“Poor Seamanship”
~米海軍艦艇の事故を考える~

海自OB 山村洋行

 平成29年6月17日深夜、伊豆半島東方海面において、米海軍第7艦隊所属のイージス駆逐艦Fitzgerald(FTZ)と商船ACX Crystal(ACX)が衝突、FTZの水線下居住区画にいた乗組員7名が、衝突によって発生した破孔からの浸水により死亡するという痛ましい事故があった。
 両船が衝突に至るまでの経過については、未だ公表されていないが、8月17日、米海軍第7艦隊は同事故の中間的なレポートを、ホームページにて発表した。
 その概要は以下のとおりであり、かなり厳しい言葉でFTZの目視見張り・レーダー見張り等艦内態勢の不備を指摘している。

 :本事故は、避けえるものであったが、FTZとACX両船のPoor Seamanshipに起因して発生したものである。
  FTZ艦長は、指揮統率能力に信頼性がないとして、解任された。
  FTZ副長、先任伍長は航海当直員の即応態勢等欠如の責任を問われ、解任された。
  数名の士官のPoor Seamanshipのため、艦橋、CICの当直員のチームワークに欠陥があったとされ、
  この士官たちも解任された。:

 8月21日早朝、さらに衝突事故が発生した。シンガポール沖において米海軍イージス駆逐艦John S. McCainがタンカ―と衝突、同艦の乗組員10名が行方不明となったものである。こちらは、事故の詳細等がまったく不明であるが、FTZと同じく第7艦隊所属であり、この2ケ月の間に第7艦隊所属のイージス駆逐艦2隻の衝突事故が発生したことになる。
 米海軍は、この事態を深刻に受けとけ、全艦隊の運用を1~2日停止し、これら事故の原因を徹底的に究明し、再発防止を行うとの方針を示した。なお、相次ぐ艦艇の事故の責任をとり、8月23日、第7艦隊司令官は解任された。

 FTZ事故関連の第7艦隊の中間レポートにある、“Poor Seamanship”の文言に、筆者は強烈な印象を受けたので、これについて私見を述べてみたいと思う。
 まず、Seamanshipとは、古今東西共通した船乗りとしての操船・操艦術、航海術などのスキルと、船乗りとしての資質・心がけはかくあるべし、を示す言葉と言えよう。
 風向、風速、潮流などが千変万化する海上において、安全に船を進めるためには、リーダーたる船長・艦長はもちろん、配下の士官、下士官等乗組員にあっても、その階級、経験等に応じたSeamanshipを備えていることが求められるのである。筆者は海上自衛隊において水上艦艇勤務を比較的長期間にわたり経験した者であるが、Seamanshipの、なかんずく船乗りとしての心がけについては士官候補生時代から厳しく指導され、退官するまで、この心がけは常に持ち続けたと自負しているところである。この心がけを端的に表した旧海軍時代からの標語とその解釈は以下のとおりであり、旧海軍の良き伝統を海上自衛隊が引き継いでいる好例であり、Seamanshipそのものを表現したものと考えている。そして、この心がけを探求することによって、航海術等のスキルも向上していったと考えている。

 「スマートで 目先が利いて 几帳面 負けじ魂 これぞ船乗り」
(スマート)
 敏捷である、動きに無駄がない、颯爽としている、洗練されている
(目先が利く)
 常に先のことを考える、臨機応変である、視野が広い、気配りができる
(几帳面)
 責任感が旺盛である、時間を守る、確実である、事に臨んで十分な用意ができている
(負けじ魂)
 困難な局面においても任務を投げ出すことなく、全力で努力する

 Poor Seamanshipは、「Seamanshipのかけらもない」ということで、スキルもなければ、心がけもない、船に乗る者としては、情けない、恥ずかしい、ことであり、およそ船乗りとしては落第ということになる。
 米海軍(第7艦隊)では本年1月にもイージス巡洋艦の座礁事故があり、事故報告書には艦長の航海技量不十分との記述があるようである。 米海軍は超一流の海軍である。艦長も一流のSeamanshipを備えた士官がついていると思うが、艦長の養成、選抜に欠陥はないか、艦長教育がシステムや戦闘戦術面に偏向していないか、検証することが必要ではないだろうか。
 「1艦の責任はすべて艦長にあり!」なのだ。