旧軍用墓地の尊厳保持を!

平成31年3月22日
山下 輝男

1 始めに

 第197回臨時国会(平成30年10月24日~同年12月10日)衆議院総務委員会及び参議院厚労委員会、旧軍用墓地に関する質問があり、政府委員から軍用墓地の点検を実施中である旨の答弁があった。
また政府が、平成31年度以降5年間で旧軍用墓地の補修に予算拡充することが明らかとなった。
 予てから、全国の軍用墓地の荒廃が知られ、心ある人々は胸を痛めていた。大東亜戦争の遺骨収集の完遂と共に、内外の慰霊碑や墓地の整備推進は、失われた日本精神の復活・再生の重要なマイル・ストーンである。
 本稿は、旧軍用墓地に関する最近の動きを紹介すると共に、更なる維持意管理態勢の強化の必要性を述べたものである。



(真田山陸軍墓地:ウィキペディアから転載)




2 軍用墓地の概要

 本稿は、佛教大学 原田敬一教授「軍用墓地の戦後史」を参考にしてまとめたものである。 https://archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/BO/0086/BO00860L027.pdf

(1)軍用墓地とは
 大東戦争以前、日本全国には陸軍墓地、海軍埋葬地と呼ばれる官立墓地が設置され、平時の軍人を埋葬する墓地として出発し、その後、戦没者を埋葬する墓地となった。それらの墓地は、師団や鎮守府が維持管理に当たってきた。この、陸軍墓地及び海軍埋葬地を総称して軍用墓地と称する。

(2)軍隊廃止に伴う軍用墓地の取り扱い
 帝国陸・海軍が廃止に伴う措置として、1945年(昭和20)8月28日の閣議で、陸海軍所属の土地・施設等一切の国有財産を、現状のまま総括的に大蔵省に引き継ぐこととされた。然しながら、軍用墓地の維持管理を如何にすべきかについては明示されなかった。
 当初、10月25日付の通達では、陸軍墓地は厚生省に移管、厚生省内の軍事保護院が管理するとされた。その後、紆余曲折があったものの、昭和21年6月29日付の大蔵省から「旧軍用墓地の処理に関する件」が発せられ、軍用墓地の戦後処理が確定した。
 その内容は、『旧軍用墓地は、都道府県又は地元市町村に無償貸付、維持管理祭祀は、地方の実情に応じ都道府県又は当該地方長官の承認を受け市町村、宗教団体、遺族会等において行うものとする。』(要点のみ)となっている。海軍葬儀場も処理対象として含まれている。

(3)軍用墓地の配置等
 当時の資料である「旧陸海軍墓地調」によれば、元陸軍省所管の分として、83ヶ所、旧海軍省所管分として7ヶ所の計90ヶ所が挙げられているが、陸軍省所管分には墓地以外もあり、それを除けば、陸軍墓地は80ヶ所となり、軍用墓地の合計は87ヶ所となる。
 尚、当然のことながら、軍用墓地の維持管理団体は、旧軍用墓地の尊厳を侵さざることとされた。




3 軍用墓地の現状について

(1)財務省、厚労省による点検結果
 財務・厚労省から点検結果の入手ができず、止むを得ず、衆議院議員足立康史氏のコラムを参考にさせて頂いた。ア項からウ項は抽出要約し、エ項の図表は転載したものである。

ア 旧軍用墓地の管理全般
 旧軍用墓地は、旧陸・海軍から大蔵省が引き継ぎ、そのうち約半数(44ヶ所)は財務省が所管し、基本的に地方公共団体に無償貸付している。残りの半数(42ヶ所)は地方公共団体に委譲している。
 無償貸付中の旧軍用墓地については、地方公共団体が管理している。(遺族会が日常の管理を担っている例も多い。(33ヶ所/44ヶ所)

イ 国所管の44ヶ所の工作物の状況等

工作物の種類 用途・目的 設置数等 現況等
納骨堂 戦没者の遺骨安置 17墓地に17施設 7施設の修繕必要(老朽化、台風により損壊等)
慰霊碑 慰霊のための石碑 35墓地に数百基 18基の修繕が必要(台風による倒木で損壊等)
墓石 戦没者個人の墓 32墓地に約1万基 2割弱の墓石修繕必要(経年劣化、著しい損傷により倒壊の危険)



