原点に返って議論を!(特別防衛監察に思う)

山下 輝男 
2017/7/29

1 初めに
 3月以来、実施中であった特別防衛監察の結果が7月28日公表された。今回の日報の公表に係る発端は、昨年7月、南スーダンの首都ジュバで大規模武力衝突が生起したことに関連して、7月19日に情報公開請求がなされたことである。その後何回かのやり取りがあった後、12月2日に文書の非存在を理由に不開示を決定した。このことが組織的隠蔽ではないかとの疑惑を招き、3月15日特別防衛監察の実施が指示され、7月28日にその結果が公表されたものである。
 本稿で、特別監察結果を受けての小生の所懐を幾つか述べたい。現状には、本質的な議論がなされていない憾みがある。

2 特別防衛監察の要点
 読売新聞記事には、特別防衛監察のポイントとして以下の4点が記載されている。
 ①防衛相と陸自幹部らとの打ち合わせで、陸自側から日報データの保管について何らかの発言があった可能性は否定できない。
 ②防衛相に陸自側から日報の保管について、書面を用いた報告がなされた事実などはなかった。
 ③防衛相が、公表の是非に関して何らかの方針の決定や了承をした事実はなかった。
 ④統幕統括官と防衛次官は、陸自にあった日報の状況を確認しなかった。次官は、今年2月非公表の方針を決めた。

 防衛監察本部から、「特別防衛監察の結果について(概要)」(平成29年7月27日)が公表されている。
 http://www.mod.go.jp/igo/inspection/pdf/special04_summary.pdf

3 マスコミ各社の社説等(タイトル)
 ①読売新聞 稲田防衛相辞任 体制刷新で混乱に終止符を打て
 ②産経新聞 稲田防衛相の辞任 国の守りは大丈夫なのか
 ③朝日新聞 陸自PKO日報問題 隠蔽は政権全体の責任だ
 ④毎日新聞 陸自日報問題で稲田氏辞任 文民統制に疑念を招いた
 ⑤日経新聞 自衛隊の隠蔽体質ただせぬ政治の無力
 各マスコミの特色が出ているような気がするのだが・・

4 論点は、何か?
① 本来のPKOの在り方に係る議論をすべきだ!
 部隊が日報を非公表にした理由は、部隊の安全確保、自衛隊の情報収集能力の保全であると推察される。否、有体に言えば、ジュバでの情勢悪化が「戦闘なのか」「武力衝突なのか」「武力行為なのか」が国会で論議され、紛糾することを恐れたからであろう。
PKO参加五原則【①紛争当事者間の停戦合意の成立 ②紛争当事者の受け入れ同意
 ③中立性の厳守 ④上記の原則が満たされない場合の撤収 ⑤武器の使用は必要最小限 、即ち停戦合意がある即ち戦闘が行われていない状態にあることが条件であり、戦闘が行われた場合には速やかに撤収するというととされている。】

 この参加五原則が実態に即しているのだろうか?列国のPKO参加は危険を承知で、それなりのリスクを負うこと覚悟して行われるものである。日本だけが異質であること明白だ。
 積極平和主義を標榜し、安全保障法制を施行し、大分前進したようであるが、この参加五原則が足枷になっているのではと危惧する。相変わらずの神学論争の元凶となっている。勿論、危険を求めて参加せよと云うのではないが、そろそろ本格的に、我が国の国際貢献のあり方を議論すべきではないか?
 
