難民の大量流入に備えよ!(第2回/全2回)

平成29年11月30日
山下 輝男

3 過去の難民対処事例等
(1)インドシナ難民
 ボートピープルに対し、当初は①一時的な滞在のみを認める こととしていたが、難民が増大するにつれ、難民の定住化を求める意見が強くなり、②ベトナム難民の定住認可(1978年4月閣議了解)とした。定住枠の拡大等が行われた後 ③「合法出国計画」(1980年6月)の実施へと方針転換した。インドシナ難民国際会議で「包括的行動計画(CPA)」(1989年6月)が採択され、爾後難民流出は激減したとされる。
 インドシナ難民定住受入れ数は、11,319人であり、その内訳は、
 ボートピープル 31%、海外キャンプ滞在者41%、合法出国者21%、元留学生など 7%となっている。因みに、欧米諸国の受入れ数はアメリカ: 823,000人
 オーストラリア と カナダ:各137,000人 フランス:96,000人
 ドイツ と イギリス: 各19,000人となっている。

参考
 合法出国計画:国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:United Nations High Commissioner for Refugees)とベトナム政府との間で締結された「合法出国に関する 了解覚書」に基づき、家族再会や人道的なケースの場合に限りベトナムからの合法出国を認めるという計画(合法出国計画(ODP:Orderly Departure Program))が開始された。


(2)朝鮮戦争時の朝鮮半島からの密入国者数
 密入国者数は相当数に上ると推計されているが、当然のことながら明確ではない。
 防衛研究所 NIDSコメンタリー第32号(2013年5月15日)の庄司潤一郎氏の「朝鮮半島有事と避難を巡る問題―朝鮮戦争期を振り返ってー」によれば、「戦乱を逃れた密航者が増加、距離的に近い壱岐、対馬、北九州、関門、日本海側の各地域が上陸地となった。検挙者数は、2772人(1950年)、4425人(1951年)であったが、逃亡などを含めると実際の数は更に多かったものと思われる。(以下略)」
 http://www.nids.mod.go.jp/publication/commentary/pdf/commentary032.pdf

 朝日新聞(1955年8月18日)によれば、65万人(警視庁公安三課調べ)の在日朝鮮人のうち密入国者が10万人を超えているといわれ、東京入国管理局管内(1都8県)では、この昨年中のべ1000人が密入出国で捕まった。全国ではこのざっと10倍になり、捕まらないのはそのまた数倍に上るだろうという。



4 日本の難民対策の現状
(1)難民条約
 難民の地位に関する条約は、1951年(昭和26年)7月28日の難民および無国籍者の地位に関する国際連合全権委員会議で、難民の人権保障と難民問題解決のための国際協力を効果的にするため採択した国際条約。効力の発生は1954年(昭和29年)4月22日。 この条約を補充するため難民の地位に関する議定書が作成され、1966年につくられ、1967年10月4日に発効した。2006年10月現在、加盟国数は条約・議定書ともに143カ国。難民条約と略称される。
 条約は第1条で「難民」の定義を定め、それに該当する者に対して、国内制度上の諸権利と保護を与えるべき旨を規定している。本文は難民に対する人道支援や社会保障、帰化等について規定するが、とりわけ第31条は、「生命あるいは自由が第1条の理由で脅威にさらされる恐れのある地域から直接避難した者」に対して、その滞在の不法性に対して刑罰を科してはならないことを明記し、第33条は第1条に記された理由により生命や自由が脅かされる危険がある地域に何人も追放してはならない原則について規定している。
 我が国においては、昭和50年代前半のインドシナ難民の大量流出を契機に、難民問題に関する議論が急速な高まりを見せた。これを受け、昭和56年6月の通常国会において、難民条約・議定書(1967年の難民の地位に関する議定書)への加入が承認され、昭和56年10月3日に難民条約に、昭和57年1月1日に難民議定書に加入、昭和57年1月1日から同条約・議定書が我が国について発効した。
 難民条約への加入に当たり、従来の出入国管理法令を改正し、新たに難民認定制度を導入するとともに、法律の名称も「出入国管理及び難民認定法(入管法)」と改称した。我が国において、その外国人が難民条約に定義された難民に該当するか否かの判断(難民の認定)は、入国管理局が所管している。
 難民として認定された人は、我が国で安定的に在留できるほか、永住許可要件の一部緩和、難民旅行証明書の交付が認められている。また、難民条約に定められた難民に対する各種の保護措置を確保するため、社会保障関係法令(国民年金法、児童扶養手当法等)から国籍要件を撤廃するなどの法整備が行われた。これにより、初等教育、国民年金、児童扶養手当、健康保険などについて、日本国民と同一待遇を受けられるなどの社会生活上の効果がある。
 即ち、来る者は拒めないのであり、相応の待遇を与えるべき義務すら負っている。


