全貌が見え始めた米国の東アジア戦略!

山下 輝男

1 初めに

 「米国第一」、「世界の警察官を止める」と公言して憚らなかったトランプ大統領だが、誕生から約2ヶ月、新政権は、同盟国との関係維持を確認するなど、外交・安全保障面では、安全運転が目立つ。(もっとも、内政問題では波乱含みだが、・・)
 とは云え、米国の安全保障戦略の全貌は明らかになっておらず、関係国は予測不可能性に不安を拭いきれない。
 勿論、米国も他の国も、自国の戦略を斯く斯く云々と明々白々に述べることはないが、世界一の超大国である米国は、否が応でも世界の警察官であり続けるだろうし、世界の警察官である限りにおいてはそれをある程度明示する責任があろう。
 従って、我々が為し得るのは、政権誕生からの米国の行動を仔細に検討して、彼等が何を考えているかを明らかにすることのみである。現在までの大統領や主要閣僚等の言動等から、今まで不鮮明で、関係国を不安心理に追いやっていた米国の東アジア戦略を推測するのも意義があるだろう。それが可能となりつつあるのではないだろうか?
本稿は、その無謀な試みに挑戦するものである。予測の正確性は何れ厳しく指弾されるかも知れぬが・・


2 新政権誕生前後からの主要事項

 1月20日: 大統領就任(就任演説で、国内外で米国第一主義を表明)
 1月27日: メイ英首相と首脳会談
 1月28日: 安倍首相と電話会談 その他露独仏豪の首脳と個別電話会談
 2月2、3日:マティス国防長官の日・韓訪問
 2月8日: 中国の習近平主席に書簡
 2月9日: 習主席と電話会談し、「一つの中国」原則の尊重に同意
 2月10日: 日米首脳会談(2月11日北朝鮮ミサイル発射)
 2月13日: カナダのトルドー首相と首脳会談
 2月28日: トランプ大統領「連邦議会で施政方針演説」
       (IS打倒の軍事作戦の進展、イスラム諸国の同盟国と連携、国防費大幅な増額要求)
 3月15~19日: ティラーソン国務長官の日・韓・中の歴訪
 3月22日: IS掃討に係る有志連合閣僚会合開催 68ヶ国参加


3 対朝鮮半島

 マティス国防長官は、韓国訪問時に、米韓同盟強化を確認し、北の核の脅威を安全保障上の最優先課題として取り組む方針を表明し、北朝鮮のミサイル発射などには「強力に対応する。」と言明した 。“強力に対応する”との表現は、今までの民主党政権とは明らかに違う。
 トランプ政権は、対北朝鮮戦略の見直しを進めており、ティラーソン国務長官の日中韓歴訪は、戦略調整の一環だと米国務省報道官代行は3月7日述べた。
 オバマ前政権の所謂「戦略的忍耐」政策から、「あらゆる選択肢」を排除しない政策への転換を図ろうとしているとみられる。
 戦略的忍耐政策は、自らはリスクを負わずに、何もせずに、中国と国連の制裁のみに期待するという悪く言えば待ちに徹した政策であり考えて良い。確かに、オバマ政権は、軍事力の行使には極めて抑制的であった。新政権は、{忍耐しない}というのであるから、トランプ政権は、軍事力を含む強力な政策をもオプションとして採用することに躊躇しないだろう。
 米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の韓国配備を滞りなく推進することも確認された。韓国に親北政権が誕生しても、本ミサイルの配備を中止することはなかろう。最も、最悪、韓国が米国が制御不能なレベルにまで左傾化した場合、米国は韓国抜きの東アジア戦略を採らざるを得ない。そうさせないための方策はあるのかが懸念事項である。日米両国をはじめ関係国は、韓国が如何なる方向に進むのか、韓国の情勢を注視している。
 同時に米国は、日米韓の連携の重要性を強調し、日韓の連携についても従来以上に強調するような気がする。日本が無用な妥協をしないように切望する。
 北朝鮮のミサイル開発の更なる進展により、米国の北朝鮮政策の見直しは急務となっている。軍事的オプションの可能性は高まったのではないか。


4 対日関係

 日米首脳は、2月7日の会談で「日米同盟と経済関係を強化する方針」を確認し、共同声明を発表した。共同声明には、沖縄県の尖閣諸島が米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象であることも明記された。日米同盟に関して、トランプ大統領は「日本の安全保障にコミット(関与)する」とした上で、日本の米軍駐留受け入れを「感謝する」と述べた。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)は名護市辺野古への移設を日米で協力して進めることでも一致した。当然核の傘をも提供することも明らかだ。
 また、2月11日の北朝鮮のミサイル発射を受けての両首脳の会見では、日本を100%バックアップすると明言した。
 日本政府は満点以上の成果と安堵し、胸を撫で下ろしたと云われる。
来日した国防長官、国務長官共に、大統領と平仄は完全に一致しており、米国がアジア戦略の要として日本を最重視していることは疑いが無かろう。当然ながら、相応の自助努力が必要だ。