② 情報公開の程度
 派遣部隊の日報を全て行政文書として公開・保存すべしとの議論が加速する気配があるが、それが果たして正しいのか、しっかり検討すべきだろう。保全すべき事項は何か、どの程度の公開とすべきか等を詰めるべきであり、全て公開若しくは非公開というような乱暴な議論は止めるべきだ。
 抑々日報は、部隊が日々の現況を報告するものであり、受領上級部隊はそれによって所要の措置を検討措置するものだ。緊急かつ重大な状況惹起にはそれなりの報告システムが有る筈だ。

③ 省内首脳間の意思疎通に課題
 日報が公開された場合、『日報に「戦闘」との文言が記載されていた筈だ、撤収判断すべきだったのでは』等との野党の追及が行われるのは火を見るよりも明らかである。      
であるならば、防衛省首脳間の明確な意思統一が必要だったのではないか。大臣以下の政務3役、陸幕、内局間の意思統一がなされるべきだった。省内で、言った、聴いていないの議論をするのでは情けない。組織として成熟していないと云ったら言い過ぎか?

④ 大臣・政治に対する過度な忖度
 ③項と関連するが、CRFや陸幕の所掌は、国会論議が紛糾することを懸念し、大臣の答弁がしどろもどろになることを危惧する余り、要らぬ配慮をしたのだろう。最近の流行で言えば、過度な忖度だ。言葉狩りの政治からの脱却、正面から議論を堂々と受けて立つべしとの正論を言えなかったのはある意味残念だ。結果論だと云われるだろうが・・

⑤ 情報流出・管理
 一般的には、情報が野放図に流出するのは問題だし、意図的に漏洩するのは論外だ。誰が如何なる目的・狙いで情報を流したか不明だが、健全な組織は斯様な事があってはならない。一部にクーデターだなどと荒唐無稽な論を吐いた人も居るが、今の自衛隊には決してそんなことはない。だが、疑念を抱かせるような行為は慎むべきだろう。防衛省も文科省も同病か?
最も蜥蜴の尻尾切りに対する蜂の一刺しととれないこともないが、トップと部下とのあるべき関係が構築できていない証左でもある。

⑥ 日報の意義の再確認
 日報に記載された「戦闘」の文言が物議を醸したのだが、今後日報に事実が正確に記載されないということがあってはならないと思料する。現実を反映しない空虚無意味な文言は日報の意義する失いかねない。現場の心理的な負担増にもつながる。

⑦ 大臣の資質とは? 政務三役の存在感が見えず
 大臣の資質とは何かを考えさせられる事案であった。防衛・安全保障に精通していなかったとしても、就任から大分時間は有った筈だ。氏はしっかり監督していると云うが、自ら十分なリーダーシップを発揮したと云えようか。信頼感なきところに統率も指揮もリーダーシップもない。大臣を補佐する副大臣や政務官はこの間何をしていたのか、全く見えてこない。政治家は無責任ではと思いたくなる。厳しく追及されるべきだが、政局になるのは嫌だ。
 蜥蜴の尻尾切り云々について考えていたら、現在読書中の本に面白いものを見つけた。名宰相チャーチルの件である。第二次大戦における英国空軍のドレスデン空襲はチャーチルが決定して空軍に指示したものだが、ドレスデン空襲の惨状が国内外で批判を浴びるや、自らの責任を回避するために空軍参謀長に責任転嫁となる文書を送った。空軍参謀総長は受け取りを拒否し、文言を修正させたとのことだが・・(日本人が知らない最先端の世界史2覆される14の定説93~94p) 情けないが、これが政治家の現実なのだ。
 部下からの絶対的な信頼感を得ている大臣は果たしてどの程度存在するのだろう。
(過激発言はここで止めます。)

5 終りに
 今回の特別防衛監察の結果は極めて厳しいものである。真摯に受け止め、改善すべき
ことも多い。しかしよく考えると、背景や原点まで遡って議論を行う必要があると思わ
れる。本稿はそのような視点で論述したものである。
 軍事組織を統括する政治家とその部下である軍人等との関係は如何にあるべきか?何故に信頼感が築けないのか?自衛隊各幕僚長等が大臣と話する機会はどの程度あるのだろう。極めて少ないのではないかと推察される。それは組織にとっては不幸だ。政治が軍事を知り、現実的な議論を行うことが肝要だ。かと云って、オタクになる必要はないとは思う。(了)