を図ることはアジア太平洋の平和と安定に欠かせない。安倍首相は「米中が接近して信頼関係を築こうとする方向性は間違っていないし、世界の平和と安定にいいことだ。歓迎したい」と評価した。
 中国は、急速な経済成長と、20 数年にわたる驚異的な軍拡によって力と自信をつけ、南シナ海、東シナ海で無頼漢的な挑戦的活動を活発化させている。特に昨年9月の尖閣諸島国有化以降、尖閣周辺での傍若無人化は著しい。
 もともと中国は「力が国境を決める」という華夷秩序的な考え方を有する。チベット、新疆ウイグル自治区への侵略の歴史や南シナ海での「ナイン・ダッシュ・ライン」(U字状に広がる境界線内すべてに中国の権益が及ぶと主張するライン)を見ればよく分かる。
 5 月には中国共産党機関紙人民日報が「沖縄の帰属は未解決」とし「中国に領有権がある」と示唆する記事を載せた。日米が即座に強く反発したためか、環球時報では「琉球国復活に向けた勢力育成」とトーンダウンさせた。だが「20~30 年を経て中国の実力が強大になれば幻想ではない」とも記述しており、「力が領有権を決める」という華夷秩序的発想を自ら暴露している。
 台頭する中国と如何に対峙するかは国際社会の懸案事項である。戦争して叩き潰すわけにはいかない。さりとて経済がこれだけグローバル化した現代、冷戦時にソ連に対して実施したような「封じ込め」戦略を採るわけにもいかない。だとしたら中国が国際社会の規範を守り、責任ある利害共有者となるよう、辛抱強く誘導していく「関与政策」しか道はない。
 米中会談の冒頭、オバマ大統領は「大国としての平和的台頭を歓迎する。中国が成功の道を辿ることは米国の利益にかなう」と述べた。中国が責任を持つ利害共有者になるよう誘導し、平和的台頭を促すことができる米中関係が生まれることが望ましいに違いない。だが、問題はそれが簡単ではないことだ。
 習主席は米中の接近ムードの演出を図り、「新しい形の大国関係」構築を主張した。米中が対立ではなく、相互の社会制度や核心的利益を尊重しながら協力するという関係であり、米国とは対等であることを強調するものである。
 かつて鄧小平は「韜光養晦」を主張した。米中格差が圧倒的であったため、中国は低姿勢で外交すべしとの方針である。「力の信奉者」である中国は、力をつけるまでの間、時間を稼ぐ必要があった。
 米国と肩を並べるまでに力をつけた中国は、もはや「韜光養晦」は卒業であり、「中国は大国である。米国は中国の利益を認めよ」と主張はじめた。
 今回、中国の考えが最も端的に現れているのが「広大な太平洋には両国を受け入れる十分な空間がある」という習主席の発言であろう。
 2007 年、中国海軍幹部がキーティング米太平洋軍司令官に会った際、米中両国がハワイの東と西で太平洋を分割したいと述べたことがある。今回の発言はその延長上にある。
 米中は対立を避け、太平洋の海洋権益を分け合おうというものである。日本をはじめとするアジア諸国を見下した発言である。東シナ海も南シナ海は中国の海域であると主張してきたことと符合する。中国の海洋進出、領土拡張の野心の顕れであり、決して看過できない。
 オバマ政権1期目の前半、中国の経済大国化を前にブレジンスキー元大統領補佐官が「G2」論を提言したことがあった。米中が他国の上に立つという意味で、今回の発言は、「G2」論に通底するところがある。「G2」論はその後、雲散霧消した。南シナ海での米中軍事摩擦や気候変動への取り組みへの中国の突き放した態度に米国が匙を投げたからだ。
 今回、中国はサイバー、気候変動についての実務協議の開始を歓迎し、尖閣、南シナ海問題の対話での解決に言及するなどして米国に擦り寄った。今後、「G2」論が再浮上する可能性は少ないが、太平洋二分割論などが浮上することのないよう、日本のきめ細かい外交が求められる。
 オバマ大統領は習主席の発言に対し、「新冷戦」の局面避けつつ、国際ルールの遵守を前提にした「平和的台頭」を要求した。サイバー、海洋安保、気候変動、貿易不均衡、人民元、人権問題、北朝鮮の核問題など個別の分野で対話に引き込むことにより、「国際秩序を破壊するような台頭は許さない」と具体的に問題処理を迫ったといえる。
