決断すべきだ!

平成31年2月28日
山下 輝男

1 始めに
 戦後74年が過ぎ、日ソ共同宣言からも60年近い歳月が流れた。日露(ソ)の北方領交渉は紆余曲折を繰り返しながらも、未だに燭光すら見えない。時には協力機運が満ち、時には反発が起き遠ざかるという繰り返しだ。この間、ロシアによる実効支配は益々盤石になりつつあり、反対運動も盛り上がりつつある。要人の訪問など日本の想いを逆なでするようなことを平気でする。
 一方、かって北方領土から追い出された元島民も望郷の念を抱きつつも年老いて行きつつある。残された時間は少ない。
 日露双方には、安倍首相、プーチン大統領というリーダーシップのある指導者が、お互いの信頼関係を構築しつつ、交渉を進展させたいと模索している。
 北方領土問題を瞥見し、論点を明らかにし、現実的な解決策を模索してみたい。






2 北方領土問題双方の主張
(1)日本(内閣府資料等)
① 北方領土は歴史的にみて日本固有の領土(外国人定住なく、支配下にもない、日本人による開拓)


② 日魯和親条約(下田条約、1855年(安政元年))により、日露国境を択捉島と得撫(ウルップ)島の間に設定
 (締結日2月7日を北方領土の日に1981年1月閣議決定)

③ 日露国境の再編・画定をした「樺太・千島交換条約(1875年明治8年)では、樺太の一部をロシアに譲り、得撫(ウルップ)島から占守(シュムシュ)島に至る18の島々(千島列島)の領土を得た。

④ 第二次大戦の戦後処理方針は領土不拡大(度々の宣言あり)であり、ポッダム宣言でもこの原則を継承しており、北方領土の放棄を求められる筋合いはない。

⑤ サン・フランシスコ平和条約で、日本は千島列島の領土権を放棄しているが、④ でも明確なように放棄した千島列島に北方領土は含まれていない。米国政府も公式に認めている。

⑥ ヤルタ協定は、米英ソ三国間の秘密協定であり、日本が拘束される謂われなく、また同協定が領土移転の法的効果を持つものではないことは当事国の米国も認めている。



(2)ロシアの主張
 所謂北方領土は、第二次世界大戦の結果、戦勝国であるソ連が獲得したものである。
① 1945年2月署名のヤルタ(秘密)協定で、樺太南部をソ連に返還、千島列島はソ連に引渡すことで合意されている。日本はポッダム宣言を受け入れている。
② 日本の降伏文書調印は、1945年9月2日であり、これ以前はソ連との戦争状態は継続しており、調印日以前の占領は合法
③ サン・フランシスコ条約では、日本はクリル列島を放棄しており、このクリル列島には、択捉、国後島は勿論、色丹島、歯舞諸島の小クリル列島も含まれる。
④ 北方領土問題非存在論も時折唱えられ、日ソ共同宣言を疑問視する向きもある。



3 日ソ(露)交渉史

① 1956年(昭和31)10月 日ソ共同宣言
 鳩山一郎首相とブルガーニン首相、於モスクワ
 平和条約締結後に歯舞諸島及び色丹島を引き渡すと明記
 ダレスの恫喝(日本が二島返還を受諾した場合、米は沖縄を返還せずと圧力)があった?

② 1960年~70年代 日ソ交渉の停滞
 日米安保条約の改定延長(1960)に反発したソ連は、領土問題は解決済みと主張、日本は二島のみならず四島返還を求める姿勢を強めた。
 沖縄返還あり、中ソの関係悪化等もあり、歩み寄りの空気は醸成されたが、ソ連のアフガン侵攻があり、日ソ間協議は停滞した。

③ 1980年代後半~90年代
 ゴルバチョフ書記長の登場によりソ連側の主張転換し、領土問題の存在を認めた。日本も政経不可分の原則を軟化させた。書記長と海部首相会談の共同声明で北方四島が領土問題の対象と認めた。
 ソ連崩壊(1993)、後継国家ロシアのエリツィン大統領来日し、細川首相と「東京宣言」に署名。

④ 1990年代後半
 橋本首相とエリツィン大統領の努力により「クラスノヤルスク合意」があり、1998年4月には川奈で両者は会談し、橋本首相は新たな策を提案、「川奈提案」である。
 ロシアは提案を拒否し、当事者二人とも国内事情により辞任し、頓挫した。

⑤ 2000年代
 森首相とプーチン大統領会談の「イルクーツク声明」を発表
 日ソ共同宣言を基本的な法的文書と認定、四島の帰属に関する問題を解決することにより平和条約締結、完全正常化を期す。日本側は「同時並行協議方式」を提案したが、日本国内で反対論が強まり、頓挫。

⑥ 2013年以降
 安倍首相とプーチン大統領の首脳会談で、平和条約と領土問題の交渉再開の機運が高まった。
 2010年以降、ロシア要人の北方領土訪問、軍事面での強化、各種インフラ整備の推進等実効支配の強化策等相次いでいる。
 2016年12月 安倍首相と大統領は北方領土での共同経済活動に向けた協議開始合意

⑦ 2019年
 1月には、通算25回目になる日露首脳会談、6月にはG20首脳会談にあわせ、平和条約の締結で大枠合意を目指している。
 そういう中、日露外相会談で、国連憲章の敵国条項を持ち出し、ロシアの北方領土主権を認めるよう要求する等、実務レベルでの強硬な主張が増している。日米同盟についても障害だと牽制をしている。北方領土返還反対の運動もロシア国内で盛り上がっている。

