緊張高まる台湾海峡(第四次台湾海峡危機か)!

平成31年4月14日
山下 輝男

1 始めに

 今年2019年は、カーター大統領が1979年4月10日に署名発効した台湾関係法が制定されてから40年という節目である。また、独立を志向すると云われる民進党の蔡英文政権が発足してから丸二年が経過した。
 最近、中台関係の緊張感が増しつつあるようだ。我々は、南シナ海や東シナ海にばかり目を向けがちだが、最近の中台関係にはきな臭さが付きまとっている。第4次の台湾海峡の危機が迫りつつあるやに思える。
 本稿では、中台関係の現状等を管見し、起こりうる不測事態を考察し、我が国の対応を検討することとする。



2 「台湾海峡危機」及び「台湾関係法」

(1)台湾海峡危機
 中台間の軍事的緊張が、第二次大戦後何度か高まった。中国側が仕掛けたものである。他に台湾側による大陸反攻計画(国光計画)があったが、米国の反対で日の目を見ることはなかった。

ア 第一次台湾海峡危機(1954~1955年)
 国民党が維持していた浙江省沿岸の島嶼に対して中共軍が攻撃して占拠した。
イ 第二次台湾海峡危機(1958年)
 8月、中共軍は台湾の金門守備隊に大砲撃を開始した。台湾側は空中戦を仕掛けそれに勝利した。米国の支援を受けた台湾は反撃の砲撃を開始した。中国による金門の海上封鎖は失敗した。
ウ 第三次台湾海峡危機(1995~1996年)
 台湾総統選挙で、李登輝優勢の観測が流れ、中国軍は選挙への恫喝として軍事演習を強行し、ミサイル発射等の威嚇を行った。これに対して、米国は直ちにミニッツ及びインディペンデンスの二個空母群を派遣したので、中国が惧れをなしたので終息した。中国は空母の実力と柔軟性に恐れをなしたと言われる。



(2)台湾関係法
 対台湾関係を律するアメリカの法律である。
 1979年1月のアメリカと台湾の国民党政府との外交関係断絶,米華相互防衛条約の廃棄及び米中国交樹立を背景に、米議会が台湾に最大限の保護を約束し最大限の待遇を与えると同時に,台湾問題に対する影響力を維持する目的で 79年4月に制定された。
 同法では断交後の台湾関係維持のための関係機構や人員の地位・権限を規定すると同時に (1) 北京との外交関係樹立は台湾の将来が平和的手段で決定されるとの期待に基づく (2) 台湾の将来を非平和的手段により決定しようとする試みは西太平洋地域に対する脅威とみなす (3) 台湾に防衛的性格の武器を供給する (4) アメリカは台湾の人々の安全や経済体制を危険に晒す如何なる武力行使または他の形による強制にも抵抗する能力を維持する (5) 台湾のすべての人々の人権の保護および増進は,これによりアメリカの目的として再確認されること等の規定が盛込まれた。
 中国側は同法を中国の内政と主権に対する干渉と反発している。
 米国は、本法に基づき台湾に武器売却を行い、それが屡(しばしば)米中間の外交問題と化した。

(写真は何れもウィキペディアから)



3 最近の中台関係概観等

(1)直近における中国の特異行動
ア 最新鋭機の中台の中間線突破
 3月31日 中国の最新鋭戦闘機「殲11」2機が台湾海峡の中台中間線(事実上の停戦ラインとして機能、デービスラインとも呼ばれる。)を越えて台湾側に侵入(進入時間は約10分間)した。この越境は意図的と目され、明白な挑発だと考えられる。
 中国筋の別の見方は、台湾海峡通過を繰り返す米軍に対する牽制であるという。
 確かに、3月24日、米駆逐艦等が台湾海峡を通過しているが、3ヵ月連続である。
 米軍に対する牽制であるか或いは台湾に対する挑発であるかを議論することはあまり意味が無い。中国の狙いは複合的とみるべきだろう。

イ 中国、台湾野党国民党の首長(高雄市長)に異例の厚遇
 3月下旬訪中中の高雄市長(来年の台湾総統選における野党国民党の有力候補の一人)を政府の対台湾政策部門のトップが面会、破格の契約を交わした。蔡英文氏を交渉相手と見做さず、政権の頭越しの行動である。野党国民党や世論を取り込む分断策だ。


