(50) 深刻な少子高齢化の日本、国の守りは大丈夫か

元自衛官 宇佐静男

 日本の少子高齢化の実態は深刻である。だが日本人には、もう一つ危機感が感じられない。もし自分の存命中には大きな問題は顕在化しないだろうと安易に考えていたとしたら無責任に過ぎる。
 この深刻さを知れば知るほど恐ろしくなる。このまま行くと破綻するのが分かっていながら、ずるずると手をこまねいているうちに、手の施しようがなくなって破綻するといういつものパターン。先の大戦に至る日本の道程を見ているような気がしてならない。
 人口動態は変化が遅く数十年単位だが、回復もまた数十年単位の時間がかかる。先人の血と汗の上に築き上げられた繁栄と安全を享受している我々は、この問題に真剣に取り組み、輝く未来を子孫に残さねばならない。
 このまま放置すると、輝く未来どころか国の安全さえおぼつかない。敵の攻撃から我が国を守る前に自滅しかねない現状といって良い。安全保障上、極めて由々しき事態であり、危機感を読者と共有したい。
 社会保障制度改革国民会議の前会長であった清家篤氏(慶応義塾長)は次のように説明されている。日本の高齢化の特徴は「高い、早い、深い」だという。昨年8月に総務省統計局が出した速報値によると、日本の人口に占める65歳以上の高齢者の割合は約25%。つまり4人に一人が高齢者である。この比率は既に世界で最も「高い」水準である。
 だが、これは通過点に過ぎない。今後益々老人の比率は高くなる。今年生まれた赤ちゃんが成人する2030年代前半には、人口の三分の一が高齢者であり、今年大学を卒業した学生が高齢者になる頃には人口の五分の二に及ぶ。この間、世界一を維持し続けるという。
 日本の場合、高齢化のスピードが、人類の歴史でみても異常に「速い」。65歳以上の人口比率が7%を超えると「高齢化社会」と呼び、14%を超えると「高齢社会」と呼ぶ。通常、高齢化の速度は7%を超えた時点から、14%を超えるまでの年数で測る。
 日本は大阪万博が開かれた1970年に7%を超え、高齢化社会に突入した。その後14%を超えたのは1994年であり、24年かかった。フランスの場合、19世紀後半に7%を超え、20世紀後半に14%を超えるまで、実に114年もかかっている。日本はフランスの4倍の速度で高齢化が進んだわけだ。
 フランスはこの100年余の期間を利用して少子化対策を講じた。この結果、第二次大戦後になって出生率がようやく回復し始め、今では出生率が2を回復している。高齢化に114年かかり、100年以上かけて少子化対策を実らせたわけだ。日本の場合、高齢化の速度があまりにも速すぎ、状況に対応できずにいるのが現状だ。
 また日本の高齢化は、その程度が「深い」という。現在、65歳から74歳の前期高齢者と75歳以上の後期高齢者の比率はほぼ1対1である。団塊の世代が全て後期高齢者となる2025年には、ほぼ2対3で後期高齢者の方が多くなり、2055年には後期高齢者が前期高齢者の2倍になる。その時、日本人の4人に1人が75歳以上の後期高齢者である。
 2055年といえば約40年後である。そんな遠い将来ではない。今年生まれた赤ちゃんが、40歳になる頃には4人に1人が後期高齢者であり、65歳以上の高齢者人口が約4割を占めるという超高齢化社会になる。
 直ちに「産めよ、増やせよ」という政策が実現できれば、少しは改善できる。だが、今の日本では強制は難しい。さりとて手をこまねいているわけにはいかない。悪化を局限する対策や若者の意識改革が必要である。
 労働者人口の減少も深刻である。経済発展なくして高齢化社会を支えていくことはできない。経済の担い手は労働者である。現在、15歳から65歳までの生産年齢人口は約7900万人である。これが2025年には約7100万人に減少する。今後10年あまりで約800万人も減少する。この労働者不足を何で補うか。幸いにも日本の場合、高齢者の就労意欲は高い。60歳から64歳の男性の75%が働いている。アメリカやイギリスで60%程度、ドイツで40%、フランスでは20%程度である。
 働く意思と能力のある人には、定年後も活躍する場を積極的に提供するなど、弾力的な人事運用を実施し、高齢者を有力な労働力として活用していく施策が欠かせない。
 他方、国防の分野はそういう訳にはいかない。自衛隊入隊者の募集年齢は18歳から26歳である。自衛官と言う仕事の特性上、若さが絶対的に必要である。これだけは高齢者で補うというわけにはいかない。