⑧ 総括
 双方の政治情勢を反映して、北方領土問題解決の機運が高まってきたかと思えば、双方の主張の溝が埋まらず、停滞・頓挫し、また交渉再開に合意するという紆余曲折を繰り返してきた。双方とも、国内の賛意を得られるかどうかを重視しつつ、重層的アプローチ、首脳間の信頼関係の構築、共同活動の進展等により解決の道を模索している。



4 解決策

 下記に列挙するような様々な解決策が検討され、主張されてきた。詳細は割愛する。
(1)四島返還論  日本政府の公式見解
(2)二島譲渡論  日ソ共同宣言に基づき、二島を引き渡す、返還ではなく善意に基づく
          譲渡に該当
(3)二島先行(段階的)返還
(4)三島返還論  国後は日本、択捉をロシアとする概ね「フィフティフィフティ案」
(5)共同統治論
(6)面積二等分論
(7)千島列島全島返還論
(8)日本の全面放棄論

 ロシア側からも北方領土返還すべきとの論も出ている。ヨーロッパ議会は、北方領土は日本に返還されるべき
との提言(2005/7/7)




5 主たる論点

(1)領土問題は、国際法上解決済み(従って領土問題は非存在)とロシア側は主張
 北方領土の領有権を日本は放棄していると見做している。
 日本は、ソ連の領有は不法であり、領有権は日本に在り。

(2)日本の降伏時点は?
 ソ連は、日ソ中立条約を破って参戦、日本ポッダム宣言受諾後に北方領土に侵攻、降伏条約締結後の8月31日までに得撫島まで占領。8月28日に択捉島に上陸、9月1日には国後島及び色丹島に達し、9月3日には歯舞諸島にまで及び9月5日までにことごとく占領した。9月2日に日本は東京湾上の戦艦ミズーリでソ連代表も参加して降伏文書の調印式が行われた。8月15日から9月2日までの空白の半月をどう見るか?ソ連にしてみれば、国後・択捉は戦争によって獲得したものの、歯舞諸島と色丹島は戦争後に占拠したものであり、国際法上日本に返還せざるを得ないとの認識があるものと推測される。
 不法な対日参戦であり、泥棒猫みたいな真似で得たものは不法であるは当然。況して、日本降伏後の戦闘行動は国際法上問題だと信じるのだが・・


(3)日本がサン・フランシスコ平和条約で放棄した千島列島の範囲は?
 1950年の政府答弁で、歯舞、色丹は千島に含まずと答弁し、択捉島と国後島は放棄した千島列島に含まれるとの誤解を与えてしまった。現在は択捉、国後も日本固有の領土と主張している。





6 現実的な解決策はないのか?

(1)現実的な解決策の為に考慮すべき事項等
ア 日露双方共にお互いにお互いが信じる正義や原理・原則をぶつけ合うことで問題が解決するのかを考えるべきだ。領土問題で、主権そのものにかかわる問題で安易に妥協すべきではないのは当然だが、原理・原則を振りかざすだけでは永遠に解決されない。

イ ロシアの安全保障上の懸念にも配慮する必要がある。聖域化されたオホーツク海の入口を扼する北方領土はロシアにとっての緊要地形である。INF全廃条約の破棄が取り沙汰されている状況では、更に北方領土の安全保障上の価値が高くなる。

ウ 日露双方がウィンウインとなるような方策を案出することが重要だ。それは経済的メリットであるかも知れないし、安全保障上のメリットかも知れない。或いは将来的には自らの正義が実現される余地が残されていることかも知れない。

エ 双方の国民或いは北方領土に住んでいた者、現に住んでいる者にも十分に配慮すべきこと。

オ 双方の面子が立つこと。All or Nothing は有り得ないと認識すべきだろう。

カ 軍事占領された土地が平和裏に返還された事例はきわめて稀である。沖縄等はその稀有な例である。抑々、軍事占領された土地は軍事力により奪回するのが本来であるが、日本にはその意思も能力もない。勿論、そのような行動は国際法上疑義が呈されるだろうが。


(2)ロシアにとっての北方領土返還のメリットは何だろうか?現に実効支配しており、かってほど日本の経済力に期待している状況でもないようだ。クリミヤ等に波及することも考えれば、ロシアにとってのメリットは極めて少ないと云わざるを得ない。

(3)日本側に、甘い期待があるのは事実だ。その期待が大きすぎる。厳しい現実を国民にもっと知らしめるべきだ。

(4)ロシアの負い目は、降伏条約調印後に軍事占領したという負い目の在る二島の引渡を約束していることだ。

(5)日本は、北方領土の他に、韓国との間に竹島、中国や台湾との間に尖閣諸島という難問を抱えている。その内の一つでも解決ができるのであれば、それは望ましいことではあろう。北方領土解決が他の二つの解決に悪影響を及ぼさないように十分に留意する必要がある。



7 考え得る解決策

 上述の考察を考慮すれば、「二島返還+アルファ(α)」となろう。αとして何を求め、獲得するかが重要だが、将来における交渉の余地が読み取れれば良いのではないだろうか?余りにも弱気に過ぎる、大原則から逸脱していると厳しいお叱りを受けよう。
 それでも、冷厳たる現実を直視すべきだろう。
 厳しい交渉を余儀なくされることを十分に認識して、安倍首相の叡智に期待し、冷静に見守るべきだろう。原則逸脱と批判することは易いが、首相の手を縛ることにならねばよいがと懸念する。日露戦終了後のポーツマス講和条約の締結内容に怒り狂った日比谷焼き討ち事件(1905年9月5日)の再来だけは避けたいものだ。



8 終りに

 日本の正当性を主張するのは容易だが、それを実現するのは厳しい。領土問題を解決するのには、その力を行使するか否かは別として、力を背景とせざるを得ない。
 厳しい外交交渉の経験の少ない日本は、ともすれば情緒に流されやすい。自戒すべきだろう。


(了)