所変われば品変わるというが
ゴルフのメジャー大会であるマスターズや全英オープンをテレビで観たことがある。米国開催のマスターズや全米プロなどは、日本でみるコースと同じように整然としている。日本のゴルフが概ねアメリカナイズされているから、コース自体も米国のそれに類似しているというのが至当であろう。
コース設計者の個性や自然環境によってかなりの違いはあるが、フェアウェイやグリーンが刈り込んで整備されている。バンカーやハザードも大なり小なり人工的に造られているという点では似たり寄ったりである。そしてゴルフ・コースとはこういうものだと思い込んでしまう。
そこに、全英オープンを観るとびっくり仰天である。フェアウェイもさほど手入れした風には見えず、その周りには人の背の高さもあろうかと思われるススキなどが生い茂っている。グリーンも凄い傾斜で波打ち、また凹凸さえある。
日本流に親しんできたゴルファーにはフェアウェイに落下した球の在り処さえ分からない状況の頻出ではなかろうか。軍事的視点から言えば、米国のコースは正規軍同士の陣地戦であり、英国のコースは遭遇戦といった状況かも知れない。
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しかし、これで驚いてはいけないゴルフ・コースもあることを知った。長方形の人工芝マット上に紐付きボールを置いて練習をしたことがあるが、砂漠のゴルフでは練習ではなく本番で、人工芝マットを携帯してショットするというのである。日本人ゴルフ愛好家には想像もつかない世界ではなかろうか。
産経新聞の「日曜に書く」(平成27年12月20日付)で、論説委員の別府育郎氏が約20年前にサウジアラビアの首都リアドで経験したこととして書いている。現地の日本人学校長に郊外にある砂漠のゴルフ場に誘われる。レンタルのセットを手引きカートに積みこむまでは理解できるが、同時に長方形の人工芝マットを渡されたというのである。
最初こそティグランドのショットであるが、2打目以降は、ボールの後ろの砂上に持参のマットを置いて打つというのだ。グリーンは砂をオイルで固めた土俵のような砲台で、グリーン周りにロープで丸く仕切った場所がバンカーでここではマットが置けない規則だとか。
いやはや、何とも形容しがたいゴルフ・コースである。軍事的アナロジーでは正規軍が突然非正規軍のテロ集団に遭遇した状況といっていいかも知れない。
「所変われば品変わる」という。軍事作戦ではハードウェアや訓練練度など見え易いものの比較に陥りやすいが、孫子の兵法や三戦などを重視する国が相手では思いもしない状況、即ち砂漠のゴルフの視点も欠かせないのではないだろうか。
(2016年1月3日に記す)