(2)難民認定数について
 欧米諸国は、難民認定に積極的で多数の受入れ人数の実績を持つ国も多いが、日本は実績が少なく、「閉鎖的」「反人権的」「グローバル時代への逆行」等の批判がある。欧米では特にシリア難民の大量受入があって、それが社会問題にもなっている。日本の難民認定数は、平成27年27人、平成28年28人という状況である。
 認定申請数が少ないのか、認定に時間を要するのか、或いは厳しすぎるのか等々の課題はあろうが、瞬間的大量発生する難民を上手く捌ききれるのか、疑問なしとはしない。


(3)入国管理局の現状
 出入国管理行政を行うための機構として,法務省に入国管理局が設けられている。実務機関として、地方入国管理局(8局),同支局(7局),出張所(61か所)及び入国管理センター(2か所)が設けられてる。
 このうち、収容・送還の業務を行うのは、2ヶ所の入国管理センターであり、東日本入国管理センター(牛久市)の収容能力は、約700人、大村入国管理センター(大村市)は、約800人である。平時所要としては充分だとしても、有事所要に対応できるのか?


5 難民対応の問題点と対策
(1)(大量)難民対応の基本的手順
 平時の場合には、条約難民或いはマンデート難民にしろ、法務省入国管理局において整斉と対処し得るものと思われる。
 問題は、特定期間に大量の難民が日本のあらゆる所に押掛ける場合の対応であろう。
 特に問題となるのは海路日本に入域することを企図する者への対応だ。朝鮮半島のあらゆる所から随時、漁船・小型船等により三々五々日本を目指す場合だ。
 このような場合の対応は、先ず、
①海保等の船舶により、救助・収容して日本に移送するか、当該船舶を誘導或いは曳航して指定港へ移動させる。
②指定港において、入国管理局の入管審査等を受け、検疫を受け、所定の一時収容施設に収容することとなる。身元の確認や持ち物検査等を行う必要がある。日本に入域した難民に対する所要の支援も必要だ。
③スクリーニングをパスした者は、希望或いは指定された地域に移動して、地方自治体から所要の支援を受けることとなるのだろう。
空路の場合も、概ね同様の流れとなろう。


(2)警戒監視・救助収容・誘導等能力の絶望的不足
 海上にける警察権の行使は、海保の任務である。不法入国しようとする漁船等を発見して、当該船舶乗船者の状況確認を行うべく臨検を行う必要があるが、海上保安庁の現巡視船では不十分過ぎる。四面環海の日本の海岸線の総延長は3万5千㎞にも及んでいる。日本海側を重点的に監視警戒するにしても、余りにも膨大過ぎる。海上監視は勿論、陸上監視能力も余りにも脆弱だ。
 不審船対応で苦汁を舐めた日本は斯かる点は大分改善されているものと信じたいが・・
 重点海域である特定正面に重点配置するとしても余りにも穴が多すぎる。


(3)一時収容場所能力の絶対的不足
 仮に、所要の難民を指定された港に移送したにしても、滞留する避難民(難民)を一時的に収容する必要がある。2ヶ所の入国管理センターでは絶対数が足りない。そのような収容所を誰が何処に設置し管理・運営するのか、現時点では明確になっていない。陸上自衛隊演習場(廠舎等の活用)を活用する案もあろうが、当時の状況において陸上自衛隊はより緊要な任務に従事していると考えられ、収容施設の管理・運営は無理だろう。
 ただ、阪神淡路や東日本大震災時には各地で相当数の避難者を受け入れた経験があり、自治体や民力の活用が出来れば、出来ないことはないかも知れない。
 言語習慣の差異もあり、同胞に対する避難支援と同じレベルが期待できるか否か疑問もある。


(4)スクリーニング(難民審査)能力オーバー
 当該避難者が難民に該当するか否かの審査が必要である。否もっと言えば、当該者が悪意を持って日本に入域しようとしているのか否かを判断することが重要だ。入国管理センターが所掌するが、平時態勢から一気に拡充することが可能だろうか?


