(55) 「地球を俯瞰する外交」と「集団的自衛権」は車の両輪である

元自衛官 宇佐静男

 先日、航空自衛隊の特別輸送航空隊に所属する後輩から連絡をもらった。後輩曰く、「日本に帰国して、国内の報道に違和感を覚えました」とのこと。彼の所属する特別輸送航空隊とは、政府専用機を運航、管理する部隊である。政府専用機は天皇、皇后両陛下をはじめ総理大臣、三権の長といった VIP が主に利用される専用機であり、現在は 2 機のジャンボ機を使用している。
 この政府専用機が航空自衛隊によって運航されていることはあまり知られていない。操縦者のみならず客室乗務員、整備員も全て航空自衛隊の隊員である。連絡をくれた後輩は、7 月の安倍晋三首相の豪州訪問に政府専用機を運航した自衛隊員の一人である。
 安倍首相の豪州訪問では、豪州議会での初めての演説が絶賛され、アボット首相との首脳会談なども大成功だった。豪州でのテレビ、新聞等、メディアの取り上げ方も異例の「安倍フィーバー」振りだったと後輩は語る。ところが日本に帰ってみると、豪州訪問の成果を評価するどころか、ベタ記事扱いで現地のフィーバー振りは全く伝えられていない。この国内の報道振りに「違和感」を覚えたという訳だ。彼はわざわざ現地新聞を筆者に見せてくれた。なるほど安倍首相への歓迎振りが手にとるように分かる。
 メディアは権力を監視するのが使命だという。だが、国民に真実を伝えるのも大きな使命のはずである。左翼メディアは「反安倍」が「社是」で、「安倍下ろし」に躍起になっているのかもしれないが、やはり「是々非々」で国民に真実を伝えるべきだろう。失敗は大きく伝えるが、成功は伝えない。これでは、メディアの使命を果たしているとは言い難い。
 安倍首相は就任以来、「地球を俯瞰する外交」を称して世界を飛び回ってきた。安全保障や経済協力など戦略的な観点から訪問国を選定し、主要 8 カ国をはじめ ASEAN(東南アジア諸国連合)、インド、豪州、中東、アフリカ、中南米と 5 大陸全てを訪問した。9 月上旬のバングラデシュ、スリランカへの訪問が実現すれば訪問国が 49 か国に達する。小泉純一郎元首相が約 5 年半かけて 48 カ国回った記録を、わずか 1 年 9 ヶ月で塗り替えることになる。短期間にこれだけのトップ外交は史上初めてである。
 安倍首相は「国際協調主義に基づく積極的平和主義」に基づき、各国首脳との直接対話を通じて信頼関係の醸成を図っている。集団的自衛権の行使容認についても、丁寧に説明し各国首脳の理解を得ることができた。また、海洋進出をもくろみ海洋覇権を狙う中国を牽制するため、「法の支配」による価値観の共有を訴え、各国首脳から理解と支持を得た。
 安全保障のみならず、経済分野でも安倍首相はトップセールスを展開し、目覚しい成果を上げている。昨年の日本企業の海外でのインフラ受注額は、前年の約 3 倍となる約 9 兆 2600億円に押し上げた。
 5 月の第 13 回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)では基調講演を実施した。中国の南シナ海進出を念頭に「日本は ASEAN 各国の海や空の安全を保ち、航行の自由、飛行の自由を保全しようとする努力に対し支援を惜しまない」と述べ、中国を除く参加各国は拍手をもって賛辞と同意を表した。
 6 月の G7 サミット(ブリュッセル)では、安倍首相は参加各国に積極的に働きかけ、「東シナ海及び南シナ海での緊張を深く懸念。国際法に従った平和的解決を支持。北朝鮮の核・ミサイル開発を強く非難」するとの共同宣言発出に成功している。
先述のように 7 月の豪州訪問では、日本の首相として初めて連邦議会で演説した。約 25分間にわたりオーストラリアなまりの英語を使い、また粋な演出で豪州国民の心を捉えた。
 安倍外交によって日豪関係は「特別な関係」という事実上の準同盟国に格上げされた。中国が歴史問題で反日の言辞を繰り返すのに対し、アボット首相は「ギブ・ジャパン・ア・フェア・ゴー(日本を公平に扱おう)」と述べ、中国の言辞をバッサリと切って捨てた。多分、中国は歯軋りをしているに違いない。
 国家の安全保障は「自らの国は自らで守る」のが原則である。だが、現代社会では一国で平和を維持するのは難しい。ならば自由と民主主義、基本的人権、自由貿易など価値観を同じくする国々とスクラムを組んでこれに当たるしかない。また「敵を少なく、味方を多く」することも安全保障の「イロハ」である。安倍首相はこれを「地球を俯瞰する外交」で実践している。
