オリンピックで感じたことごと


元陸上自衛官 現星槎大学非常勤講師 森 清勇

 リオ・オリンピック最中は、選手の悲喜こもごもの表情が見られた。負けて泣き伏せる姿、嬉し涙が止まらない姿、メダルを齧る仕草、そしてVサインなどである
 英仏がかつて100年戦争をやっていた時、仏側は英国の弓部隊に辟易し、捕まると二度と弓弦(ゆんずる)を引けないように、人差し指と中指を切り落としたという。そこで、無事に祖国に帰還した兵士は、出迎えの家族に対し、敵の捕虜にならなかったよ、指もちゃんとあるよと、人差し指と中指を立ててVサインをしたのが始まりとのことである(高山正之『オバマ大統領は黒人か』)。
 近くの穏やかな川は過日の台風で激流に変じ、普段はいるかいないか分からないように悠々と泳いでいる30㎝超の鯉たちが、流されまいと尾びれを必死に動かし、川面から口を突き出し頻繁にパクついていた。
 この光景が、レスリングやバドミントン、そして体操や卓球、競歩その他多くの競技で選手たちが見せてくれた数々の逆転劇を思い出させてくれた。
 選手たちの大活躍に惜しみない拍手を送りたい。中でも最後の一秒まで諦めない闘争心に感銘を受けた。また、レスリング紛いになっていた柔道で、一本決めにこだわる(本来の日本的)柔道、そして勝っても大げさに飛び上がったりしないで淡々と元の位置に帰って礼をし、道場を後にする姿が晴れ晴れしく輝いて見えた。
 ともあれ、若者の活躍も目立つ収穫の多い、オリンピックであったように思う。しかし、一部かも知れないが、ビジネス・クラスで帰国したという報道に接して、納得がいかない気持ちを抱いた。万一、計画された行動であれば、もってのほかと言いたい。
 彼らには選手強化などの名目で、税金が3000億円も5000億円も使われている。頻繁に海外で合宿し、また試合ができるのも、多額の税金が投入されているからである。
 かつて、カンボジアが戦災からの復興を目指した時、自衛隊や警察などはPKO(平和維持活動)や選挙監視部隊を送りこんだ。オリンピック選手が日本の名誉を背負ったように、彼らも日本の名誉を背負っていた。しかも、警察官からは死者が出たように命を懸けて背負っていたし、相手国の復興をも合わせて背負う幾重にも重い任務であった。
 しかし、彼らは往復ともエコノミー・クラスの利用しか許されなかった。選挙監視団の一行に気付いたパキスタン航空の機長が機転を利かし、任務の重さや国家の代表であるということから、彼らを機内の乗客に紹介した後、国家の名誉を背負う隊員の扱いとしては不相応ということで、幸い空きがあったこともあり、ビジネス・クラスに優待してくれた美談がある。
 オリンピックで活躍した選手ではあろうが、同じく国家の名誉を担い、しかも華やかな 扱いも受けない隊員たちの活動に徴して、「喝!」を入れたが如何であろうか。

(平成28年8月27日記す)