新たな態勢を構築すべし!
(現下の情勢急変に如何に対応するか?)

平成29年9月11日
山下 輝男   

1 初めに
 急変する中国、北朝鮮、ロシアそして韓国の諸情勢に、我が国は充分に対応出来ているのだろうか?
 特に北朝鮮の情勢については、安倍首相が強烈な危機感を抱いて、日本に火の粉が降りかからぬように必死な外交的努力を続けている。素直に敬意を表する。勿論、政府は、最悪の事態をも想定した準備を怠りなく推進して居ることを確信もしている。
 然り乍ら、北朝鮮を含む周辺諸国情勢に対処するには、日本の手持ちカードは極めて限定的であり、手詰まり感が漂うと感じるのは小生のみではあるまい。確かに情勢の進展に応じて、弾道ミサイル防衛努力や南西諸島防衛態勢の整備を進めてはいるが、これらだけでは心許ない。
 本稿では、我が国の周辺諸国情勢への対応の基本を概観し、今後我が国が如何なる対策を推進すべきかを考察してみたい。尚、現状については項目のみ列記する。

2 北朝鮮対応
 北朝鮮の弾道ミサイルの脅威が新次元に入ったとして朝野に危機感が満ちているのは確かだ。北朝鮮の金正恩は、核の保有がなかったがために哀れな結末を迎えた、カダフィ、フセインに次ぐ第三の独裁者になりたくはないのだろう。彼は、核・ミサイル開発を決して諦めることはあるまいし、核もミサイルも既に最終完成段階になっている。
 米国が設定したレッドラインは既に超えているのではないかとも思える。一転、核保有国と認めることはないだろうとは思うが、米国には腰砕けになって欲しくない。
 ○ 基本的な対応(現状)
 ① 日米間の強固な連携を重視
 ② 国連・国際社会との密接な連携・協調、日本独自の圧力強化策をもって北朝鮮に対する圧力を強化し、北の対応変更を強制
 ③ 警戒監視体制の強化や国民に対する警戒情報及び初期対応の周知
 ④ 日米首脳会談等による戦略調整、関係国との継続的協議
 ⑤ ミサイル防衛能力の増大(次年度防衛予算等への計上)
 ⑥ 弾道ミサイル破壊命令の常時発令

 ○ 今後の要検討事項等
 ① 敵基地攻撃能力の保有 巡航ミサイル等
政府は過去の国会答弁でも、敵国が日本に対し攻撃の意思表示をしたり、ミサイル攻撃の準備・兆候が判明したりした場合に敵基地攻撃は認められる、と説明してきている。即ち敵基地攻撃の是非についての法的な論争は決着している筈であり、後は政治的な決断があるのみだ。戦後政策からの決別でもあり幅広い理解を得ねばなるまい。
巡航ミサイルの導入等が考慮されるのだろう。が、ターゲッティングについては米軍に依存せざるを得ないだろうし、コスト的にも厳しいものがあるのは事実だ。だとしても、必要ならば導入を決断すべきだろう。


 ② 核抑止能力態勢の見直し等
   後述6⑤に記述

 ③ 在韓邦人の避難計画の具体化 韓国との調整をも含む
数万人とも云われる観光客を含む在韓邦人を如何に整斉と日本に帰還させるかが肝要である。政府は計画の具体化を急いでいると確信する。自衛隊を使用するとすれば韓国との微妙な調整が必要だ。

 ④ 朝鮮半島有事における日米共同作戦計画の具体化
新安保法制において、日米共同の枠が広がり、具体的な行動がとれるようになった。苦労して成立した法制が真価を発揮するだろう。
日米がどのような戦略目的・目標を樹立して如何なる役割分担をするのか等々検討すべき課題は多い。戦略目的・目標は政治が決断すべきものであり、日米政治レベルの戦略調整が重要だ。