5 対中関係

 トランプ氏が、就任以前に台湾の蔡英文総統と電話会談し、中国に衝撃を与えた。中国の巻き返しは熾烈だったようだが、その甲斐もあって、3月9日習近平主席と電話会談し、「一つの中国」政策の維持で合意したとされる。トランプ大統領の台湾カードが効いたのだろう。中国の要請に応じて「一つの中国」に同意し(てやっ)たということは、米国が主導権を握ったとも云えよう。
 国務長官は、中国訪問の間、会見の度に、“中国に更なる役割を求める”としており、北朝鮮に対して更なる影響力の行使を求めたが、中国がそれに応ずる気配はない。北朝鮮問題については、認識は共有したとされているが、いざ具体策となると米中には溝があり、また、南シナ海やTHAADについては隔たりがあったと伝えられる。北朝鮮については、中国が真剣に対応していないことについて不満があることが窺える。
 オバマ政権は、中国の南シナ海における跳梁跋扈に対して、航行の自由作戦を2015年10月~2016年10月に掛けて計4回実施している。そして、トランプ政権になってから、米空母カールビンソンと多数の艦艇を含む空母打撃群を、2月18日から、通常任務の一環として南シナ海に展開させた。本行動は、航行の自由作戦そのものではないが、中国に対する強烈な牽制であることは疑いを容れない。
 ティラーソン国務長官は、指名承認公聴会で「中国に対して、南シナ海の人工島へのアクセスを認めないとする姿勢を明確にすべきだ。」と述べていた。スパイサー報道官は、“米国は南シナ海での米国の国益を確実に守る、国際水域を奪取する行為を阻止する。”と述べており、米国の立場は明らかだ。勿論、マティス国防長官も航行の自由の重要性は認識を共有している。
 オバマ政権は南シナ海問題に関しては“及び腰”であったが、現政権は、今まで以上に強い態度、強硬策に出るものと推定される。対中強硬派でも知られるナバロ大統領補佐官、米海軍の増強を通じ米国がアジアの秩序維持の役割に長期間関与し続けるとの考えを表明し、実際に米国防費の増強、特に米海軍の増強(空母を10隻体制から12隻体制へ、フォード級空母建設等)が計画されている。
 中国に対する潜在的な不信感があることは疑いが無かろう。一方、中国は米国に対して秋波を投げ掛ける反面事ある毎に牽制を繰り返している。南シナ海に関しては、中国の主権と安全を損なう行為には断固抗議している。


6 中東関係

 トランプ大統領は、2月28日の施政方針演説で、イスラム国打倒を掲げたが、それが次第に具体化されつつあるようだ。
 マティス国防長官は、2月末にIS打倒の計画案を大統領に提出したとされる。
 また、3月22日には、米国主導の有志連合の閣僚級会合がワシントンで開かれ、68の国・地域が参加した。閣僚声明では、「イスラム国」を地球規模の脅威と位置付け、「根絶に向けて固く結束していく。」と強調した。


7 総括

 米国第一主義が、モンロー主義への回帰を意味するのではとの危惧や、予測不可能ゆえにどうなるのかとの関係国の不安は、現実主義者である国防・国務両長官の早々のアジア歴訪、対イスラム国有志連合閣僚会合の開催等で、完全に払拭された。
 また、ここ2ヵ月間における動きから、米国の主たる関心が、①北朝鮮であり、②南シナ海における国益の確保即ち航行の自由であり、更に③テロとの戦い特に対IS対応であることが明らかになったと思われる。
 中国に対しては、トランプ新政権の布陣は対中強硬派の揃い踏みであり、前政権とはかなり毛色の違った政策をとるだろうと考えられたが、正しくその通りとなりつつある。
 トランプ政権は、対中貿易不均衡の改善を求めるためにも、その背景としての軍事力の必要性を念頭に強く置いていると思われる。
 新政権は、軍事力の行使に極めて抑制的であったオバマ政権とは明らかに異なり、必要とあらば軍事力を含む力の行使を躊躇しないだろうと考えられる。とは云え、南シナ海における軍事力行使は、人工島の建設が完成に近づきつつある現状ではハードルが高いと思われる。北朝鮮に対しても、米国に対する脅威がより高くなりつつある現状では、限定的にならざるを得ないかもしれぬ。何れにしても北朝鮮にしても中国の跳梁跋扈に対しても、有効な対策を採るには、残された時間は少ないのは事実だ。手遅れになるのよう祈る。
 勿論、米中衝突を望んでいる訳ではない。対中戦略上、国防費の大幅増額特に空母戦力の増強が対中戦略の主要命題であることは間違いない。
 米国及び同盟国に対する明白な脅威に対しては、条約上の義務を果たす意思は固いと考えても良かろう。オバマ政権下ではやや懸念があったものの、現政権は信頼できよう。とは言え、自らを助けない者に対しては厳しい姿勢を示すだろう。
 それでも、複雑怪奇な国際情勢であり、予測不可能な人物を相手にしていることを忘れてはなるまい。


8 終わりに

 米国の戦略の軸足が対イスラム国にあるのかアジアにあるのかは判然としないが、日本としては米国をアジア正面に引き付ける努力を行うべきではないか。戦理上は、より脅威の大なる正面に先ず対処すべきである。米国の現在の能力では二正面対処は厳しいとすれば、より重要で緊急性の高い方に対処すべきである。日本は、対イスラム国戦略では精神的な支援に留まらざるを得ないとしても、アジアの問題では米国との戦略調整をより密にして、為しうる限りの対応をすべきであろう。

(了)