北東アジア情勢の激変に備えよ!

平成31年2月11日
山下 輝男

1 始めに

 韓国の文在寅政権は、反日政策のみならず、北朝鮮との一体化を推進しつつ、朝鮮半島自体を日米陣営と対峙する態勢へと転換させようとしているのではないかと思える。それは、日米韓の分断を策し、朝鮮半島を自国の影響下に置きたいとの中国の思惑とも見事に合致する。
 そうならないように日米は努力すべきではあるが、その流れを堰き止めるのは困難だろう。そうなれば、大東亜戦争後日本が享受してきた安保上の利益は喪失し、日本は厳しい情勢に直面せざるを得なくなるだろう。
 本稿は、そのような危機感を述べたものである。





2 極東アジア情勢激変の予感

(1)日本と朝鮮半島
 支那大陸の辺縁に位置する日本列島にとって、朝鮮半島は脇腹に突き付けられた短刀である。日本は、良きにつけ悪しきにつけ、朝鮮半島の強い影響下にあった。日本の安全保障・防衛上、脅威は常に朝鮮半島経由であり、それが現実となったのが所謂元寇(文永の役1274年、弘安の役1281年)である。
 日清・日露戦争も畢竟朝鮮半島を巡るバランス・オブ・パワー、安全保障に起因する。大東亜戦争も、その根底には半島又は大陸に緩衝地帯を設けることにより、より万全の態勢を採らねばならないという強迫観念があったとも考えられる。
 我が国の戦後における安全保障は、38度線を日本防衛の最前線と位置付けて構築されたものであるとも云える。
 四面環海の日本は、それだけで百万の軍隊を擁しているのと同じであると評価されてきた。それでもなお、朝鮮半島は日本にとっての脅威の来る道であることに変わりはない。
 このように、地政学的に、朝鮮半島は、日本にとって正に死命を制する要地である。

(2)朝鮮半島情勢の流動化
 2017年5月、文在寅政権が発足して以来、それ以前の政権時代以上に日韓関係が混迷を深めている。表1に示すような事案が続々と起きている。所謂徴用工判決、韓国駆逐艦の海自哨戒機への射撃管制レーダー照射等々の事案は、韓国側の依怙地・頑なな態度もあって、解決の糸口を見つけられない状況に陥っている。日韓関係は、最早着陸点を見つけられないばかりか益々険悪化しつつある。
 日本政府は、韓国に対してはその都度抗議はするものの、冷静に否どちらかと云うと“戦略的放置”に等しい対応を採ってきた。然し、韓国側に改善の意欲は見られないばかりか益々居丈高になりつつあり、日本も堪忍袋の緒が切れかかっているやに見える。日本国民の嫌韓感情は戦後最悪だ。

   表1 最近の日韓関係
   2012・8・10  李明博大統領竹島上陸
   2012・8・14  李大統領天皇陛下謝罪要求
   2017・5・10  文在寅大統領就任
   2018・10    旭日旗掲揚問題 
   2018・10・22 韓国国会議員団竹島上陸
   2018・10・30 韓国大法院の所謂徴用工判決 
   2018・11・20 韓国海洋警察庁警備艇暫定水域内での退去命令
   2018・11・21 慰安婦財団の解散 
   2018・12・20 韓国駆逐艦による哨戒機へのFCレーダー照射
   2019・1・15  韓国国防白書、日本に関する表現修正変更等

 文在寅政権は、北朝鮮との関係改善を最大の外交課題として首脳会談やその他の協力関係を強力に進めようとしている。両首脳による共同宣言からは、南北の連邦制または統一国家を狙いに急速な関係改善を目指しているのが、見え隠れする。
 あろうことか、国連決議に違反する所業まで行って北を助けようとしているとも云われる。敵であった者同士の一体化が深まりつつある。それが、北にシンパシーを感じる左翼政治家である文在寅大統領の念願であり、朝鮮半島を中国の影響下に置きたいという中国の狙いにも合致している。

   表2 南北朝鮮関係
   2018・4・27 #1文在寅・金正恩首脳会談(板門店宣言)
   2018・9・20 #2平壌南北首脳会談 (平壌共同宣言、軍事合意書)

 更には、文在寅政権は、傾中・離米政策に舵を切ったように思える。反日のバランスをとるために中国に傾斜し、過激な表現をすれば、朝貢国家となりつつある。中国の威嚇に屈し、宗主国の顔色を窺い一喜一憂している。米国の在韓米軍の駐留経費負担要求(2月10日の報道によれば、8.2%増、期限1年で米韓が合意したという。が、米は満足ではないようだが・・)にも抵抗しており。THHADの配備や韓国への観光客の渡航制限、韓国企業への恫喝等々の嫌がらせにも耐え、米国とは距離を取りつつあるように見える。軋みが増え始めている。
 韓国は、日米との貿易よりも対中貿易にシフトしている。中国と自由貿易協定(FTA)を締結して、更に協力関係を強めつつある。

 米トランプ大統領は、2月6日の一般教書演説で、韓国については触れなかった。一方、米政府高官が、米韓同盟に揺らぎはない、在韓米軍の撤退は検討していないと云わざるを得ないほどに揺らぎつつある。
 在韓米軍の撤退は、今日・明日にはないとしても、文在寅政権の任期残り3年余りの内にはタイム・テーブルに乗るのではないかと懸念している。現実主義者たる米国防長官が存在しているならば、日韓準同盟の維持は勿論米韓同盟が揺らぐことはなかったかもしれないが、米中、米朝に関心をシフトさせている米国には、日韓和解の労を採る気もないようだ。
 朝鮮半島がピンク色に染まりつつある。それはとりもなおさず、日本の安全保障環境を一変させるものである。即ち、防波堤もなく直接大陸勢力に向き合うことを意味する。

