南北首脳会談「板門店宣言」に懸念あり!

平成30年4月29日
山下 輝男

1 始めに
 韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩委員長は、4月27日(金)南北軍事境界線上の板門店で、史上3回目となる南北首脳会談を行い、両首脳は、会談後に署名した「板門店宣言」を発表した。歴史的な南北首脳会談と云われるが、実は北朝鮮は切羽詰まった揚げ句の果ての決断だったと思える。経済性効果が効き始め、軍事的圧迫感も相当だったのだろう。体制保証の見返りとして最高の投げ餌を播いたのかも知れぬ。
 歴史的な会談になるかどうかは、今後の米朝会談にかかっているのだろう。北の本気度・真剣度をしっかり見極め、確実な措置を採らせることであろう。
 本首脳会談では、「朝鮮半島の完全な非核化」と年内に休戦中の朝鮮戦争の終結宣言を目指すこと等で合意した。
 平昌冬季五輪に始まる北朝鮮の平和攻勢の一定の成果(?)であり、南・北朝鮮をはじめとして国内外の一部では、平和がそこまで来たと浮かれているように思える。が果たして、実際はどうだろうか?
 本稿は、板門店宣言について何が問題なのか等について考察するものである。

2 南北首脳会談
(1)過去2回の南北首脳会談の概要
ア 第1回 2006年6月 於 平壌 金大中大統領と金正日総書記
「南北共同宣言」で、統一問題の自主的解決、離散家族の相互訪問、経済協力推進などを確認

イ 第2回 2007年10月 於 平壌 廬武鉉大統領と金正日総書記
「南北関係の発展と平和繁栄のための宣言」で、経済協力強化、朝鮮戦争の休戦状態の終結、6か国協議の共同声明の履行などを明記


(2)板門店宣言のポイント
 宣言全文の記載順に従えば、以下の通りである。即ち優先順位と云う事だろう。
 南北両首脳の関心事項が垣間見える。
①南北関係の画期的改善と発展
  既採択の南北宣言の完全履行、対話・連絡事務所、交流・協力事業、人道的対応、
  10.4宣言合意事業推進、南北首脳で定期的に会談、
  文在寅大統領が秋に平壌を訪問、軍事的緊張状態緩和等の努力
  南北の段階的な軍縮
②今年中に終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換
③完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島を実現する共同目標を確認
④朝鮮半島の非核化のため、国際社会の支持と協力を得るよう努力
 南北と米国の3者または南北と米国、中国の4者による会談の開催を推進

3 板門店宣言に関する疑念等
(1)「朝鮮半島の完全な非核化」について
① 目標とすると云うのみであり、具体的な方法については全く不明である。具体的な実施要領は、米朝首脳会談待ちだということだが、それでは米国に対する訴求力が弱いようだが・・
② 朝鮮半島の非核化とは如何なる意か?日米等が求めているのは北朝鮮の完全且つ非可逆的検証可能な非核化(CVIDと云う。Complete(完全) 、Verifiable(検証可能)、Irreversible(不可逆的)、Dismantlement(廃棄))であり、同床異夢の懸念がある。朝鮮半島の非核化とは在韓米軍の撤退や原潜等の韓国寄港禁止等、或いは米国による核の傘をも含んでいるともとれる。
③ 非核化には、相当の時間を要する筈だが、その間における北朝鮮への対応はどうすべきか。見返りを与えるのか?廃棄完了後に相応の支援するのか、それらのプロセスが不透明。ここら辺は日米がしっかり戦略調整して、北に明確に示すべきだ。


(2)韓国による北朝鮮経済支援について
 第二回共同宣言合意事項の完全履行(韓国による北朝鮮に対する経済支援)と国連による経済制裁は両立し得るのか?北朝鮮の延命に手を貸し、国連制裁の無力化に繋がる懸念大である。


(3)休戦協定から平和協定への転換について
 平和協定締結後の東アジア軍事バランスをどのようにするかが重要だ。ただ単に終戦宣言し、平和協定を締結すればいいと云うものでもない。大前提は、北朝鮮の非核化やミサイル開発の凍結等であり、在韓米軍の撤退や縮小との関係、中国との関係等利害関係が複雑であり、容易ではない。いとも簡単にそれらが実現しそうに喧伝されている嫌いがある。
 韓国は、休戦協定締結の当事者ではないが、どのような立場でやるのだろうか?


(4)北朝鮮の「良いとこ取り」や「時間稼ぎ」に利用されないか疑念大
 非核化も平和協定への転換にも検討すべき事項が多く、相当の時間を要するものと判断される。この間、経済的援助・支援が為されるのであれば、北朝鮮を利してしまう。或いは、この間にほぼ完成の域に近づいている核ミサイル開発が完成してしまう可能性も高い。北は、米国と調整する間は、米軍の攻撃は有り得ず、一時の体制保証が得られる。
 何れにしても、北朝鮮の本気度を冷静に見極める必要がある。


(5)融和ムードに流され、安易な妥協の懸念
 北が体制保証を得んがため、大胆な妥協をしたのであり、緊張状態は低下したとのムードがあれば、国内外で妥協するべきではないかとの意見が出よう。北の裏切りの歴史を忘れるべきではなく、二度と同じ過ちを犯すべきではない。ムードの流されやすい国民性の国家は要注意だ。
 北朝鮮の日本に対する揺さぶりが始まったようだが、我等は冷静に事態の推移を注視すべきだ。


(6)密なる日米戦略調整を行うべし
 米トランプ政権の安保政策者は、安易に北に妥協するとは思えないが、トランプ大統領の本音や行動は今一読めないので、若干の不安なしとはしない。Twitterでは大歓迎しつつ、一方では別のコメントも発する。彼一流の交渉術なのかもしれないが、一喜一憂することはなかろう。
 少なくとも、トランプ政権の外交・防衛首脳は、安定感があり、要求すべきは要求するだろうと思う。
 然しながら、何が起きるか解らぬのが国際情勢であるので、北の政策転換を確実にするためには、日本の米政権、大統領への積極的な働き掛けが肝要だ。そういう意味で、安倍首相がタイミング良く大統領と電話会談していることは望ましい対応だ。
 北朝鮮に逃げ道を作らせない・与えない米・朝協議とすることが重要だ。


(7)韓国の「のめりこみ」に要注意
 韓国の「のめりこみ」は異常だ。韓国が夢から覚めないのであれば、将来的な東アジア戦略環境が一変するかもしれない。その時に我が国はどうするか、悩ましい問題だ。韓国が如何なる方向に向かうのかを見極めつつ、今から種々検討しておかねばならないだろう。或いは、朝鮮半島の近未来をどう描くかをも考えておかねばならないだろう。
 或いは、米朝協議結果がどうなるのかは見通せないが、その結果如何によっては、朝鮮半島の緊張が一気に高まる可能性すらある。そのような事をも考慮して所要の準備を怠るべきではなかろう。

4 終わりに
 狡猾な北朝鮮に対しては、彼等が具体的かつ実効的な政策をとらない限り、現状の圧力政策は継続すべきだ。軍事的・経済的圧力が彼等の政策を変える可能性が示されたのである。日米や国際社会が採ってきた北朝鮮政策は正しかったのである。自信をもって、現在の手綱を緩めることないようにすべきだ。
 我が国政治家の関心事項は、モリ・カケ、セクハラ、日報であり、残念ながら激変するかもしれぬ朝鮮島情勢にそれ程の関心を持っているように思えぬのが残念だ。

(了)