ウ 地方公共団体に委譲した旧軍用墓地42ヶ所の状況
 現在の用途は区々である。
 ・地方公共団体の施設として 合計34ヶ所
  公園:9ヶ所、市営墓地:6ヶ所、小学校:3ヶ所、行政庁舎等:3ヶ所
  資料館:1ヶ所、旧軍用墓地:12ヶ所
  これらの施設のうち、26ヶ所には慰霊碑等が設置されている。
 ・民間施設として 合計8ヶ所
  寺社墓地等:5ヶ所、住宅等:2ヶ所、大学:1ヶ所
  うち5ヶ所には慰霊碑等が設置

エ 全国の旧軍用墓地一覧


(衆議院議員 足立康史氏のコラムから転載
 http://adachiyasushi.jp/column/sanadayama-cemetery/


オ 海軍埋葬地の譲渡状況(原田敬一氏 「軍用墓地の戦後史」から)
 7ヶ所の内5ヶ所は、有償・無償で次のように譲渡された。
白金海軍葬儀場(東京都)→明治学院へ、
函館海軍葬儀場(北海道)→日蓮宗浄風会へ
馬門海軍葬儀場(神奈川県)→横須賀市へ、
佐世保鎮守府埋葬地(長崎県)→佐世保市へ
舞鶴海軍墓地(京都府)→舞鶴市へ
景観は、白金海軍葬儀場が納骨堂形式に変更されたほかはそのまま維持されている。
 流石は、海軍と云うべきか、伝統と文化も継承され、維持管理もしっかり為され、
慰霊等の祭祀も恒常的に行われているようだ。陸軍墓地との差を感じずにはおれない。旧軍に対する想いの差があるのだろう。

カ 各墓地の写真や状況等については、「陸海軍墓地を考える会のHP」に詳しい。
http://nippon-gokoku.sakura.ne.jp/bochi.html


(2)旧軍用墓地の荒廃状況に関する情報等
ア 忘れ去られる陸軍墓地、背景に“戦争の肯定”を避ける気持ちも?朽ちていく墓石の修復に尽力する若き学芸員
  (Abema TIMES https://abematimes.com/posts/5711667)
イ 橋下徹「靖国神社参拝よりも大事なこと」
  (PRESIDENT Online https://president.jp/articles/-/26004)
ウ 産経ニュース 関西の議論 “廃墟化する軍用墓地、英霊を祭る「歴史遺産」として残せるか・・遺族高齢化で分岐点
  (https://www.sankei.com/west/news/161224/wst1612240002-n1.html)
エ 碑の7割にヒビ、荒れる陸軍墓地 補修は押し付け合いに
  (朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/ASL9P440SL9PPTIL014.html)
オ ひび、倒壊・・荒廃の旧陸軍墓地 大阪市長、国に改修要望へ
  (産経新聞 https://www.sankei.com/west/news/181027/wst1810270020-n1.html)
  その他あると思われるが、割愛する。




4 新しい動き(トピックス)

(1)大阪市 国に管理要望へ (毎日新聞)
 大阪市長は2018年11月8日、首相官邸で菅義偉官房長官と面会し、国内最古で最
大とされる旧日本軍の「真田山旧陸軍墓地」(同市天王寺区)を国が維持管理するよう要望した。
 https://mainichi.jp/articles/20181109/ddn/012/010/055000c(残念ながら有料記事)
 https://mainichi.jp/articles/20181029/k00/00e/040/265000c

(2)旧軍用墓地の維持管理に尽力した組織に対する厚労大臣表彰
 2018年12月12日平成30年度厚労大臣表彰が挙行され、真田山旧陸軍墓地
(明治4年 日本最初の陸軍墓地 大阪市)の維持管理を行っている「公財 真田山陸
軍墓地維持会」(理事長 吉川秀隆タカラベルモント社長)が受賞した。

(3)政府、旧軍用墓地補修へ予算拡充
 1月5日付の産経新聞によれば、「政府は全国の旧軍用墓地について納骨堂や墓石などを補修するための予算を拡充する。これまで年間約300万円程度だったが、今後5年で5億円程度を確保し、一部を平成31年度予算案に計上した。旧軍用墓地は老朽化が進み、自然災害で損傷するなど、管理や継承が問題になっており、国が責任を持って対応する姿勢を打ち出す。民間団体の建立した慰霊碑を自治体が移設・撤去する際の国の補助も要件を緩和する。」と云う。
 https://special.sankei.com/f/politics/article/20190105/0005.html




5 尊厳の維持と敬意を!

