パール・ハーバーと9.11から

元陸上自衛官 現星槎大学非常勤講師 森 清勇

 単冠湾を隠密裏に出向した連合艦隊は北太平洋を通信封鎖しながらハワイ諸島の真珠湾に北から接近するように向かって進んでいく。しかし、誰にも察知されずにしずしずと進んでいると思っていたのは日本、そして艦隊乗組員だけであった。
 アメリカは連合艦隊の動きどころか、日米交渉に臨む日本の姿勢を暗号解読で熟知していた。最後の段階で日本は甲案、乙案を出すが、日本の出方の先まで知っていたということで、アメリカの当局者にとっては奇襲でもなんでもなかった。
 奇襲であると信じつつ、アメリカの罠に嵌っていく日本と連合艦隊の動きを、米国首脳たちは片方で見ながら、如何にして米国民が参戦の声を挙げるような舞台装置を設定するかに余念がなかったのである。
 ロバート・スチネットは『真珠湾の真実―ルーズベルト欺瞞の日々』で「(真珠湾の)海軍基地及び周辺の陸軍施設に破壊的攻撃をもたらすに至った出来事(中略)は、ルーズベルト大統領とその軍事・政治顧問である側近高官の多くの者にとっては、決して『奇襲』ではなかった」と書く。
 ルーズベルト大統領は、米国民を戦争に参加させるためにハワイの米太平洋艦隊を犠牲にして「日本の不意打ち」に仕立てなければならなかったのである。大東亜戦争の序章であるが、米国民には序章抜きで第1章からしか読ませようとしなかったのだ。
 連合艦隊は出航前に、日米の協議次第では何時でも作戦の中止があり得ると聞かされていた。妥結が有り得るかもしれないと思っていたのである。無線連絡は封鎖していたので、一方的に日本から聞こえてくるラジオに含ませた作戦中止の暗号に耳を傾けていた。もとより、中止の暗号が聞こえてくるはずもなかったのであるが。



 イラク戦争(2003年)にも序章があった。21世紀へ世紀代わりした直後の2001年9月11日に起きた、9.11同時多発テロである。このテロはかなりの程度予測されていたのである。
 アメリカでは9.11テロが起きた後、「パール・ハーバー」を思い出させるという言説が流布した。米国民にとっては「思い出させる」受動的な視点でしか考えられないし、また被害者でしかない。が、一方の為政者にとっては、パール・ハーバーも9.11も敢えて許した(参戦のため)謀略であったという見方が至当ではないか。
 厳密にいえば、米国との戦争を避けたかった日本が謀略に掛かり引きずり込まれたパール・ハーバーと、アメリカに鉄槌を加えるために敢行したかったアルカイーダの9.11同時テロという違いはある。しかし、戦争(大東亜戦争とイラク戦争)を欲していない米国民を立ち上がらせるために指導者がとった手段という構図は全く同じである。
 9・11が起きる前の6,7月に「多くの危険信号」(アル・ゴア元副大統領著『理性の奪還―もう一つの「不都合な真実」』)が見つかっており、CIA長官は「米国への攻撃が差し迫っているという前例のない警告を受け取っていた」という。大統領自身が受け取ったCIA報告書の紙面にも「ビンラディン、米国内攻撃を決断」という、(8年間の大統領日例指示のうちで)最も強い警告の鋭い見出しがあった」と述べる。そこにこそ、「ブッシュ政権が政治プロセスを操作するために恐怖を悪用した」という見方が正当性を帯びてくる。



 言わんとすることは、日本は日米同盟に安住することは許されないということである。何処までも米国は米国益のために動くのである。戦争を望まない国民を、謀略をしてでも立ち上がらせるのである。そのために同盟が利用されることもあれば、逆用されることも無きにしも非ずであろう。
 ドゴールが喝破したように「同盟などというものは、双方の利害が対立すれば一夜で消える」のである。 日本も英国も日英同盟を解消したいとは思っていなかった。しかし、広大な中国にセンチメントを抱いていた米国は自国益追求のために日英同盟を解消させ、9か国条約などからなるワシントン体制をつくる。そして、米国主導の20世紀を作り上げたのである。
 今の日本には、日米同盟を基軸にしつつも、日本独自の国家戦略で国家の運命を切り開いていく自主性が求められている。(了)