(2)中国の対台湾政策・戦略
 中国の対外政策の最優先課題は、台湾の解放であり、次いで周辺域(チベット等)の併呑と考えられる。習近平政権は、台湾を中国の核心的利益と位置付け、為し得れば平和的(武力を行使せずに)に、已むを得ざれば軍事力を行使してでも取り戻したいと願っている。
 中国要人は、事ある毎に台湾問題に言及している。本年(2019)1月4日、習近平国家主席は中央軍事委員会で、人民解放軍に対し軍事闘争への準備を命じた。これに先立つ、2日にも台湾政策に関する演説を行い、台湾は中国の一部であると断言し、中台統一を呼びかける一方、中国には台湾を支配下に置くための武力行使の権利を有るとの立場を示した。武力統一を考慮したとも考えられる部隊配備の変更等も行われている。

(3)中国の台湾圧力概観
 中国は、あらゆる手段を駆使して、台湾を平和裏に支配下に置こうとしており、そのために様々な戦術を駆使している。その状況を管見したい。
 中国による台湾への圧力については、「台湾での政権交代後の中台関係」(京都女子大学松本充豊教授)に概括的にまとめられているので、それを主たる参考にして、纏めてみると以下の通りである
 https://www.koryu.or.jp/Portals/0/images/publications/magazine/2018/1/chutai.pdf シャープパワーを駆使する中国らしいと言えよう。

ア 経済的圧力
中国人訪台客の急激な落ち込み、中国人留学生の減少、農産品や水産品の買い付け停止等
イ 軍事的圧力
空母遼寧の台湾海峡航行、軍用機による台湾周辺での度重なる飛行訓練の実施等
中国軍の戦闘機や艦艇が常態的に台湾本島を周回し、台湾に対して軍事力を顕示している。
ウ 政治的圧力
台湾NGO活動家の逮捕
エ 外交関係の圧力
蔡政権の2年間に中米パナマなど3ヶ国の切り崩しに成功、台湾の外交関係国(友好国)数は19ヶ国まで減った。バチカンやパラオをも虎視眈々と狙っている。
実質的な関係維持国にも食指を伸ばしている。ナイジェリアやフィジー等
カ 国際機関への参加妨害
WHOの年次総会へのオブザーバー参加拒否、その他の国際会議等での締め出し
「一つの中国」原則の尊重を強要している。
キ 台湾企業を重視
台湾企業による投資の積極的誘致、
ク 台湾企業への支援策の拡大
台湾企業の一帯一路への参加奨励策、電子商取引への参入促進、展示即売会や商談会の開催
ケ 台湾の若者の就学、就業や起業への支援策の拡大


(4)台湾の反応・対応等
 蔡英文政権は、中国の前述(1)項のような特異行動にはその都度、激しく非難している。
 蔡総統は、米国で開かれたCSIS等主催の討論会にネット参加し、中国批判の上、武器売却で米国に一層の協力を求め、更なる関係強化の必要性を訴えた。
 蔡総統は、水中での戦闘の力向上こそ必要不可欠として、潜水艦の自主建造を2017年3月に表明している。海自の中古潜水艦にも興味を抱いている?
 2018年5月の日経新聞によれば、中台間の経済関係が変質しつつあるという。
 台湾企業の対中投資意欲が低下するなど経済面での誘引力が弱まっているという。但し、輸出の40%程度は香港含む中国であり、依然と高水準ではある。が、補完から競争関係になりつつあると指摘されている。
 従って、中台関係は「政冷経冷」が長引くと見積もられるとしている。
 また、2018年11月の台湾統一地方選で民進党が惨敗したが、中国は台湾圧力の効果とほくそ笑んでいるとしたら、それは誤解だ。大敗の主たる要因は、内政に失敗にある。
 習近平の本年1月2日の「一国二制度」発言に対しては、蔡英文氏は猛烈に反駁した。また、国民党ですら習の発言を拒絶した。正に逆効果であったと言える。



