米朝首脳会談とは一体何だったのか!

平成30年6月13日
山下 輝男

1 始めに
 歴史的とも称される米朝首脳会談が行われ、その合意内容が共同声明として公表された。平和が明日にでも到来しそうな想いに捉われたこの週間だったが、冷静になってみてみれば、それは全くの幻想に過ぎなかったようだ。
 段々、激してきそうだが、努めて冷静に米朝首脳会談を振り返ってみたい。過激な表現は御容赦を。


2 米朝首脳会談のポイント
(1)米朝首脳会談概要
 6月12日、シンガポール南部セントーサ島の高級ホテル「カペラ・シンガポール」で、史上初となる米朝首脳会談が行われた。両首脳のみによる会談に引き続き、拡大会合、ワーキングランチ、両首脳の共同声明への署名、現地時間1715トランプ大統領の記者会見、両首脳はシンガポールから自国へという推移であった。午前9時過ぎに開始され、約3時間半に及ぶ会議であった。
 会談には、両首脳の側近が勢揃いしたとされた。(昼食会メンバー)
 米側:ポンぺオ国務長官、ケリー大統領首席補佐官、ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官、サンダース大統領報道官、
ソン・キム駐フィリピン大使、ボッティンジャーNSCアジア上級部長

 北朝鮮側:金英哲党副委員長(統一戦線部長)、李洙墉(リスヨン)党副委員長、努光佚(ノヴァンチョル)人民武力相、
崔善姫(チェヅンヒ)外務次官金与正(キムヨジョン)党中央委員会第一副部長(金正恩氏の妹)、韓光相(ハンヴァンサン)党中央委員会部長


(2)共同声明のポイント
▽ 金正恩氏は朝鮮半島の完全な非核化に向けた堅個で揺るぎない決意を表明
▽ トランプ大統領は北朝鮮に対し安全の保障の提供を約束
▽ 新たな米韓関係樹立を確約
▽ 朝鮮半島での永続的で安定した平和体制の構築に協力して努める
▽ 米国と北朝鮮は、戦時捕虜・行方不明者の遺体回収に取り組む

3 米朝首脳会談の総括
(1)全般
 初の首脳会談、非核化を約束、体制保証、始まりの第一歩等と声明内容を肯定的に評価する者も居るが、具体策は示されていないと厳しく指摘する者が多い。。

(2)トランプ大統領が自画自賛すればするほど、中味に対する疑念が膨らむのは小生のみではあるまい。ビジネスにおけるタフ
ネゴシエーターではあっても、国際政治的には稚拙ではなかったかと思える。大統領が前のめりになり過ぎ、政治ショー化していた。

(3)パフォーマンスでは大統領に分ありだが、内容的には金正恩の勝利ではなかったか。
(4)共同声明を見る限り、米朝は同床異夢だ。それは、北朝鮮(NK)の発表内容等を見れば歴然だ。「非核化は段階別、同時行動
原則で一致」、「大統領が米朝対話が続く間、米韓合同軍事演習の中止意向表明」等、NK側に極めて有利なように解釈できることを示した。米国の思惑とは違うのだろうし、これを同床異夢と云わずして何という。

(5)米側がNKに求めたCVIDに関する明確・具体的な内容はなく、NKの時間稼ぎに悪用されるは必定だ。
(6)核のみならず、WMD(大量破壊兵器)全般についても廃棄に関しても明確にすべきだった。そういう意味においては
片手落ちだ。重大な欠陥共同声明だ。

(7)大統領は、エンドレスな米朝対話が起こりうるという認識は持たなかったのか、だとすれば余りにも北の交渉術を知らな
さすぎる。

(8)有能な閣僚や側近が居るにも拘わらずに、己だけが交渉できるとの傲慢さの付けが来たのではないか?これでは閣僚や
側近が苦労する。リーダーは断を下すべきではあるが、意見を聞く耳を持たねばならぬし、でなければ裸の王様に成り兼ねぬ。否、既にそうなっているのでは。
 今回の首脳会談の下準備を行った米側の担当は多分に梯子を外された格好ではなかろうか?大量離反者が輩出する懸念もある?

(9)日米韓で、今回の米朝首脳会談に関する認識ギャップが露呈されそうな気がする。安倍首相は必死にそれを埋めようと
するのだろうが、米と韓国はNKの狙いに乗ぜられてしまい、日米韓の連携に亀裂が入ろう。

(10)中露は、ほくそ笑んでおろう。中国の指南なのか、金正恩の戦術なのかは不明だが、戦略的勝利は彼等にあると言わざる
を得ない。

(11)あまつさえ、非核化の処理費用は日韓が支払うべきだと何故この段階で云うのか。とてつもない額を如何に分担するかは
今後の課題だが、現時点で言う事もなかろう。最もそれが彼一流の戦術なのだろうが、根回しも何もせずというのは可笑しい。

(12)IAEA等の国際機関の関与は必須だと思うが、一切の言及がない。ということは,NKは拒否できるということ
なのだ。

(13)今回の会談を受け、米朝交渉が続くと思われるが、曖昧な合意内容では、今までと同じく、NKペースで進まざるを
得ないの事実だ。交渉担当者の御苦労が思いやられる。

(14)朝鮮半島の非核化と北朝鮮の非核化では意味合いが全く違う事に大統領は気付いていない。理解能力不足?
(15)曖昧・不完全な合意は何を齎すのか?結局は事態を悪化させるだけだ。NKの核を含むWMDの能力は完成の域に近々
には達するだろうし、それは極東アジアの激変にも直結する。

(16)再度の米朝首脳会談は無理だろう。NKが吞む筈がない。トランプの大失敗と歴史は記憶することになろう。絶好の機会
であったにも拘らず、それを活かせずに,NKを事実上野放しにした罪は大きい。会談前には、米国が圧倒的に有利な態勢にあった筈だが、それを一瞬にしてぶち壊したのだ。

(17)一部には政治ショーだと揶揄しているが、全くその通りだ。ノーベル平和賞などと言われ浮かれるから、足元を掬わ
れたのだ。

(18)NKは、核実験場の爆破や益体もないパフォーマンスを今後も繰り広げて自らは真摯に合意を履行していると見せかけ
るだろうが、それに惑わされてはならない。

(了)