サンゴ密漁に見る法体制の欠陥


元陸上自衛官 現星槎大学非常勤講師 森 清勇

 中国のサンゴ密漁船が伊豆諸島や小笠原諸島に来始めてからアッという間に、200隻を超えた。確認されたところでは、9月15日に17隻であったが、23日25隻、10月1日40隻、23日113隻、そして30日には最高の212隻(伊豆諸島の鳥島・須美寿島周辺164隻、小笠原諸島周辺48隻)となった。
 至短期間に雲霞のように漁船が蝟集する状況は、尖閣諸島を国有化したときにも見られた。1500隻が押し寄せると喧伝されたが、実際は300隻弱の中国漁船が東シナ海南部に現れた。それにしても大量であり、70隻ほどが日本の領海内で不法操業を繰り返した。
 温家宝首相(当時)がしかるべき処置をとると表明した後だっただけに、単なる漁労ではなく国家の意向を受けた示威行動とみられた。浙江省石浦地区の漁港では、地元の漁業規制当局が補助金の約束を得て船を送り出したと証言(インターネット情報では漁船乗組員の月給が3000元のところ、尖閣沖までの往復1000㎞の燃料代として10万元受領)。
 今回も単なる密漁目的ではなく、日本の海上警備体制への挑発ではないかとの見方もある。尖閣諸島と比較にならない遠距離(約2倍)であり、莫大な燃料費がかかる。また、異常に多くの船となると、密漁による儲け以上に燃料代回収のリスクが大きいからである。
 また、日を置かずに集まり、あるいは消えていく。しかも、超大型の台風が接近していることが分かっていながら危険を冒して居続けた様は指令下の動きのように思える。
 小笠原諸島沖で領海侵入を繰り返すことで、海保やその巡視船をこちらの方面に注力させ、尖閣諸島の領海警備態勢に揺さぶりをかける狙いがあるのではないと指摘する向きもある。
 密漁船はかなり大きいうえに、漁師たちは武装している。3年前、韓国海洋警察が中国の密漁船に突入した時は、刃物を振り回して抵抗し、船長に腹を刺されて海洋警察官1名が死亡した。
 今回の密漁に対して海保はSST(特殊部隊)を投入し、抵抗する漁師たちを見事に制圧して逮捕した(「週刊文春」2014.11.20)。日本の実力を見せたことも確かであるが、多数正面ともなるとお手上げであろう。
 かつては八丈島沖で韓国の海賊船がサンゴ密漁をやっていたそうである。産経新聞記者であった高山正之氏は海上保安庁から海賊船退治に付き合わないかと誘われ、巡視船に乗り込んで出かけたという(『日本人が勇気と自信を持つ本』)。
 暗夜、ブリッジの灯を消して接近し、接舷する寸前にサーチライトを灯し、停船命令を出すと、船は脱兎のごとく逃げ出すそうである。外国では決してあり得ないが、日本の巡視船は絶対に撃たないのを承知しているからだという。
 密漁船に対する罰則が強化されたが、弥縫策でない上陸等への対処をも視野に入れた海洋安全保障体制の構築が求められている。

(平成26年12月13日記す)