4 米国の台湾政策

(1)全般
 引き続き世界第一位の経済力と軍事力を背景に、自由と民主主義を基調とする国際秩序を米国主導により維持することを目標としている。このため、EUとの紐帯を強くし、インド太平洋地域における中国の覇権を決して許さないとの決意を固めていると考えられる。
 米国の「インド・太平洋戦略」は、トランプ大統領が2017年11月のアジア歴訪において「自由で開かれたアジア太平洋戦略」を言明し、同年12月の国家安全保障戦略でも引き継がれたもので、本年2018年のシャングリラ・ダイアログでマティス国防長官が「インド・太平洋戦略」として示した。
 日・米・豪・印を要とし、ASEAN等をその中に包摂しようというものである。この構想は、かねて日本等が唱えていたものであるが、それに米国が賛同して、共通の戦略となった。
 極論すれば、中国のこの地域における覇権は断固として阻止する、中国を支那大陸に封じ込める事を企図するものでもあると言える。
 中国の覇権を許さないとの意思は、2018年10月のペンス副大統領の演説に端的に示されている。
 この大方針の下に、台湾政策も行われている。

(2)台湾政策概観
 トランプ政権は、台湾や周辺海域への関与を強めつつある。それらを簡略に示す。
①2018年7月 米国防次官補  台湾への軍事圧力強化に懸念と表明
               米艦船の台湾海峡航行頻度の増加
②米国国家安全保障戦略(NSS)で、中国を批判し、台湾との関係を、必要な合法的な防衛力提供、中国による威圧の抑止を明記し、関係強化に努める方針明記。
③2019年1月 米国:アジア諸国との安全保障や経済面での包括的な協力強化を盛り込む「アジア再保証推進法(ARIA)」が成立(台湾への防衛装備品の売却推進や南シナ海での航行の自由作戦の定期的実行等)
④事実上の大使館に相当する事務所(ALT)の創設、米台高官の交流を勧奨する台湾旅行法等成立)、台湾と断交した国に対する圧力、台湾総統の米国訪問認可等
⑤武器等の売却
・2017/6/29 総額14億ドルの武器売却承認を議会に求めた。魚雷やSM2艦対空ミサイルの部品、早期警戒用レーダーの技術支援等
・2018/9/24 F16戦闘機等部品の売却(3.3億ドル)、
・「2019国防権限法」(2018/8成立)で台湾への武器売却推進明記
⑥定期的な航行の自由作戦の実施
直近の行動、3月24日横須賀基地を拠点とするイージス駆逐艦「カーティス・ウィルバー」と沿岸警備艇「バーソルフ」が台湾海峡を通過、三ヶ月連続である。昨年下半期にも3回実施しており、明らかに頻度が増している。

 これらは、米国が断固として台湾を防衛するとの明確な意思を示したものと評価できる。



5 中台及び米軍の兵力等

 中台の軍事力を比較したのが下表である。(防衛白書平成30年版から転載)

 中国が、継続的に高い水準で国防費を増加させる一方、台湾の国防費は約20年間でほぼ横ばいであり、2017年時点の中国の国防費は台湾の約15倍となっている。
 台湾軍は、装備の近代化が依然として課題であると指摘されており、米国の支援は必須となっている。



6 中国の台湾侵攻作戦

(1)台湾軍事侵攻の可能性は
 習近平は、ロシアによるクリミア半島併合を十二分に研究しているとされる。中国は何を得たのだろうか?
 平和的統一の可能性が遠のき、米国の介入がない若しくは米国に介入の暇を与えずに軍事的に占領若しくは台湾に親中政権樹立の可能性があると判断した場合には、軍事力行使を躊躇しないだろう。
 中台の軍事力の格差は歴然としており、近年の軍事力増強によりその差は更に拡大し、軍事侵攻の可能性は更に高まっている。
 蓋然性が高いシナリオは、米軍介入前に既成事実化を図るために、奇襲的なミサイル・航空攻撃により航空優勢を獲得し、民船をも活用した大船団でもって上陸作戦を敢行することだ。勿論、侵攻に先立ち台湾の政経中枢や軍事組織に対する破壊・妨害・無力化活動が行われよう。

(2)シミュレーション(研究)結果
 対する台湾軍は、蔡英文政権下初の国防白書で、従来の「水際決勝」の戦術理念を「戦力防護、沿岸決勝、水際殲滅」と変更している。より合理的な戦術になったと云うべきか。
 中国の台湾軍事侵攻を想定したシミュレーションが幾つかある。これらの研究結果によれば、台湾海峡を挟んだ中台戦争で、中国が勝利するのは確実でも必然でもないとされる。むしろ危険なギャンブルだとも指摘される。
 中国の軍事侵攻作戦の最大の弱点は、船団による上陸作戦が可能なのは4月か10月だけであり、また奇襲に成功する可能性が低いということだ。軍の準備の秘匿はある程度可能だとしても、民船の徴用を秘匿できる筈がない。
 日米の警戒・監視体制を掻い潜っての奇襲侵攻は困難で、台湾及び日米は相応の準備の余裕を得るものと考えられる。限られた台湾本島の上陸正面の陣地は更に強化され、航空・ミサイル攻撃に脆弱な部隊等は抗堪性ある所に陣地変換する。

