我が国の同盟戦略と次期NSS等への提言

平成29年12月28日
山下 輝男

1 はじめに
 北朝鮮情勢の緊迫化や中国の積極的な海洋進出に伴い、我が国の防衛態勢は一層のステージアップが迫られている。勿論、これらの東アジア情勢に対処するためには、日本一国や日米同盟のみでは十全とは言えない。
 安倍晋三氏は、政柄を握るや地球儀を俯瞰する外交を展開し、予期以上の成果を上げている。その外交の根底にあるのは、日本の国家百年の大計であることは疑いを容れない。首相が直言した訳ではないが、日米豪印のダイアモンド同盟そして英国をも巻き込んだG5海洋同盟を指向していると考えられる。
 本稿では、我が国の同盟戦略を概観し、次期国家安全保障戦略等に盛り込んで頂きたい事項等を考察してみたい。

2 我が国の同盟戦略
(1)我が国の同盟戦略の方向性
 明治維新以来、日本の国家戦略の方向性については、海洋国家たるか或いは大陸指向かで幾多の論争が為され、時には日英同盟を締結し海洋国家同盟を目指し、朝鮮半島からの脅威を肌で感じるが故に、防衛線を大陸に推進することを戦略の方向と動きがあった。これは、大陸近縁部に位置する島嶼国家の宿命でもある。
 日英同盟時代には日本は世界の主要国として繁栄したが、失効した後は大陸指向色が強くなり、世界から孤立し、大東亜戦争に敗戦した。戦後は日米安保を締結して太平洋国家として発展し、最長の平和を謳歌してきた。
 結果論から云えば、日本が目指すべきは海洋国家諸国との連携強化、同盟であり、それこそが国家百年の大計であると信じる。


(2)現状及び将来
ア 日米同盟
 1960年(S35)に調印発効した日米安保条約は、日本の安全のみならず極東の安全と平和の維持に大きく貢献したことは事実である。今日の日本の平和と繁栄は日米安保に負う処大である。日米安保の実効性も日米双方の努力により次第に高まってきている。
 集団的自衛権の限定行使容認等を法制化した 安全保障関連法案(安保法制)が2015年9月、参議院本会議で採決し可決、成立した。日米同盟の実効性を高める極めて重要なステップであった。
イ 日豪及び日印:格別な戦略パートナーシップ≒準同盟
 日本は、国際社会との協調を国是としているが、それら関係国の中でも日本の国益を考慮した際に特別に重視すべき国々が幾つかある。それは前述我が国の同盟性で述べた国々であり、豪州とインドを格別な戦略的パートナーシップナーと位置付けている。これは地球儀を俯瞰する外交を展開する安倍首相の提唱する日米豪印のダイアモンド同盟である。
ウ 日英:格別な戦略パートナーへの格上げ
 2017年12月に行われた日英「2プラス2」共同声明において“日本と英国はアジアと欧州で最も緊密な安全保障上のパートナーであり,本年8月のメイ首相の訪日に際し,両国のグローバルな安全保障上のパートナーシップを新たな段階に引き上げることにコミットしたことを踏まえ,新たな段階を迎えるにふさわしい日英協力の在り方を確認云々」と新たなステージにアップさせつつある。英国がダイアモンド同盟に加わった意義は大きいと考える。老いたりとは云え、英国の国際政治上の影響力は無視できないし、英連邦の盟主としての役割は極めて大きいと云える。

これらの日米、日印、日豪そして日印の同盟或いは準同盟がその素顔を明確にし始めたと云えよう。日米豪印英の海洋同盟の誕生だ。


(3)二国間同盟から多国間同盟への発展
 前述の各同盟は、未だ二国間同盟の域を出ない。二国間同盟を多国間同盟にする必要があろう。二国間戦略対話や交流を通じての各二国間同盟の実効性を高めることはもちろん重要だが、更にはそれを多国間同盟に進化させねばならない。
 5ヶ国の国益には、多分に相容れない部分もあるだろうが、それら小異を捨てて大同につく心構えが重要だろうし、そのための戦略対話が重要だ。Win-Winの関係は言うは易いが、行うは難しだ。故に、それを克服する叡智を五ヶ国が持つべきだ。