3 中国への対応
 中国の尖閣諸島を含む東シナ海及び九段線を根拠として管轄権を主張する南シナ海では積極的な海空軍の進出や行動、軍事基地化の動きが激しい。尖閣国有化から5年経ったが領海侵犯を繰り返し、スクランブルの回数も異常値を示している。
 ○ 基本的な対応(現状)
 ① 厳重なる抗議と並行しつつ、法と正義に基づく行動の重要性、力による現状変更の不可なるを国際社会にアピール
 ② ASEAN諸国の海洋警備能力強化への協力等
 ③ 南西諸島防衛態勢の強化
 ④ 海上警備能力の強化(海保)
 ⑤ 警戒監視能力の強化
 ⑥ 海上連絡メカニズムの構築働き掛けや官民による日中間の交流促進
 ⑦ 歴史認識に係る日本の立場・正当性・主張の国際社会へのアピール

 ○ 要検討事項等
 ① 尖閣諸島の実効支配の具体策の措置
日本が現実的に実効支配しており、国際法上も歴史的にもわが国固有の領土であることに疑問の余地なしである。であれば、日本は政府の責任において関連施設を建設し、所要の部隊配置等をも検討して良いのではないか。敢えて波風を立てたくないという善人面が事をややこしくしている。

 ② 領域警備能力の更なる強化 領域警備任務付与
手続きの迅速化でグレーゾーン事態に対処しようとしているが、果たしてそれで万全か? 海保若しくは自衛隊に領域警備任務を付与することをも検討すべきだ。
無用の刺激を避けるという態度が誤解を招く。


 ③ 海保の能力増強
その都度、若干の能力増強は行っているが、予期される事態には十分には対応できない恐れが極めて大である。

4 対ロシア
 日本の眼が北朝鮮や南シナ海に向いている間に、虎視眈々と漁夫の利を収めんとしているようだ。日本に甘い期待感を抱かせつつも、良いとこ取りをして居る感無きにしも非ずだ。
 ○ 基本的な対応(現状)
 ① 日露平和条約締結を最終目標
 ② 共同経済活動等を通じての平和条約締結気運の醸成
 ③ 国際的な連携による対ロ行動の実行 経済制裁等
 ④ 北方領土実効支配に対する日本の立場表明等

 ○ 今後の方向
 ① 共同経済行動等の効果判定等の見極め、そして次なる方策の検討
共同経済行動を梃にしての北方領土問題解決が当面の政策目標ではあるが、ロシアに良いとこ取りされかねないとの危惧が幅広く存在する。何れかの時期に見極めが必要であろう。そして新たなるアプローチを模索することになろう。と言って、名案は浮かんでこないが・・

 ② 北海道防衛の強化
当面の重点正面である南西諸島への戦力増強を受けて、北海道防衛は必要最小限に過ぎない。実効支配のみならず、ロシア軍の戦力増強が続き、彼我の戦力格差が拡大しつつある。何れにしろ、力の空白ができるような事態は避けねばならない。

 ③ 北方領土ロ軍撤退の代替たりうるインセンティブの検討等 非武装化(自衛隊、米軍共に常駐しない)、大規模極東
開発協力や資金支援
米軍がオホーツク海に進出しないのであればロシアの勢力圏は保たれる。絶地の北方領土に孤立させる愚を犯しているとも云える。ロシアの情勢によっては、北方領土が取引材料になり得る可能性もある。それを待つしかないのだろう。


5 韓国
 中韓蜜月が一転している。抑々無理筋だったのだ。親北政権の基本方針は混乱し、国内団結の核に反日を掲げているようだ。安全保障上の連携についてもどこまで真剣味があるのか、疑問なしとはしない。反日を国是とする国とは、縁を切りたいが、それも出来ず、難しい対応が必要だ。
 ○ 基本的な対応(現状)
 ① 歴史認識等に係る問題は日韓基本条約とで解決済みとの立場堅持と国際社会への周知努力
 ② 現下の情勢における日米韓の連携重要性の強調
 ③ 竹島問題は日本固有の領土であるとの主張継続

 ○ 今後の方向
 ① 日韓の安保上の戦略的な連携と個別問題との峻別対応
日韓は、唇歯の関係、一衣帯水の位置関係にあり、安全保障上極めて重要な隣国ではある。韓国の異常とも云える反日歴史戦には正々堂々と立ち向かいつつ、安全保障上は連携するという、難しい立ち位置を採るべきとの日韓調整が必要だ。親北大統領が納得するかどうかは別としても、それを日本は主張し続けることが重要だ。

