鎧袖一触ならん!(北朝鮮攻撃の条件・要領等)

平成29年9月28日
山下 輝男

1 はじめに
 国際社会の度重なる抗議や非難をものともせずに、北朝鮮の弾道ミサイル実験は益々そのレベルを上げている。日本上空を越える弾道ミサイルは既に六度となり、直近のミサイル発射、北海道上空を通過し、襟裳岬の東約2000㎞の太平洋上に落下した。射程上はグァムに届くものと推定されている。9月3日には6回目の核実験を強行し、ICBM用の水爆実験に成功と喧伝した。
 国連は、北の行動に対し、石油を対象にした制裁決議を全会一致で決議したが、北朝鮮に対する決議は今回で9回目である。が、実効性には疑問なしとはしない。
 米・朝は、激しい言葉の応酬を繰り広げている。
 激しい言辞の応酬と周辺域への海空軍戦力の展開とミサイル発射実験と云う軍事的圧力が、一気に熱戦となり得る。
 米軍による攻撃は既に秒読み状態かも知れぬ。少なくとも、ゴーサインの発出に即応し得るべく所要の準備が着々と出来ているだろうし、完整しつつあるものと考えるべきだ。そのような準備をしていないとすれば、軍当局は怠慢の謗りを免れないだろう。

 徒に朝鮮半島有事を望むものではないが、北朝鮮が核ミサイルを放棄しない限り、米軍は何れ軍事的に対応せざるを得ないだろう。勿論、北朝鮮の核武装容認論も一部にあるやに仄聞するが、それこそ日本にとっては悪夢であり、受け容れられない。
 云うまでもなく、戦わずして敵を屈服させるを「上善」であり、北の政策転換が行われることが望ましいがそれは無理だ。であるならば、次善の策の最小限の損害でもって勝利することを追求することとなろう。
 本稿は、米軍による北朝鮮攻撃の条件や作戦要領等を大胆に予測してみようとするものである。

2 米軍による先制奇襲攻撃の可能性と攻撃様相
(1)米軍による先制攻撃遂行の前提条件
 トランプ米政権は4月6日、内戦が続くシリアで、アサド政権軍の支配下にある空軍基地に対し巡航ミサイルによる攻撃を行った。シリアが禁止されている化学兵器を使用したとみられる空爆で多数の死者が出たことを受けた対抗措置と云われる。
 が、米軍の北朝鮮に対する攻撃には大きな足枷がある。それは韓国に対する北による攻撃(反撃)や、在日米軍基地や日本に対する攻撃により大量の犠牲者が出る可能性が高いということである。韓国や日本が人質に取られているので、シリアに対する空爆のような思い切った攻撃ができない。更には、米軍の攻撃に対する中露特に中国の反応が、最悪の場合第二次朝鮮戦争に発展する可能性があり、それも大きな抑止要因である。
 これらから、米軍が先制攻撃を遂行するためには以下の条件が必要である。
①北による韓国に対する攻撃特にDMZ沿いに集中配備されている多連装ロケット等の長射程砲によるソウルを含む韓国北部の都市・拠点への攻撃を抑止し得るか又は最小限の犠牲に止め得る見込みがあること。
②在日米軍基地や日本の主要部に対するミサイル攻撃を抑止するか相当に高いレベルで迎撃し得ること。
③北に対する米軍同意、最悪でも中国の黙認があること、その前提としての戦後の北朝鮮体制に関する米中間の認識一致・合意があること。
 ③項に関しては、10月のティラーソン国務長官、11月のトランプ大統領の訪中が最大の政治的な焦点だろう。
 この観点からは、Xデー(Day)は11月以降となるとの見方もあろう。

(2)米軍及び北朝鮮の態勢等(実動部隊)
ア 米軍
 北朝鮮攻撃に際して、主要な実動部隊としては、以下のような部隊が考えられる。
○ 在韓米軍  第2師団及び第7空軍
○ 在日米軍
  嘉手納基地:第18航空団(F-15)
  三沢基地:第35戦闘航空団(F-16)
  在日米海兵隊:第3海兵遠征軍(3MEF)
○ 太平洋地域
  第7艦隊
以上の状況を、防衛白書78pの「米軍の配備状況及びアジア太平洋地域における米軍の最近の動向」によって示せば下図の通りである。

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○ 空母打撃群(CSG)
 現在11個の空母打撃群が運用中であり、内第5打撃群は横須賀
 有事には複数のCSGが派遣されて、CTFを組む。2017年ジェラルド・R・フォードが就役した。
一個空母打撃群で、一国の軍事力にも匹敵するとも云われる世界最強の軍事システムだ。