3 関係国の戦略の現状等
 前項で、日豪日印日英関係の状況について総括的に述べたが、具体的に如何なる状況にあるかを確認しておきたい。

(1)米国の新「国家安全保障戦略(NSS)」の概要
 トランプ大統領は、2017年12月18日、政権の外交、軍事、経済政策などの指針となる「国家安全保障戦略」を発表した。同戦略はオバマ政権時代の2015年以来であり、トランプ政権としては初である。その要点は以下の通りである。
①「米国第一主義」、国際政治においては「力」が中心的な役割を果たすとの認識で、
 力による平和で国益確保と国際秩序の維持を図る。
②中露を現状変更勢力と位置付け、他の脅威として北朝鮮やイラン、イスラム過激派
③インド太平洋に対する強力なコミットメント
④同盟諸国との関係:強力な防衛ネットワーク、日韓=ミサイル防衛協力
 印=協力拡大 台湾=強力な結びつき維持
 日本:不可欠な同盟国、日本の主導的役割を期待

力の重視で、中露を牽制した。日本にも応分の負担、中露の競争新時代等と評されている。
 何れにしろ、トランプ政権が、インド太平洋正面を重視する姿勢を鮮明にした意義は大であり、安倍首相の戦略観と平仄を一にする。


(2)日豪(準)同盟
ア 日豪関係の総括
 オーストラリアは、共に米国の同盟国として、普遍的価値のみならず戦略的利益・関心を共有し、日本にとっては、アジア・太平洋地域の「特別な戦略的パートナー」であると位置づけている。日豪間の協力は、カンボジアPKOでの協力に始まり、イラク復興支援や各種国際緊急援助活動などでの協力を積み重ね、東日本大震災に輸送機派遣する等関係がますます緊密になっている。安全保障分野に止まらず、貿易、食糧や資源調達国でもあり、EPAの協議も進みつつある。
イ 安保協力等
①2007年 安全保障協力に関する日豪共同宣言
②ACSA,日豪情報保護協定(GSOMIA)、日豪防衛装備品・技術移転協定
 (潜水艦の共同開発等?)
③日豪首脳会談
④日豪「2+2」の開催
首脳・大臣等のハイレベルの交流、防衛当局者間の定期協議、部隊間の交流そして日米豪間の協力

ウ 近々の動向
 2018年早々に豪のターンブル首相の来日が予定され、安全保障分野の連携強化に向け、日豪地位協定の大枠合意、自衛隊と豪軍による共同訓練や災害対応を円滑化する新協定について、早期締結の方針を確認する見通しと報道された。北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の西太平洋への進出などを踏まえ、安全保障分野での日豪の協力関係をさらに強化したい考えだ。


(3)日印
ア 日印関係の総括
 台頭するグローバルパワーとしてのインドは、急速な経済成長、国際社会での発言力、巨大な人口・市場、地政学的な重要性、日本とも普遍的な価値観を共有しており、更には日本との歴史的な親密性、パール判事に対する敬愛等々もあり、日本としては、「特別な戦略的グローバル・パートナー」と位置付けて、外交、安全保障のみならず万般の分野(CEPA、高速鉄道建設事業等)においても密接な協力関係を築いている。 特筆すべきは、安倍首相が先日、「日本とインドは同盟国と云えるぐらいの関係になっている」と明言したと云う事だろう。即ち、インドは日本の準同盟国であると認めたということだ。
イ ハイレベルの交流や関係当局者間の定期協議が行われている。
ウ 2008年10月:日印安保協力に関する共同宣言
  2014年9月:日印防衛協力及び交流覚書
  2015年12月:防衛装備品・技術移転協定、秘密軍事情報保護協定
  (警戒監視及び無人システム技術、陸上無人車両、ロボティクス分野、US2救難飛行艇、
   デュアルユース技術等での協力)
  2016年11月:モディ首相来日「日印新時代」を飛躍させる首脳会談との評価
エ 3軍種における訓練や幅広い交流や対話等も活発になっている。
オ 本年8月の中印のカシミールでの一触即発状態の時にも、インドを無条件に支持している。