 21 世紀の最大関心事は「台頭する中国にどう対応していくか」だといわれている。中国は「力が国境を決める」という伝統的な「力の信奉者」である。3 年前に GDP で日本を抜き世界 2 位の経済大国となった。2020 年には米国を抜くとも言われている。軍事費は 26年間連続して二桁の伸びを継続した結果、40 倍に膨れ上がった。この 10 年だけでも 4 倍の軍拡である。
 経済、軍事で力をつけた中国は、鄧小平が唱えた「韜光養晦」(国力が整わないうちは、国際社会で目立つことをせず、じっくりと力を蓄える)を卒業したと言わんばかりに挑戦的行動をとるようになった。これからは「大有作為」(適宜、蓄えた力を一挙に発揮)の時期であり、「積極有所作為」(為すべきことを為して成果を上げる)と考えているようだ。
 最近の国際法違反のオンパレードを見ても分かる。2013 年 11 月には東シナ海に防空識別圏を一方的に設定し、公海上の飛行自由を制限する運用を開始した。12 月には南シナ海の公海上で米海軍イージス巡洋艦カウペンスの航行を妨害。2014 年 1 月には南シナ海に根拠のない漁業管轄権を一方的に設定。5 月には西砂諸島で一方的に石油掘削作業開始し、付近のベトナム船と衝突。5 月、6 月の両月には、日本の防空識別圏内で中国戦闘機が自衛隊航空機に繰り返し異常接近。8 月には南シナ海を航行する米軍機に対し、10mという衝突寸前の距離まで異常接近した。米国の強い抗議に対しても「米偵察機を追い払うことは中国の核心的利益だ」(環球時報)と嘯いている。
 無頼漢化する中国に対し、戦争にならぬよう対応するには「関与政策」を実行するしかない。つまり中国が国際法、国際規範に従うよう誘導していく政策である。これを成功させるには二つの条件がある。一つは力で圧倒されないことである。関与政策する側が力で圧倒されると、「力の信奉者」の中国は聴く耳を持たない。二つ目は、関与政策は 20 年、30 年という長い年月が必要である。この間、状況がどう転んでも、事態を悪化、拡大させず、しかも中国に既成事実を作らせないよう対応できねばならない。これが「ヘッジ戦略」である。
 この関与政策を遂行できるのは米国しかいない。だが米国でも一国では手に余る。しかも米国は長年にわたるテロとの戦いで厭戦気分が蔓延し、国際問題に関心を失いつつある。
 オバマ大統領の「もはや米国は世界の警察官ではない」との発言が象徴的だ。だからこそ、及び腰の米国をその気にさせなければならない。
 関与政策の鍵となるのは、やはり米国である。中国は力が上回る米国とは事を構えたくないからだ。中国は日米を分断し、日米同盟が有名無実化を図ろうとする。中国高官が本音を語っている。「中国にとって最も都合のいい日米同盟とは、ここぞという絶妙の瞬間に同盟が機能しないことだ」
 及び腰になる米国を巻き込むには、日本が米国と共に責任とリスクを分かち合わねばならない。このためには「集団的自衛権」の行使容認が欠かせない。また価値観を同じくする国家がスクラムを組む必要があるが、このための行動が「地球を俯瞰する外交」なのである。まさに「集団的自衛権」と「地球を俯瞰する外交」は中国に対する関与政策を成功に導く車の両輪なのである。
 日本と中国、そして韓国との首脳会談が行われない異常な状況が続く。これをもって「地球を俯瞰する外交」は片手落ちだという声がある。だがそれは誤りである。「地球を俯瞰する外交」の主な目的は、傍若無人化する中国に対する「関与政策」のためである。もちろん首脳会談はあったほうがいい。日本は前提を設けず、常に「ドアはオープン」しておれば、いずれ中国側が歩み寄ってくるはずだ。首脳会談のための下手な妥協は「関与政策」にとって百害あって一利なしである。
 韓国とは、ストラテジック・ペイシェンス(戦略的忍耐)の時である。朴大統領は従軍慰安婦問題を執拗に追及し、首脳会談実施のカードにしようとしている。だが、朝日新聞が誤報を認め、「軍による強制連行」の虚構が明らかになった。もはや朴大統領の主張は根拠を失った。だが、これまでの反日教育の影響により、韓国世論は冷静な思考を失っている。今は日本が何を言っても、火に油を注ぐ結果となり、状況は悪化するだけである。ここは韓国側が冷静になるまで、「非韓三原則」(教えず、助けず、係わらず)を順守して一線置き、戦略的忍耐に徹する時なのだ。
 我々はメディアの偏向報道に惑わされることなく、「地球を俯瞰する外交」と「集団的自衛権行使容認」という安倍内閣の深謀遠慮を理解し、積極的に支持することが求められる。

宗教法人念法眞教機関紙「鶯乃声」 2014年10月号より転載