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○ アンダーセン空軍基地(グァム)配備
 B-1B戦略爆撃機:死の白鳥 任務は緊急近接航空支援、マッハ1.25、グアムから北朝鮮まで2時間、
ペイロード:機内34トン、総数60機以上

写真 B-IB    写真 RQ-4


○ グローバル・ホーク:高度18,000mから画像撮影や電子情報の収集可能
 3機配備(日本にも1機配備されている。)


イ 北朝鮮(防衛白書:朝鮮半島における軍事力の対峙 から)

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 詳細に説明はしないが、核やミサイルと云う対米戦略兵器に重点指向する一点豪華主義に走らざるを得ない。通常兵器は量的には相当なものであるが、その質たるや韓国軍にも対処できるレベルですらない。恐るべきは20万人とも云われる特殊部隊と化学・生物兵器である。ただ、サイバー戦能力は侮れないものがあるだろう。


(3)攻撃要領
 北朝鮮に対する軍事オプションとしては、朝鮮半島周辺に必要かつ十分な戦力の集中を行ってから実施する要領と、北朝鮮に反撃する暇を与えずに先制・奇襲的に行う要領がある。また、選択的・限定的な空爆等、軍事的封鎖等が考えられるが、先制・奇襲以外の諸作戦は、韓国や日本に対する反撃や対抗的な攻撃が予想され、作戦としては下策だ。従って、先制・奇襲的攻撃が最良の方策である。
 先制・奇襲的攻撃要領は以下のように行われるのではないだろうか?
①大規模なサイバー攻撃による指揮命令系統の遮断、防空機能の劣化
②B-1爆撃機、巡航ミサイル、空軍機による以下の目標に対する攻撃又は無力化
 DMZ沿いの戦車や多連装ロケット等
 弾道ミサイル発射陣地
 政権中枢の重要施設
③米軍のSFや内応部隊(者)による後方攪乱等
④空母打撃群を周辺海域に展開
 複数のCSGを展開させるのが望ましいが、攻撃企図の秘匿との関係で、慎重な考慮を要するものと推察される。

 本作戦を成功させるためには、北朝鮮軍等の詳細な目標情報の収集が必要であり、それを基礎としたターゲッティングが不可欠である。
 当然、米軍は早期の段階から北朝鮮軍の動向把握、目標情報収集に努めていた筈であり、相当精度の高い情報を入手しているものと推測される。移動式のミサイルや地下深くに掩蔽されている重要目標の精度が課題ではある。
 北朝鮮の防空能力については、B-IBの周辺域飛行に関して韓国情報院が9月26日国会報告したとおり、相当に脆弱であると見積もられる。電力の影響とも?そのことは当然、米軍は承知して作戦を組み立てている筈だ。

(4)戦況予想
北朝鮮が、米軍の些細な兆候を攻撃の予兆と認識して先制的にミサイルや砲撃を開始する可能性も無きにしも非ずだが、米軍の奇襲的攻撃が行われれば、北朝鮮軍は鎧袖一触だろう。戦後処理を除けば、数日を待たずに、北朝鮮軍は壊滅し、政権は崩壊し、作戦は終了するだろう。

3 北に対する攻撃に際しての重要考慮事項
(1)北朝鮮の殲滅が目的ではないので、金政権の打倒との戦争目的達成のために必要最小限の目標に対する攻撃に限定
すべきである。戦後復興に支障をきたさぬようにすべきだ。

(2)日米韓の戦略調整と中露との合意形成努力
中露の同意乃至黙認は絶対条件だろうか?トランプ大統領の最近の言動から察するに、危機感は本物だろう。新たな冷戦を招来するとしても攻撃を躊躇わないだろう。
北は云うに及ばず、中露も大統領の真意を読み間違うべきではない。
(3)日米共同作戦の円滑な遂行
新安保法制に基づく米軍との緊密な連携が必要

(4)日本防衛措置の万全を!
特殊部隊による攻撃や難民対処の万全、在韓邦人の帰還措置の実施

4 終りに
 大胆に予想したが、北朝鮮指導部が冷静な判断力を有しているならば、自らが如何に劣勢であるかは十分承知している筈であり、政策転換に踏み切るべきだ。
 戦争に伴う被害を如何に局限するかが最大のポイントであり、それを可能とするような軍事作戦が立案されるべきだろう。