(4)日英同盟
 JPSN及び戦略検討フォーラム掲載の拙論を参照して貰いたい。
 「新(第二次)日英同盟の実効性を高めよ! 」(平成29年12月17日)
  http://www.jpsn.org/opinion/word/11629/
  http://j-strategy.com/opinion2/3710

4 同盟関係の深化と我が国の更なる安全保障努力
(1)信頼に足る確固たる同盟確立のために
 云うまでもなく、同盟関係はある意味においては運命共同体となることでもある。それ位の覚悟が必要だろう。然はさり乍ら、主体性もなくのめり込んではならないと思う、その節調を常に意識することも必要だ。
 同盟の真価は、何れかの国が危機に直面した際に問われる。願わくば、そのような状況に陥らぬことを。


(2)我が国自身の安全保障努力
 同盟国に全て依存するのは如何なものかと思う。基本は自らの安全は自らが守るという意識と努力が不可欠だ。


(3)新たな安全保障戦略、防衛計画大綱等に盛るべき事項
ア 国家安全保障戦略、来年改定へ
 12月7日の報道によれば、現国家安全保障戦略(NSS)を来年度末を目途に改定する方向で検討に入ったと云う。NSSは、平成25年12月に初めて策定された政府の最上位の戦略文書である。緊迫する北朝鮮情勢、中国の海洋進出等を踏まえ、現戦略を改定しようとするものである。日米同盟の状況、印、壕、英等との広範な連携をも当然盛り込まれるのだろう。
 更には、同盟、準同盟諸国とまでは位置付けられない国々との戦略的パートナーシップの構築即ち重層的な関係構築も肝要である。

イ 今後の防衛力整備に盛り込まれるべき事項等
 報道等により確定或いは検討されている事項ととされているものは以下の通りである。
① イージスアショアの導入閣議決定
 12 月19日の報道によれば、政府は、陸上型イージス「イージスアショア」を2基導入し、陸上自衛隊の装備とすることを閣議決定した。2023 年度頃の運用開始を予定している。秋田、山口の陸自演習場に配備する方向だ。迎撃ミサイルは、射程や速度を向上させた[SM3ブロック2A]を搭載する。1基当たり1000億円。
② 護衛艦の空母への改修検討
 時事通信2017 年12 月26 日の記事によれば、海自最大級の護衛艦「いずも」を空母に改修する方向での検討に入ったと云う。実現すれば自衛隊初の空母保有となる。最新鋭ステルス戦闘機F35B の運用を想定している。

  いずも

③ スタンドオフ・ミサイルの導入方針
 防衛大臣は、スタンドオフ・ミサイルとして、F35Aに搭載するJSM等を導入することとしていると説明した。3種類のミサイルは、JSM(ノルウェー)約500㎞(対地・対艦)、JASSM(米国)約900㎞(対地)、LARSM(米国)約900㎞(対地・対艦)である。
 導入目的は島嶼防衛であるとされるが、敵基地反撃能力の保持との絡みで、議論が起きるものと見積もられている。
④ 自衛隊の再編、サイバー・宇宙部隊創設へ
 新年早々報じられたところによれば、2020年にも、サイバー・宇宙分野での防衛能力を高めるため、司令部機能を持つ防衛相直轄の統合組織を創設する方向だとのこと。陸上総隊、自衛艦隊、航空総隊と同格。要員は陸海空3自衛隊から集め、サイバー・宇宙分野の権限を集約する由。
⑤ 防衛力整備をNSC主導方針へ
 1月7日報道によれば、従来陸海空自が要求した従来方式を改め、NSCが主導的に決定する方式への変更を固めたとされる。実現すればドラスティックな改革となる。2019年度以降の中期防から導入する。


