微笑に幻惑されるな!

平成30年10月28日
山下 輝男

1 始めに
 安倍首相の中国公式訪問の成果をマスコミが日中新時代の幕開けだと挙って高く評価している。確かに戦後最悪と言われた時代からの関係改善が見て取れる。
 その概要や背景を管見し、日本はどうすれば良いのかを考察してみたい。

2 日中新時代の到来か?
(1)日中首脳会談等の合意等概要
 1978年の日中平和友好条約発効から40年の節目を迎え、中国を7年ぶり(2011年12月の野田首相以来)に公式訪問した安倍首相は、10月26日、中国の習近平国家主席と北京の釣魚台迎賓館で会談した。


 日中首脳会談の骨子は以下の通りである。
①「新たな時代」の日中関係構築で一致した。以下の三原則を確認した。
・競争から協調へ   ・脅威ではなくパートナー
・自由で公正な貿易体制の発展

②安倍首相からの習近平氏の来年の訪日提案に対し、習氏は「真剣に検討」と回答(実現すれば、2008年の胡錦涛氏以来)
③日本の中国に対する政府開発援助(ODA)を終了し、第三国でのインフラ開発協力を推進
習氏は「一帯一路」を共に建設することは新たな協力のプラットフォームと語り、安倍首相は、開放性や透明性という国際社会共通の理念導入を期待と表明
④尖閣諸島の周辺海域を巡り、意思疎通を強化し不測の事態を回避することで一致
(周辺海域での救難時の協力の円滑化・効率化を図る海上捜索・救助(SAR)協定の締結、海空連絡メカニズムに関し年内の会合開催やホットラインの早期設置確認)
⑤東シナ海ガス田の共同開発について早期の交渉再開に向け、意思疎通を強化
⑥日本産食品の輸入について、科学的な評価に基づき緩和を積極的に考えたいと習氏は表明
⑦北朝鮮の非核化の実現に向け緊密な連携、安保理制裁決議履行、日本人拉致被害者の早期帰国に関する日本の立場の支持
 その他李克強首相等との合意事項
①自由貿易の擁護についての相互の認識一致、李首相は、日中が保護主義への反対を旗印として協力を強調
(日米間に楔を打ち込まんとの中国の思惑と考えられる。)

②今後5年間で3万人規模の青少年の相互訪問や交流、訪日中国人に対するビザ発給要件の緩和
③日中通貨スワップ協定を中央銀行間で締結、上限額は旧協定の10倍の約3.4兆円
④日中イノベーション協力対話の新設


(2)意義・評価等
ア 過去最悪と言われた日中関係の改善
 習近平の発言「日中関係を再び正常な軌道に乗せた上で、新しい発展を遂げていく」にある通り、2012年の尖閣諸島国有化などの対立で、過去最悪と評価された日中関係が改善され、マスコミ等は、「日中新時代の到来」と評している。
 確かに日中関係の変化は、2014年の両首脳の初会談では目を合せず、昨年の11月の会談では僅かだが、笑みを浮かべていた(?)、そして今回は頷きながら握手をした、日中関係の変遷は、この習氏の態度変化に変化に如実に示されている。


イ 中国の対日融和姿勢の背景
 御都合主義の権化たる中国が、今回対日融和姿勢に転じたのは明らかに、日本の関係改善を急がねば中国は孤立しかねないとの焦燥があったからだ。
 米中貿易戦争で中国には最早打てる手もなくなり、更には日米に楔を打ち込むと共に、対日関係改善で新たな活路を見出したいとの狙いがあった。
 一帯一路構想やAIIBが行き詰まり・頓挫を見せつつあり、その打開のためにも日本の協力が必要であった。正に一帯一路構想は岐路に立っている。
また、忍び寄る通貨危機時の対応策がなかった。
 日米豪印の連携により中国の孤立感が深まり、何としても、この鎖を断ち切りたい。欧州は遠すぎて頼りにならない。
 中国は、確実に苦境に陥っており、その打開のために日本に擦り寄ってきている。そう理解すべきであり、中国の都合をしっかりと認識して対応すべきである。


ウ 日本側の事情
 日本側に切迫した日中関係改善の必要性は存在しない。隣人と仲良くすべきであるとの素朴な感情論、媚中派議員やチャイナスクール等の官僚諸氏の思惑、経済界の対中貿易等改善要求等があるが、中国側の必要性に比較すれば大したことはない。
 合意内容自体も、日本側が中国にかねてから要求してきたガス田問題や海空連絡システム等だが、それは相互的なものであり、中断されていたことの再開に過ぎない。

3 日本は通すべき筋を通すべし!
 安倍首相は、今回の訪中で、云うべき事項を明白に語ったようだ。流石は外交的センスに長けた首相らしい対応だったと高く評価したい。
 この日中新時代の扉を開くに当たっては、幾つかの事項を中国に認識・理解させ、認めさせねばならない。それらを検討したい。
(1)日本への内政干渉を控えさせるべき!
 靖国神社への参拝に関する不当なる批判は止めるべきだし、歴史認識に関しても、日本には日本の考え方があり、それを認めるべきである。更には、事実誤認も甚だしい日本を貶めるような中国国内での展示も止めるべきだ。


