「日本=ナチス」でも、「東条=ヒットラー」でもない

元陸上自衛官 現星槎大学非常勤講師 森 清勇

 拙著『外務省の大罪』は大東亜戦争に至る日米交渉を中心とした外交と軍事の動きを扱ったものである。軍部が悪くなかったとは言わないが、総体的には外務省を中心とした外交の失敗であったことを検証したものである。
 A級戦犯で、悪の権化とも目された東条をどう位置付けるかで苦悶した。陸相としてその任を果たしたから陛下も評価され、近衛が行き詰まらせた日米交渉を打開するように任された。東条はあらかじめ決められていた開戦予定日を延期して、「四方の海 皆はらからと思う世に など波風の立ち騒ぐらむ」(明治天皇御製)を復唱された天皇の心に報いようと非戦に最善を尽くすが、暗号も解読して参戦を意図する米国に翻弄される。
 ヒットラーは自国にいたユダヤ系ドイツ人をホロコーストしようとしたが、東条は逆に1万人余のユダヤ人を救出している。1938年、満州国境に逃れてきたユダヤ人難民が入国を求めてきた。関東軍参謀長であった東条は友好関係にあったドイツから抗議されるが、「日本はドイツの属国ではない」と拒絶し、五族協和の理念と人道問題として、ハルピン特務機関長の樋口季一郎少将と大連特務機関長の安江仙弘(のりひろ)大佐に救出の処置をさせた。
 私は非常勤講師として大学で講義しているが、そのことをペーパーにも書き、日本人が人道問題に真摯に対処した好例として紹介し、人道的処置は称えられるべきであると話してきた。リトアニア駐在領事代理であった杉原千畝のユダヤ人救出より二年前のことである。
 亡国から2000年ぶりに建国を果たしたイスラエルは樋口と安江の名前をユダヤ民族に貢献した外国人として「ゴールデン・ブック」に記載しているが、東条の名はない。而も、2008年まで外交官であった馬渕睦夫氏は近著で、杉原氏の美談は捏造とまで書いている。
 数日前に、ヘンリー・S・ストークス著『英国人記者が見た 連合国戦勝史観の虚妄』を読んだ。その中に「本当に『ゴールデン・ブック』に記載されるべき人物は東条英機であったことを、知る人は少なかろう」と書いてあった。
 最近、中韓は南京大虐殺や従軍慰安婦の虚偽が明かされつつあることに狼狽えてか、世界的に認知され易い「日本=ナチス、東条=ヒットラー」を声高に叫び始めた。イスラエルがゴールデン・ブックに記している一事を以っても「明らかな嘘」である。(平成26年3月6日記す)