米国防予算案に見る本気度!

平成31年3月
山下 輝男

1 始めに
 米国防総省は、2019年3月12日に2020会計年度(19年10月~20年9月)の国防予算の概要を発表した。これに先立つ11日、トランプ政権は2020会計年度の予算教書を議会に提出した。日米共に厳しい財政事情の中、激変する安全保障環境に鑑み、予算を増額し、新たな作戦領域にも配意した予算要求となっている。
 本稿は、米国防予算の概要等を各メディアが報ずるところからピックアップしたものである。追って、何れかの機関が詳細な内容を紹介すると信ずるが、それまでの間の参考程度として理解して頂ければと考える。

2 予算教書、国防総省の予算要求に見る国防予算の概要
(1)予算教書の意義等
 予算教書は、大統領が予算編成や税制改革の方針を示すものであり、大統領の施政方針である「一般教書」、経済情勢判断を説明する「大統領経済報告」と併せて「三大教書」と呼ばれるものである。税財政の立案・決定権は米連邦議会にあるので、予算教書には強制力はないとされる。


(2)予算全体に占める国防予算は?
・ 20会計年度の歳出全体は、前年度比5%増の4兆7460億ドル
・ 国防費を前年度から5%増額要求
  2019年度:7160億ドル →2020年度:7500億ドル(83.5兆円)
  国防総省の要求額7330億ドルを超える予算を要求したと云われる。
・ 国防費以外では、社会保障給付を除き、5%の削減を求めている。
・ 何かと話題を呼んでいるメキシコ国境の「壁」建設費も要求されている。


(3)国防予算の特色等
ア 「戦略的競争国」と位置付ける中国、ロシアの脅威に対抗する姿勢を明確に打ち出した。それは、米国防総省の声明で、
「(今回の)予算が議会に承認されれば、米国の競争上の優位性は保たれ、中国とロシアによる脅威に勝ることができる」と強調していることからも明らかである。


イ 米行政管理予算局(OMB)の局長代行は、「力による平和を維持するため、将来の紛争の行方を左右する能力や分野への
投資を進める」と説明した。


ウ マルチドメイン(多次元)作戦対応
 伝統的な戦争の形態から脱却し、陸海空に宇宙、サイバー空間の新たな戦闘領域を加えた全ての領域で同時展開する作戦遂行
 会見した国防副長官代行は、「中国とロシアは従来のような戦い方はしない。長期にわたる戦略的競争への準備が始まっている。」と述べ、新しい戦争の形態に備える重要性を強調した。


エ 宇宙分野について
 トランプ大統領が創設を発表した宇宙軍の創設関連予算を含め、前年度比15%増の141億ドルを要求した。


オ サイバー分野
 攻撃的作戦をも遂行できるべく、要求を前年度比10%増の96億ドル


カ ミサイル関連
 前年度比5億ドル減の94億ドルを要求した。但し、19年度は北朝鮮の相次ぐミサイル発射もあって、18年度比20億ドル増であった。
 弾道ミサイル防衛用の「地上発射型ミッドコース段階防衛」(GMD)システムは17億ドルを要求。ミサイルの開発・増強配備は1925年にずれ込むとされる。


キ 研究開発費
 過去70年で最大とされる1043億ドルを要求した。内訳は、以下の通りである。
 ・無人機や自動運転兵器の研究開発費:37億ドル
 ・極超音速(ハイパーソニック M5以上)兵器の研究開発費:26億ドル
 ・指向性エネルギー兵器:2.35億ドル

3 幾つかのコメント
(1)米予算の難問
壁建設費86億ドルを要求しているが、下院は民主党が多数を占めており、予算案が通過する可能性は皆無だと米メディアは報じている。新たな予算案が成立しなければ、再び政府閉鎖も在り得る。現在凍結中の債務上限の効力が復活すれば、債務不履行(デフォルト)のリスクが高まるとされる。
 国防費は財政規律を定めた「予算管理法」の対象であり、同法対象外の戦費を大幅に増やす裏技を使って国防費を確保しているとされ、議会は紛糾するだろうとも云われている。
 20年度の歳出は4兆7640億ドルで、過去最大となる見通し。財政赤字が1兆ドルを上回る状態が継続する。
 この難問をトランプ政権はどう解決するのか注視したい。日本防衛とも密接に関連する。


(2)中露に覇権を譲ることはないとの米国の決意を予算面で具体化したものである。米政権の本気度は確かなものであると
云えよう。
 昨年10月4日のペンス副大統領の、かっての米ソ冷戦の始まりを告げた鉄のカーテン演説に匹敵するような歴史的な演説は中国を意識したものであるが、その根底には中露に対する強い警戒感がある。その警戒感を背景として今次国防予算案が策定されたと云える。


(3)日米防衛(国防)予算の平仄一致
 平成31年度我が国防衛予算の概算要求の考え方と米国防予算の考え方は面白いほどに平仄が合っていると云える。
防衛予算の概算要求の考え方は、「厳しい安全保障環境の中、将来に向けて我が国防衛に万全を期すため、現実に真正面から向き合った防衛体制を構築することとし、防衛力を大幅に強化する。特に、あらゆる事態において国民の命と平和な暮らしを守り抜くため、陸・海・空という従来の領域にとどまらず、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を横断的に活用(クロス・ドメイン)した防衛力の構築が必要。また、日米同盟やインド、豪州といったパートナー国、ASEAN諸国等との防衛協力が我が国及び地域の平和と安定の維持に非常に有効であることを踏まえ、これらを深化・発展させることが可能な防衛力を構築する必要。さらに、防衛力構築には時間を要する。(以下略)」
としている。
 米国もマルチドメイン(多次元)作戦遂行能力、すなわち、従来の陸海空に加えて宇宙やサイバーの戦闘領域を含む全領域での作戦遂行を目指している。
 日米が基本ポリシーにおいて、同一歩調を取る意味は大きい。中露に対抗するには、日米の弱点でもある宇宙やサイバー分野での戦力拡充を期す必要がある。それらをも含めた総合戦闘力のバランスある造成が喫緊の課題である。


(4)厳しい財政事情はあるものの、安全保障環境の厳しさを十二分に理解して、日米双方の防衛予算が早期に成立することを
熱望するものである。


(5)日米のみが、防衛予算増額に努力するのではなく、関係国が足並みを揃えなければならない。特に豪と印には強く求めたい。

(了)