安倍首相とオバマ大統領の寿司談義を聞いて

元陸上自衛官 現星槎大学非常勤講師 森 清勇

 オバマ大統領はビジネスライク(実務的)だと言われる。産経新聞(平成26年4月30日付)の「検証 日米首脳会談」を読むと、カウンターに座るなり「私はハワイ生まれだから鮨はずっと食べてきた。有名なこの店に来るのが楽しみだった」というなり、直ちに仕事の話に入ったというから、なるほどビジネスライクだ。
 私がこれはと思ったのは、話しが全然オブラートに包まれていないで、私的感情がものの見事に露呈されている部分である。首脳がここまで話すのは非公式であることは言うまでもないが、やはり酒を酌み交わしながらの雰囲気からであろう。
 「ここに来るまでの間、GMやフォードの車を全く見なかった。日本市場が閉鎖的だからじゃないか」。これに対する首相の反論は「BMWやメルセデス・ベンツの車は沢山走っている。欧州は日本市場に合わせた右ハンドル車を作るなど努力しているからだ」と機転がきいている。
 その後、オバマは「私は非常に政治的に厳しい立場にある。支持率は45%だが、安倍内閣は60%だから大胆な決断ができるのではないか」と心の内をポロリと吐き、TPP交渉で決断を促したそうである。そして、双方が柔軟対応をするように担当大臣に指示する。
 かつて松岡洋右がスターリンに会った時、飲酒でいい雰囲気になったのを見計り、ソ連が渋っていた不可侵条約について「歴史に名を残すときではないか」と迫り、スターリンから「中立条約ならいいだろう」という返答を引き出し、その場でモトトフ外相と署名した。
 プーチンもウクライナ問題などで苦労している。オバマが新たな制裁に向け日本が足並みをそろえるように要請すると、安倍首相は「北方領土問題を解決して平和条約交渉という難しい問題を抱えている」と述べ、その上で「ウクライナ問題では制裁だけでなく出口戦略も考える必要がある」などと語る。渋々ながらオバマは「ある程度、制裁項目によっては付き合って貰いたい」と、日本の状況を理解したように語っている。
 安倍首相のこうした発言をはじめ、日米のあらゆることがプーチンに伝わっているだろう。事実、日本の追加制裁についてロシア外務省のルカシェビッチ情報局長は「失望」と表明しながらも、「日本の制裁は外的な圧力によるものだ」とも語っている。
 プーチンには日本がいやいやながら制裁していることが分かっている。こうしたことも含め、プーチンと会談を重ねてきた首相がいつの時点でか「歴史に名を残すときではないか」と迫る夢が見られることを期待したい。