(3)中国の対策
 大言壮語にも拘らず、現実は(2)項に述べた通りになる可能性が高い。となれば、中国は如何なる条件作為を行って台湾侵攻(開放)作戦を行うのか?軍事的格差を見せつけて台湾市民(軍)の士気喪失を図るのが一番だ。戦わずして屈服させ得る。
 勿論、他のシャープパワーをも更に執拗に活用する筈だ。台湾の国政選挙にも陰に陽に干渉するのではなかろうか?
 米国の台湾防衛意思の希薄化、米軍介入の遅延化、A2/ADの更なる強化等がある。
 2018年8月の報道によれば、米国防総省は、中国の軍事・安全保障の動向に関する年次報告書を公表し、その中で、中国海軍は、敵前上陸などを担う陸戦隊(海兵隊)について、現状の約1万人規模(2個旅団)を2020年までに3万人規模超(7個旅団)まで拡大させる計画であることが判明したと云う。これも弱点克服策である。
 常態化した各種訓練等は侵攻作戦の隠れ蓑として最適でもある。



7 日本の対応

(1)台湾海峡危機と日本
 台湾海峡危機に際し、日本はこれを対岸の火事視する訳にはいかない。日本に展開する米軍は台湾海峡危機時においては、相応の軍事行動を取るだろうし、それを阻止・妨害するために、中国から直接あるいは間接の軍事的あるいはその他の圧力があるものと予期すべきだ。また危機による間接的な経済的影響も大きいだろう。
 このような事態に日本は対応できるのか?厳しさを増す国際環境に対応するために、侃々諤々の議論を経て、2015年(平成27)9月に平和安全法制が整備された。武力攻撃事態対処法において、存立危機事態が設けられた。また、周辺事態法が重要影響事態安全確保法と変更された。日本は、これらの法制定・改正により事態に応じ必要な行動を採れることとなった。
 存立危機事態とは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態と定義される。
 重要影響事態とは、そのまま放置すれば、我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態と定義される。支援対象には米軍も含まれ、対応措置には①後方支援活動 ②捜索救助活動 ③船舶検査活動 ④その他の措置 がある。

(2)日本の対応
ア 台湾海峡危機抑止のために何をなし得るか?
日本に重大な影響を与える台湾海峡における危機を如何にして抑止するか、未然にその危機の惹起を無くし或いは小さくする方策を見出さねばならない。
①台湾に対する支持表明
②中国に対する台湾侵攻の無意味さを理解・周知
③中国の能力等に関する情報収集と台湾への提供
④日・米・豪・印連携による中国の覇権的行動の全般的抑止
⑤平和安全法制や国際法に則っての所要の行動を確行する決意の表明
⑥米国の台湾防衛意思を確固たるものにするための米国との緊密なる調整
イ 日米の緊密な戦略調整
重要影響事態においても武力攻撃事態或いは存立危機事態においても、日米が緊密に連携することが極めて重要である。この様な観点からの日米間の具体的な調整が逐次に為されているものと信じたい。
ウ 日台間の連携策
平時から台湾と大っぴらな連携を維持することは、政治的・経済的に相当のリスクを負うだろう。しかし、そのリスクを恐れていては中国の増長を許すことになりかねない。リスクと抑止効果の何れをも達成できるような方策を追求すべきであろう。
 実際の危機勃発に際しては、台湾に対する直接間接の支援を積極的に行う必要があるのではなかろうか。
 平時からできることは、精神的な支えになることだ。共通の価値観を共有するものとして精神的支援を推進すべきだ。政府が出来ないのであれば民間レベルで行えばよい。



8 終りに


 台湾海峡の緊張を如何にして緩和するか、国際社会は重要な課題を突き付けられている。危機勃発に備え所要の態勢整備を推進しつつ、海峡危機が起きないよう、関係国に働きかけることが肝要だ。日米豪印の安全保障ダイアモンドを確固たるものにすることが前提条件だ。
 総統選挙がどのようになるかが、一つのポイントであり、注視すべきだろう。

(了)