 18歳から26歳までの入隊者適齢人口は、1994年の1700万人をピークに40%減の約1100万人に減少している。今後とも約1100万人前後で推移すると予測されている。今の自衛隊の規模を維持するだけで、毎年約1万人から1万5千人の若者の募集が必要となる。
 若さを絶対的に必要とする組織は、自衛隊の他にもある。警察や消防、海上保安庁などがそうである。これらの組織も今後、募集人員は増えることはあっても減ることはないだろう。若者人口の減少により、若者を必要とする組織が若者を奪い合う結果となり、優秀な人材の募集が非常に難しくなる。
 自衛隊は若者人口の減少に適合すべく、装備品の高性能化はもちろんだが、同時に無人化や省力化も進めていかねばならない。コンピューター導入などにより組織のスリム化や業務の効率化を図ることも喫緊の課題である。
 日本の経済発展に対する影響も深刻だ。経済発展なくして高齢化時代を乗り切れない。最後の「切り札」は、やはり女性の活用だろう。安倍政権でも「女性が輝く日本の実現」として女性の活用を掲げ、「成長戦略の中核」と位置づけた。
 今年の1月22日、スイスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の開会式で安倍首相は基調講演を行った。その中で「経済を持続可能な成長軌道に乗せるため、最大の潜在力である女性の力を最大限発揮させる」と述べている。東京オリンピック開催の2020年までに、「25~44歳の女性就業率を73%(平成24年は68%)」「指導的地位に占める女性の割合を30%」とすることを目標にした。
 自衛隊も例外ではない。現在、女性自衛官の比率は5%程度にとどまっている。最前線で戦う兵士や戦闘機パイロットなどは無理としても、後方職域など女性自衛官が十分能力を発揮できる分野において、優秀な女性に自衛官として活躍してもらわねばならない。
 だが問題がある。日本全体として女性の就労を促進し、女性を活用することは欠かせないが、それによって出生率が更に低下するようであれば、本末転倒である。少子化が進んだ大きな一つの要因は、女性の仕事と子育てが両立しにくいことである。女性が結婚、出産をするとキャリアを捨てなければならないことが多く、このために結婚、出産を控えるという傾向にある。こういう社会構造を早期に改善しなければならない。
「子供は母親が育てるものだ」「日本の家族を壊すのか」といった批判もある。一面、正しいところもあるが、極端に過ぎると無意味なイデオロギーの対立となる。何事もバランスが必要だ。労働力不足で高齢化社会を乗り切れないと国家の存続にかかわるところまで切羽詰っているのだ。
 やり方によっては子育てと女性の活躍の両者が折り合えるところもあるはずだ。女性が子供を産み、育てる環境を整えて、出生率を向上させることと、愛情を持って子供を育てながら、仕事と両立させて日本全体の労働力低下を補うという両面を同時に満たす知恵が求められている。
 現在の社会保障給付は全体で110兆円である。88%は年金、医療、介護に使われ、子育て支援はわずか5%だった。子育て支援は国家の存続に係わる重要案件である。また将来の社会保障制度を支えることにつながる。もっと優先順位を上げるべきであろう。
 保育サービスを受けられない待機児童をなくし、子育て支援を強力に進める「公助」。おじいちゃん、おばあちゃんの手を借りる、そして隣近所が支えあう「共助」。そして男性も家事や育児に参画するといった「自助」。「自助、共助、公助」の「子育ての三本の矢」で出生率向上と女性の活用の両面を追及していかねばならない。
 少子化対策は待ったなしだ。対策が遅れれば遅れるほど問題は深刻になる。出生率が劇的に改善されたとしても、赤ちゃんが経済社会に貢献し、国防に貢献できるようになるまでは、20年から25年かかる。少なくとも今から四半世紀は生産年齢人口の減少を前提に考えざるをえない。
 年金、医療、介護などの費用は高齢人口に比例して増加する。年金の給付は2013年で54兆円だったが、2025年には11%増の60兆円に増える。医療、介護の合計も2013年の44兆円から2025年には70%も増え、74兆円に膨れ上がるという。日本はまさに崖っぷちに立たされている。
 日本国民が危機感を共有し、一人一人が国の為、自分のやるべきことをやるしかない。若者は子供を産み、国や社会は子育てを支援し、高齢者は可能な範囲で働き、医療や介護の支出を局限すべく健康管理に努める。国民一人一人が国を支えるという当事者意識。これが世界一の速度で高齢化社会に突っ走る日本で最も必要とされることである。

宗教法人念法眞教機関紙「鶯乃声」 2014年4月号より転載