 参考資料 我が国周辺における主な兵力の状況(防衛白書H30 49p)


(3)米中覇権争奪戦の帰趨
 米国は明らかに対中抑止政策に踏み切った。それは、2018年10月4日のペンス副大統領の演説からも明白だ。(参照 JPSN&戦略検討フォーラム拙論「シャープパワーに屈するな」(http://www.jpsn.org/opinion/word/12462/
 副大統領は、経済に限らず安全保障分野でも中国に断固として立ち向かうと宣言したのであり、事実、米国はその方向に動き始めている。
 新冷戦が北東アジアで始まった。朝鮮半島流動化と同じく、北東アジアの安全保障環境を抜本的に変えるファクターである。
 今一つ不分明なのが、米朝首脳会談で何が合意され、如何なる態勢となるかである。
 トランプ大統領が、不用意・安易な妥協をした場合には、朝鮮半島は文在寅・金正恩のそして習近平がほくそ笑むだろう。今月末にベトナムのハノイで開催される米朝首脳会談を注視したい。



3 日本の戦略方向

(1)対韓戦略について
 韓国に対する当面の対応は、韓国の無道振りを国際社会に訴えかけて、理解を得ることだ。個々の事案についても、毅然として、仲裁裁判や司法裁判所への提訴などを行えばよい。韓国の言動に顰蹙を覚える国も増えつつある。
 とは云え、朝鮮半島がピンク色化するのを拱手傍観すれば良いというものでもない。
 突き放すのは簡単だが、それは賢明ではない。朝鮮半島からの脅威を真面目に捉えねばならないとなれば、安保政策を抜本的に変える必要があるが、日本は、経済・財政的、心理的にそれに耐えうるのか、疑問である。
 日本にとっての最悪な安全保障環境を回避するために、韓国を日米韓陣営に引き留めるための努力はすべきだろう。
 離米の方向性にあるとは言え、韓国の安全保障が当分米国に依存せざるを得ない状況は変わらないだろう。韓国が完全にあちら陣営に与する前に米国からの説得が効果的だと考える。また、価値観を共有する西側諸国の関与も有効だ。日本憎しのみでは国家百年の大計を誤ることを知らしめることが肝要だ。韓国は正にそのような岐路に立っている。良識ある韓国人人は理解している筈だと信じたい。彼等に対して、日本側からも相応の働き掛かけをすべきだろう。

(2)日米豪印の同盟化・その強化とASEANN連携強化
 統一された朝鮮半島政権と我が国が直接対峙する情勢は、明治期以降を想起させる。これに対抗するためには、自らの努力と共に、価値観や国益を共有する諸国との同盟を強化することが肝要だ。
 我が国は、日米同盟を基軸として、日豪及び日印との戦略的関係強化を目指しているが、その方向性は正しく、今後ともそれを強力に進めるべきだ。
 更には、中国が進出しつつある南シナ海における一方的な覇権を抑止するために、ASEAN諸国への更なる協力推進、連携強化を進めなければならない。
 (参照JPSN&戦略検討フォーラム 拙論「ASEAN綱引き激化と我が国の対応」
http://www.jpsn.org/opinion/word/12462/

(3)日本の安保政策の見直し
 政府は、2018年2月18日の閣議で、新たな防衛計画の大綱(30大綱)と中期防衛力整備計画を決定した。
   新大綱のポイントは
  ① 中国の軍事動向や軍事力の不透明性を強く懸念。国際社会のパワーバランスの変化が加速、複雑に
  ② 新たな基本概念は、「多次元統合防衛力」
  ③ 宇宙、サイバー、電子戦など新たな領域を強化
  ④ 護衛艦「いずも」を改修し、事実上の空母を導入
  ⑤ 陸海空に宇宙、サイバーなどの新領域を加え、「領域横断(クロス・ドメイン)作戦」を展開
  ⑥ 自衛官の定年引き上げなどで人的基盤を強化
   新中期のポイントは
  ① 宇宙領域の専門部隊を編成
  ② サイバー防衛部隊と海上輸送部隊を、陸海空にまたがる「共同部隊」として編成
  ③ 最新鋭ステルス戦闘機「F35」の追加取得
  ④ 「STOVL機(短距離離陸垂直着陸機)」の導入
  ⑤ 陸上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入
  ⑥ 離れた距離から敵を攻撃する「スタンド・オフ火力」の整備
  ⑦ 北海道と九州以外の部隊で戦車を廃止
  ⑧ 2019~23年度の予算総額を過去最大の27兆4700億円とし、25兆5000億円規模 
   (以上 日経電子版2018/12/18等から転載)

 考え方は解るし、厳しい財政状況であることも認識しているが、明日の脅威に間に合うのかと危惧する。朝鮮半島の情勢激変に備えるには更に大綱計画事項のスピードアップを図ると共に、継戦能力の向上が肝要だ。これらの為には、更なる防衛費の増額が必須である。



4 終りに
 日本にとっては、朝鮮半島に敵対的統一勢力が誕生することは正に悪夢である。然しながら、危機管理が、“最悪に備える”ことであるならば、考えたくない事態をしっかりと見据えて所要の態勢整備を行うべきだ。
 南西と北を重視しておればよかったが、これからな更に西をも重視しなければならない。ミサイル防衛やゲリ・コマだけではない脅威も見積もって防衛戦略を策定する必要がある。

(了)