自衛隊に必要なリアリティ

星槎大学非常勤講師 森 清勇

陸幕では、情報関係で勤務していた。
当然のように日米担当部間での情報交換会議が定期的に行われた。
日本は陸幕が担当するので東京での会議となるが、米側は太平洋軍が担当していたのでハワイでの会議であった。
しかし、あるとき対等ではないという話になり、ペンタゴンで行うべきではないかいう提案になった。
情報という観点からは、上部組織の方が確度も高いだろうし歓迎すべきことであった。

そのことは別にして、この会議に備えての準備では、いつも悲哀を感じることがあった。
準備することの忙しさのような物理的なことではなく、取り上げるべき情報自体の内容についてである。
情報の世界では90~95%は公開の一般情報を丹念に調べれば得られるという格律みたいなものがある。
外務省出身の原田武夫氏の著述でも、外務省の能力には大きな失望を呈しながらも、情報自体については公開情報で90%くらい得られると書かれているので、外務省も同じ状況のようだ。

さて、日本側(私ども)が苦心して作業をするが、そのおおもとは米軍からの入手資料である。
日本側もそれなりの情報を収集しているので、そこから得られた知見を加えた総合判断なり総合評価として、相手に提示するわけであるが、アメリカの評価は決まって ”perfect” であり、”completely same with us” である。
これで、情報交換会議の目的完遂、目出度し目出度しとなって、その夜の懇親会が盛り上がるというわけである。

しかし、私自身は ”same with us” を聞くたびに、「馬鹿にされている」、「収集・分析のレベルを見透かされている」といった感触が拭い去れず、一種の無力感を覚えざるを得なかった。
私が疑問に思っていたことは、これで本当の情報交換会議になっているのだろうかということであった。
いや、会議自体はどうでもいい。問題は、そのほとんどを米国からもらって分析するだけでいいのだろうかということであった。
当時は、当面のことで精一杯で、辺りを見回すことはなかったが、時折、”情報操作”が頭をもたげなかったわけではなかった。

それでも、担当正面が兵器・技術であるから、かなりの客観性は保持できたと思うが、配置や編成装備、能力などの一般軍事情報に関しては、或いはアメリカの国益絡み、政策絡みに左右されることは無いのだろうかと思ったものである。
“Perfect” が一層その感を強くしていた。今、9.11がかなりのトリックであったことが明確になったことを考えると一層その感を強くする。

そうした経緯もあり、偵察衛星の研究(民間の某総合研究所を中心に、電機3社、機械3社に研究委託)をやり、また当時最も脅威であったソ連製戦車や武装ヘリコプターなどの購入を提案した。
然るに、偵察衛星については「宇宙の軍事利用はしない」という政府の方針で「長期計画」への反映は許されなかった。戦車や武装ヘリの購入に至っては考えるも奇想天外ということで、「中期計画」に載るはずもなかった。

しかし、後日、北朝鮮がミサイルの発射実験をやり、日本における情報衛星の必要性が叫ばれたとき、「多目的情報衛星」を打ち上げて迅速に対応できた。
サリンの研究で非難された自衛隊が、後日の地下鉄サリン事件で大活躍し国民を救った顰に倣ったようにも思え、ある種の満足感を抱いたものである。

戦車や武装ヘリの開発では脅威対象国を可能な範囲で直視するのではなく、米独などを通じて間接に見ることに甘んじており、リアリティの欠如をしみじみと感じたものであった。
海外調査・研究と称しては直接的に関係ない部署の上司などが行き、何の成果も持って返らないこともしばしばあった。
こうした不条理が改まり、国際的任務も行うことになった自衛隊が精強への道を走っているのであれば幸甚この上もない「たわごと」で満足である。

(平成23年1月21日記す)