ウ 更に検討して貰いたい事項等
①国民保護(ゲリラ対処、国民組織等)
 朝鮮半島情勢の帰趨によっては、我が国が国民保護事態に陥ることも十分に考えられる。机上の空論であった国民保護が、現実となる可能性がある。所謂4 類型であるゲリラ、ミサイル、航空攻撃等の事態に応ずる国・指定機関や国民の行動をより具体化して徹底すべきだ。所要の訓練も行うべきだ。
 国民保護事態においては自主防災組織等に色々な役割が期待されているが、現実的に考えれば期待薄だ。ではどうするのか?また、核シェルター等の整備はどのように進めるのだろうか?検討処置すべき事項は余りにも多い。

②情報収集態勢強化
 我が国は、重要な戦略情報の大分を米国に依存しているが、果たして現状のままで問題ないのか?また、何れ敵基地反撃能力を保持することも有ろうが、その場合、目標情報はどのようにして収集するのか?日本の能力は充分か?否だ。自らもそのような能力を保持すべきだ。米国との調整も必要だろうが・・

③維持整備、継戦能力、抗堪力(性)
 防衛に必要な装備を取得するのは当然だが、それで留まってはならない。防衛力を十全に発揮させるためには、装備の維持管理に必要な整備が必要であり、限られた防衛予算の中で、後方面に皺寄せがないかしっかりチェックして、所要の措置を講じて欲しいものだ。正面と後方のバランスが取れてこその戦力だ。最近航空機事故が続発しているが、整備上の問題ではないことを祈るのみだ。
 装備を保有するにみだけでは戦力足り得ない、その戦力発揮と所要の期間戦える能力、継戦能力が重要だ。
 さらに、基地や駐屯地等の重要施設等の抗堪性の確保も重要だ。これらに目が向けられているのだろうか、杞憂であることを祈るのみだ。

④ 難民対処の万全と海上保安体制の抜本的改善、領域保全の方策確立を
 朝鮮半島危機・有事の際に日本に流入する可能性のある難民は、少なく見積もっても、数万を越えよう。我が国にはこれら大量の難民に対処するノウハウも施設も能力もない。日本領海以遠で発見対処する必要があり、それに必要な情報収集や海上保安体制も見直すべきだろう。
拙論 難民の大量流入に備えよ!
JPSN:http://www.jpsn.org/opinion/word/11578
J-Strategy:http://j-strategy.com/opinion2/3698


エ 留意すべき事項
① 神学論争の回避を
 時期国家安全保障戦略、防衛計画の大綱等に盛り込まれるであろう、スタンドオフ・ミサイルの保有や防御型空母への改修等に関連して、かって国会で繰り返された不毛の論議がまたぞろ再燃するのではないかと懸念する。北朝鮮の核ミサイル開発・実験や中国の海洋進出に危機感を覚えた筈だが、一部野党やマスコミは蒸し返そうとする気配がある。そういう意味では国民の方が学んでいる。

② 最上位文書を最上位文書たらしめる万般の努力を!
 本戦略は、策定の趣旨の項において、「さらに、国の他の諸施策の実施に当たっては、本戦略を踏まえ、外交力、防衛力等が全体としてその機能を円滑かつ十全に発揮できるよう、国家安全保障上の観点を十分に考慮するものとする。」とあるが、斯かる観点からの諸施策が実施されているか、疑問なしとはしない。

5 終りに
 現行国家安全保障戦略が策定(H25/12/17)されてから早4 年、情勢の推移は策定当時の予想を遥に上回っているものと考える。我が国の最高位の戦略文書であるならば猶の事、情勢の推移に応じて適宜修正されるべきである。我が国の安全保障・同盟に関する考えについても進化している。従って、改訂版を準備するのは当然だ。
 更にもう一歩踏み込んだ安全保障戦略を策定すべきだと考える。前項で述べた項目を是非とも盛り込んで頂きたいものである。

(了)