 ② 日韓和解は可能か・・息の長い取り組みを
日韓基本条約に乗っ取る限りにおいて、日本は韓国に対して何の蟠りもない。彼らの反日は宿痾みたいなものだ。快癒には数世代が必要だろう。是々非々で対応しつつ、時代が解決するのを待つしかなかろう。可能な交流は必要だ。

6 今後の検討事項として共通的なもの
 ① 日本の防衛態勢の強化 防衛費の増額
現下の周辺情勢の緊迫化に伴って我が国防衛態勢の見直しは当然必要だ。所要の防衛力整備を行うべきだ。それも緊急に行わねば間に合わぬ可能性がある。泥縄であってもいい。やるべきことを直ちに実施すべし。非常時には特別な対応があって然るべきだろう。今迄の付けは払わねばならぬ。必要が生じれば、一気にエキスバンドするのが当たりまえだ。挙国一致内閣を等と云えばアナクロと云われるかも知れぬが、それほどの事態である。

 ② 国民保護態勢の構築
今回の北朝鮮の度重なるミサイル発射で、J-ALERTや初期対応については国民に理解されたが、まだまだ戸惑いがあるようだ。シェルターもなければ、相応の備蓄もない、避難計画すらも実際的ではない。また、北朝鮮をはじめとする関係国の特殊部隊等の攻撃、ゲリ・コマへの対応についても我が国は極めて脆弱だ。
これで真っ当な国民保護が出来る筈がない。また、必要な場合における私権の制限等についても慎重ではあっても検討を要しよう。
国民保護即ち市民防衛であることを明確にすることが重要だ。


 ③ 安保等に関する国民理解・意識振起の促進
北朝鮮や中国の傍若無人な行動に、平和ボケした日本も次第に覚醒しつつあるやに見える。長らく忘却され消滅した国防意識や愛国心が今再び芽生え始めている。これらを大事にすべきだ。その為には我が国の学校教育や国民教育の再改革が重要だ。

 ④ 日本の立場や主張をより国際社会にアピールする方策の検討と推進
中国・韓国との歴史認識に係る軋轢(所謂歴史戦)や海洋行動等に関する主張等、日本はこれまで積極的に自らの主張をアピールして来なかった、或いは弱かった・受動的であったという反省がある。日本の対外発信力を大幅に強化すべきだ。それは国際機関の中においても同様である。してやられてばかりではないか?真実は何れ理解されるというのは誤りだ。日本は国際宣伝戦に弱いと感じるが、どうだろうか?

 ⑤ 核抑止の抜本的見直し等
中国、ロシアに続き、最悪の場合北朝鮮までもが核保有国になった場合、我が国は米国の核の傘に入っているから安全・安心と嘯いておられようか?日本が核を保有することは国内外情勢上許容されないだろう。であるならば、如何にして日本の核抑止能力を増大させるかを真剣に検討しなければなるまい。非核三原則の“持ち込ませず”を容認するのか、米国との核シェアを協議するのか等を考慮しなければならない。米国に完全に依存するのみでは知恵がないと云われよう。

 ⑥ 憲法改正
所謂、カケやモリ蕎麦問題で、憲法改正機運は一気に萎んでしまったのは残念だ。一部マスコミの攻勢は盛り上がったが、どうやら下火になりつつあるようだ。これも、北朝鮮や中国の理解し難い行動に危機感を覚えた国民の中から、本来あるべき状態にすべきであるとの考えが芽生え始めたことが大きい。この機を逃すべきではない。自衛隊の合憲性、非常事態条項などを含む憲法改正に着手すべきだ。緊急事態対処法の整備は焦眉の急である。

7 終りに
 対中、対露そして対北朝鮮、何れを見ても日本の無力感を痛感する。何故だろう。それは日本が余りにも他力本願だからなのではないだろうか?過去の呪縛から離れて、日本の独自性を発揮するにはどうすればいいのかが本稿論述の動機である。

(了)