(5)収容施設と難民管理態勢
 入国管理機関での入国審査等が終了し、難民と認定された者以外は、基本的には強制送還されるべきだが、それが許される状況ではない。とすれば、それまでの間、何処かの場所に所要期間収容する必要があろう。何処に設置し、誰が管理運営するのか明確ではない。日本の法体系の想定外の事態なのだろう。
 確かに大震災時には、それなりの収容施設が準備できたが、地方自治体が多数の難民を収容する施設の提供等に容易に同意するとは思えない。


(6)自衛隊や警察、そして海保も他の優先任務に従事の要
 難しい問題が起きると直ぐに自衛隊に担って貰えば良いではないかとの論が出るのが常だが、自衛隊にしろ、警察にしろ、多くの任務を果たさねばならず、難民対応に割ける勢力には限りがある。とすればどうするのか?
 地域の治安維持は地域の消防団、自主防災組織や、更には新たに創設育成した自警団等に担当して貰うことを検討すべきだろう。民の力をも活用せざるを得ないのだろう。民に出来ること出来ないことを峻別し、仕分けすべきだろう。


(7)工作員や武装難民の混入対処
 特に北朝鮮からの難民には注意が必要だ。朝鮮半島における作戦を有利にすべく、工作員や武装難民を送り込む可能性が無視できないというより、北の常套作戦であろう。日本の難民審査は、そのような事態を全く想定していない筈だ。見極めるノウハウが欠如している。
 また、一時収容施設から逃散した者の中には工作員や破壊任務従事者が多数居る筈だ。原発や政経中枢等の重要警護対象や在日米軍基地等の警備に万全を期す必要がある。
 第一義的には、警察の役割だが、もぐら叩き的な様相ともなるだろうし、状況に応じ自衛隊による対応が必要となる。
 自衛隊には、治安出動の発令や警護出動をも予期せざるを得ない。これらに至る以前においては警察に対する支援後拠たる役割をも期待される。


(8)法的不備等
 このように見てきたが、根本的な問題は、このような非常事態に対処する法律がないという事であろう。また、大量難民流入が想定されるならば、それにどのように対処するかの国家的な対策が講じられていなければならないが、現状はどうか?
 一般的な難民対応の所管は、法務省であり、厚労省であり、地方自治体に関連するので総務省も、海保を所管する国交省も、当然防衛省も関係するはずだし、それらを統括総合調整する内閣官房も関係するはずだ。現状はそれぞれの省庁の任務に応じて相互調整するのみだろう。が、果たしてそれで万全か?
 また、大量難民流入に対する基本的方向も見えない。超法規的に、全ての避難民の一時的・暫定的な入域を認めて、所要の収容施設に収容管理して、事態の推移に応じ逐次に平時態勢に移行するのか?それとも、現状の態勢のままで滞留を厭わないのか等々、時の政府の決断にかかっている面もあるが、その根拠すらない現状だ。
 朝鮮戦争時には韓国から亡命政権を日本に創設したいとの話もあった(既述NIDSコメンタリー第32号による。)ようだが、同様な話も在り得るのか?当時の話では、亡命政権は6万人規模とされていたようだ。何れにしろ、韓国とは歴史認識問題でスムーズな外交関係が期待できないが、朝鮮半島有事における韓国民の日本避難に関する協議があっても良い筈だ。とは言え、現韓国政権では無理だろう。


6 終りに
 想定外に備えるのが危機管理であり、考えたくないことを考えて準備するのが大政治家の任務でもある。
 漠然と国民が不安に感じていることを解消すべく、難民に対する対応策を検討し、所要の態勢を整えて欲しいものだ。
 由利本荘市の漂流漁船員の突然の来訪を受けた家族は、仰天したと伝えられているが、然もありなんだ。そのような状況が全国各地で惹起する可能性がある。国民の不安解消は国家の重要任務だ。
 本項で述べたことは既に処置しつつあると期待したいものだ。

(了)