(1)国民慰霊の地として
 旧軍用墓地を単に歴史的遺産と位置付けるのではなく、先人が国難に敢然として立ち向かい、図らずも斃れたその事績を偲び、御霊をお慰めする慰霊の場と位置付けるべきであろう。戦陣に斃れた戦没者に対し、心静かに、感謝と崇敬の念を捧げ、我が国の平和を祈念する場とするのが望ましい。誤解無いように願いたいのだが、国民慰霊の場は戦争賛美とは全く異なる概念であるということだ。
 今日の日本の平和と繁栄、そして世界からの尊敬と信頼が得られるのは、国難に敢然と殉じた先人の烈々たる愛国心と勇戦敢闘があったからである。戦陣に斃れた多くの戦没者に対して、国民が斉しく尊崇の念を捧げるべきだと思料する。それは、ご遺族であると否とに関係ない。
 全国各地に所在する旧軍用墓地は、その歴史性、広域所在性から、国民慰霊の地、日本再確認の地とするに相応しい。可能な限り、多くの人々、地域の方々の随時の参拝が望まれる。特に子供達が、この地において何かを感得して貰えるのであれば素晴らしいことだ。

(2)維持管理態勢の確立と拡充等
 旧軍用墓地の多くが荒廃した原因は、その維持管理が戦後のどさくさもあり、不明確であったことに加え、管理を担ってきた遺族会の高齢化等もあって維持管理が難しかったことによる。
 維持管理については、国所管とそうでないケースに分けて考えるべきだろう。そして、所有者、借受者、移譲受者、遺族会等の関係者のそれぞれの責任や役割を明確にしなければならない。
 国所管の墓地については、所有者として国は維持管理に係る責任を持ち、主として方針・指針策定と予算措置を行い、無償貸付を受けている地方自治体は管理責任を持ち、その日々の管理は遺族会、NPO法人、奉仕団体に委託する案がベターであろう。祭祀については、政教分離に抵触しない範囲で管理責任者も関わるべきだろう。何れにしても、平成31年度から補修等の予算措置が拡充されるのは喜ばしいことである。仔細に検討してみなければ解らないが、5年5億円では心許ないと思われる。
 地方公共団体等に委譲した墓地42ヶ所については、その維持管理は、夫々の所有者の責任ではあるが、国としては、戦没者の墓地である(あった)ことに鑑み、相応の維持管理を果たすべく指導する必要があろう。最も、そのように為されていると思いたいが・・

(3)慰霊碑のない墓地への慰霊碑の建立等
 地方公共団体等に委譲した墓地の用途は様々であるが、その中には、慰霊碑のないものもある。財務・厚労省の点検結果によれば、42ケ所中8ヶ所には慰霊碑が建立されていない。残念だ。その地が墓地と全く関係ない用途として利用されているものであっても、その地に軍用墓地があり、数多の戦没者を祀られ、祭祀が行われてきた事実を後世に明確に残すべきだろう。

(4)新しい動きの更なる加速を!
 最近、旧軍用墓地の点検が行われ、維持管理についても予算措置が拡充され、管理態勢にも改革の動きがある。
 この動きを更に加速させることが必要だ。その為には、旧軍用墓地に関する現状認識を深め、重要性を銘肝することだ。




6 終りに

 5(4)項でも述べたが、今まで忘れ去られた感のある旧軍用墓地に係るニュースが相次ぎ、維持管理等が見直されつつあり、日本の戦後清算の重要な一歩であると考える。
 最終的には、我が国としてあるべき歴史認識が確立されてこそ、日本の再生である。
 その為の重要なステップたる旧軍用墓地の管理の再確立を更に進めるべきだ。


(了)