 特にサイバーの問題については、オバマ大統領は中国政府が関与との疑念を背景に「この問題の解決は米中経済関係の将来の鍵を握る」と強く迫った。だが、習主席は「サイバーに関する報道の急増に留意する。中国からの脅威との印象を与えているかもしれない」と誤報を主張し、「中国も被害者」と開き直った。これは現実に証拠を握っている米国を怒らせたに違いない。
 尖閣問題についても長時間が割かれた。アジア重視を掲げるオバマ政権はアジア太平洋地域での影響力維持は必須であり、日本が訴える尖閣問題をあえて議題に取り上げた。
 オバマ大統領は「東シナ海で挑発的な行動をとるべきではない」「争いをエスカレートさせるべきではない」「外交ルートを通じた対話」など要求し、レーダー照射事件や領海、接続海域への示威行動を止めるよう自制を迫った。これらは日本の考え方を主張したものである。菅官房長官が「日米は緊密に連携している」と述べたように、事前に日米ですり合わせたことが窺える。
 習主席はこれに反論し「中国は対話による解決を求めている」と主張。日本などが「挑発を停止し、対話を通じ適切に問題を解決する軌道へ早期に戻るよう望む」と述べた。いかにも身勝手な主張である。東シナ海、南シナ海で一方的に海洋権益拡大を図っているのは中国自身であり、自らが標榜する「平和発展」に明らかに矛盾している。
 報道によると、会談中の 2 日間、中国は公船の接続水域への侵入を自粛したという。「挑発的行動をとるべきでない」とする米国に配慮したものであろうが、逆に公船の侵入を自ら「挑発行動」と認識していることを暴露することになったのは皮肉な結果である。
 挑発行動の自制を求める米国とあくまで領有権を主張する中国との議論は平行線であった。習主席は対話を通じた問題解決の原則を示すものの、同時に東シナ海、南シナ海での領有権問題に言及した上で「国家主権と領土は断固として守る」と強調した。
 習主席が領有権を主張し、歴史問題について自説を繰り返したのに対し、オバマ大統領は「中国側は、日本が米国の同盟国であることを認識する必要がある」と発言したという。日米同盟関係に言及し、日本への軍事的挑戦は認めないという立場を改めて表明したわけだが、この発言は率直に評価したい。
 他方、オバマ大統領は第三国の主権の問題には立ち入らない米国の原則を示し、外交解決を目指すべきと主張した。ケリー国務長官の「尖閣は日本の施政下にあり、現状を変更しようとするいかなる一方的な行為にも反対する」に比べて抑制的であったことは要注意である。
 北朝鮮問題では、非核化の必要性、国連の制裁決議の完全な履行で一致し、圧力強化でも合意した。言うことを聞かない北朝鮮に対し、中国は苛立ちを深めるものの、朝鮮半島の現状維持を優先し、原則的には圧力強化に否定的である。中国は、既に北朝鮮の銀行口座の凍結を実施しており、自らの国際的な責任は果たしたとの立場である。「当面の急務は早急に対話を回復すること」とし、6 カ国協議の再開へ意欲を示し、今後の対応について、米国に下駄を預けた格好となった。
 米中首脳会談の細部は未だ不明の部分が多く、評価は尚早である。日本国内には米中首脳交流が深まれば、日本は「蚊帳の外」に置かれてしまうと懸念を示す声もある。1972 年にリチャード・ニクソン米大統領が中華人民共和国を電撃訪問した事件になぞらえて、日本の頭越しの米中接近を予想する識者もいる。
 その懸念は杞憂だと筆者は考える。台頭する中国に対し、国際規範を守り、責任ある利害共有者として誘導していくという関与政策は、唯一無二の対中国政策である。だがこの政策を遂行するのは決して容易ではない。関与政策を主体的に遂行できるのは米国しかいない。だが衰退著しい米国だけでは手に余るのも事実である。
 状況がどう転んでも対応できるヘッジ戦略は関与政策に欠かせない。だがこれには日米同盟が中核とならねばならない。関与政策には、とにかく時間がかかり、米国は日本の協力が欠かせない。今回の首脳会談を通じて、米国は日本を無視した対中戦略はありえず、関与政策遂行上、日本が不可欠の存在であることを再認識したはずだ。
 日本は日米同盟活性化の努力を怠らず、緊密な連携の下、米国とタッグマッチを組んで中国に対する関与政策を遂行していくことが求められているのだ。

宗教法人念法眞教機関紙「鶯乃声」 2013年8月号より転載