(2)尖閣諸島問題
 仮に、中国が尖閣諸島を日本固有の領土と認めないとしても、接続水域の航行や領海内への侵犯を即刻中止し、実質的な日本の実効支配を認めること。現状の変更を行うが如き行動を中止すること。これが日中新時代の最低限の条件だ。


(3)中国の軍事大国路線の是正
 世界覇権を目論むが如き中国の軍拡路線は周辺国に強い警戒感を齎しているので、自国防衛に限定された軍事力のレベルにする必要があろう。
 中国軍が現状のままで、日本のみが日中新時代即ち緊張緩和の到来として安全保障政策を今直ちに変更する必要はない。一夜にして意図は変わり得る。見極めるべきだ。


(4)普遍的な国際ルールの遵守を要求
 中国は中国的なルールをグローバルスタンダードにすべく努力している。欧米諸国は、中国に対する関与政策によって彼等を変え得るのではと考えていたが、それは幻想であると認識し始めた。
 中国が、米国に次ぐ大国であるならば、現在のグローバルスタンダードや理念等を遵守すべきだ。このことを中国に理解させねばならぬ。チャイナスタンダードが何れグローバルスタンダードになる日が来るのかも知れぬが、少なくとも力づくでそれを押し付けてはならないことを理解させる必要がある。
 特に自由と法の支配という現代国際社会の根源的な理念をしっかり認識させる努力が必要だ。チベットや新疆ウイグル問題は中国の内政問題ではない。国際的な理念に違反する行為なのだ。内政干渉と反発させぬような巧いやり方で、日本は云うべきことは云うべきだ。


(5)幻想を抱くことなく、粛々と対応
 中国が変わり、日中が真に友好関係になり得るような努力は必要だが、甘い幻想を抱き過ぎではないだろうか?
 中国の期待が裏切られ、或いは他の要因があれば、中国政府は直ぐに政策変更を行う。国民をけしかけ、反日ムードを煽る。ある日突然に豹変する可能性無きにしも非ずの国だとの認識を堅持して慎重に対応すべきだ。
 一夜にして反日デモが吹きあれ、不買運動が起き、レアメタルを止められ、観光客の渡航が制限される、日本人が謂われなき理由で拘束される、そういう国なのだということをしっかり弁えておくべきなのだ。
 ある日、微笑が強面と化し、困惑する日本と云う姿が招来するかも知れぬ。そんな姿は見たくない。のめりこみ過ぎぬことが肝要だ。中文同盟かと騒がれた中韓関係の現状は果たしてどうか?彼等は、袖にされて泣いて(?)いる。
 所謂カントリーリスク=チャイナリスクを認識した対応をすべきだ。最悪の事態も考慮しておくべきなのだ。特に企業においては。
 真に友好的な関係を築くには、相応の努力と時間が必要だ。日本の警戒感を除くには中国側の多大なる努力が必要である。


(6)是々非々の対応
 日中韓には問題が山積している。日中の国益が時には衝突することは在り得る。その際には是々非々の対応をすべきで、要求すべきは要求し、大局的に譲歩できるのであれば譲歩すればよい。


(7)日中新時代に対する中国国民の反感抑止
 中国が国策として行ってきた「反日教育、愛国無罪論」に洗脳された国民の反感がどのようになるのかが気になるところだ。
 ネット上では政府批判が起きてるようだが…
 中国国民は既に政府がコントロールできるレベルを超えているのかも知れぬ。中国は、自ら育てた悪魔に悩む日々が来るやも知れぬ。


(8)中国に対するODAの事実公表・周知を!
 恩着せがましく言う積りはないが、中国国民は、3.6兆円もの協力をしたこと知っているのか、甚だ疑問だ。日本側でも同様だ。事実として周知すべきであり、日本にはそれを要求する権利があると思うが、どうだろうか?


(9)日米豪印の連携維持こそ肝要
 中国の変化を確実なものにするためには、引き続き日米豪印の密接な連携が重要である。中国に対する敵対的なものではない。保険であり、中国変化の促進的役割を果たすのが日米豪印の密接な関係だ。
 本日(28日)インドのモディ首相が来日して安倍首相の別荘で夕食会とのことで、インドとの信頼関係構築に益するだろう。

4 終りに
 朝野を挙げて、日中新時代の到来と浮かれている時に水を差すようで、心苦しいが、矢張り云うべきことは言っておかねばならない。今迄の来し方を見れば、日本が安易に警戒心を解いてはならないのである。中国は強かである。日本も強かに、賢くならなければならない。
 新時代を構築するための努力をする一方で、強か・賢明なる途を模索すべきなのだと考える。
 本項に述べた事項の全てを中国が呑むとは思えぬが、日本は飽くまでも、要求すべきだ。

(了)