中国の近未来を大胆に占う!

令和元年6月30日
山下 輝男

1 始めに
 令和の御代に入っての初のG20が成功裏に終了した。今回ほど首脳会談が注目されたG20も珍しいのではなかろうか。
 東アジアにおける地殻変動の予兆を感じる。近未来における東アジア情勢の方向性が見え始めたようだ。特に注目すべきは、香港デモ2019への対応に関する中国の失態であり、更には、G20の場での7ヶ月ぶりの米中首脳会談である。米中関係は、結果的には、問題先延ばしの一時休戦で当面の激突は回避されたが、米国も苦しかろうがそれ以上に中国が苦境に立っているという状況が明らかになりつつある。
 本稿は、そのような漠たる認識等を基礎に、中国の近未来を大胆に予測した全くの私見である。諸兄のご批判・ご叱正・ご教示を乞うものである。同時に、己の洞察力の適否を数年後に占う材料としたいと考えている。

2 朝鮮半島をめぐる情勢概観と中国の北朝鮮に対する影響力の相対的低下?
 文在寅の華々しい仲介外交の成果もあってか(?)、南北首脳会談、二度にわたる米朝首脳会談、血の同盟と云われる中朝の五度(昨年3月以降)の首脳会談、そしてロシアをも巻き込んでの北朝鮮の非核化交渉等が度々行われた。
 また、今般の突然の板門店における米朝(韓)首脳会談(6月30日、面会or対面と揶揄も)も、その実態は単なる政治ショーに過ぎない。
 何れにしろ、抜本的な事態の好転は認められず、概ね現状維持とならざるを得ないという状況と言える。
 北朝鮮は韓国の仲介を見限り、中露のバックアップを得ての生き残りの方向に完全に舵を切った。勿論、彼らが核を放棄することは有り得ないだろう。
 米国にとって、このような固着した現状を打開する有効な方策は今のところ見当たらない。中露をも巻き込んでの北に対する制裁(このこと自体が困難だろうが・・)を通じての北の非核化すらも出来ないのであれば、残されたオプションは一つしかない。その引き金は核・ミサイルの実験再開だろう。勿論、トランプは、軍事オプション採用のアリバイ作りに門戸開放と微笑を金正恩に向けるだろうが・・
 この間明らかになったのは、韓国の影響力が全くなかったということだ。
 一方、中国にとっては、北朝鮮の地政学的地位は、中国防衛上緩衝地帯としての重要であり、米国の影響力が朝鮮半島北部に及ぶことを何としても阻止することは絶対的要素ではあるが、それさえ担保できれば、北はお荷物となりつつあるのではないか?言いなりにならない尊大過ぎる金正恩を何とかしたいのではないかとも考えられる。米軍の軍事オプションは中国にとっては悪夢である。北を米国牽制のために利用することはあっても、北の為に自らが犠牲を負うことは避けたいというのが本音だろう。血の同盟という幻想に振り回されたくなくなった。
 また、北朝鮮問題に、ロシアが参入してきており、金正恩が中露両睨み・天秤にかけ始めているに及んでは、影響力低下は明らかだろう。
 更に、今回のように米朝が直接にコンタクトして調整するに及んでは、影響力低下は明白である。



3 香港デモは習近平の落日の始まり
 香港で起きた逃亡犯条例改正案(刑事事件の容疑者などを中国などに移送できるようにする)への抗議は、6月9日には103万人(主催者発表)という返還後最大規模のデモなどに発展し、香港社会からの幅広い反発に抗しきれなくなった香港政府は、法案の審議を一時見送ることを決定した。それでも6月16日には、改正案の廃止を求めて200万人近く(主催者発表)が再びデモに繰り出した。香港の人口が750万人。そのうち中国からの移住者150万人、それに高齢者や子どもたちを除いて考えると、未曽有の参加者数といえる。
 撤回を求めて今後も同様の抗議行動は起きるだろう。おりしも、天安門事件30年という節目での習近平政権の失態である。一国二制度の下で、それなりの地位を築いてきた香港が、中国に飲み込まれることへの恐怖が反発心となったのであろう。天安門事件を抑え込んだ時と今では時代が明らかに違うのだが、それを出来ると踏んだ習近平の誤判断だ。審議延期に追い込まれた香港政府と一体でもある習近平の威信低下は免れない。
 世界が固唾を呑んで見守った香港デモであり、習近平も強硬路線は採れなかったのだ。この事は台湾政策にも言える。国際社会が注視する中での無法不法な台湾政策はなかなか取れない。そこに限界があることを認識したのではないか。



4 台湾に関する米中のせめぎあい、中国に有効な手はない
 第四次台湾海峡危機到来かと思われるような両岸関係だが、米国の台湾支援意思に微塵の動揺はないようだし、台湾自身の防衛力も向上しつつある。共産党立党100周年に向けて、所謂シャープパワーで台湾の親中化を狙っているようだが、台湾人のアイデンティティは高く、そう簡単ではないようだ。中国の渡洋軍事侵攻はその能力も限定されており,成功の見込みは限定的だ。手詰まり感が漂う。
 共産党創設100年の2021年、又は遅くとも建国100年の2049年までを目標とする台湾の統一は難しくなりつつある。中国の最大の目標達成が困難ということが中国の国内混乱の要因となる可能性がある。



5 一帯一路構想とアジア・太平洋戦略のせめぎあい
 米国の一極覇権に対する中国の対抗戦略は一帯一路構想でありそれを支援するAIIBである。積極・大胆にあらゆる国に大盤振る舞いをしたが、それが結果的には悪徳サラ金業者と同じで債務の罠に陥ったと認識され、敬遠され一時的な勢いはなくなった。最も、中国の経済力に期待している国も多いが、その期待が裏切られた時どうなるのだろうか?
 対するのは、日米豪印を戦略の要とするアジア・太平洋戦略であるが、未だに日和見的な国も多く、確固とした態勢が構築されたとは言い難いともいえる。正に綱引き状態である。
 とは云え、陰りの見え始めた一帯一路とアジア・太平洋のキーとなる国が主導する戦略とどちらが有利か自明であり、流れは明確だ。
 ASEAN諸国は、中国の海洋進出ぬ懸念を表明し、その存在感を増すため独自の方向性を模索してはいるが、何れは日米の主導するアジア・太平洋戦略構想へとシフトするのではなかろうか。



6 米中の軍事的・経済的覇権争奪の行方
 国防費を年々歳々大幅に増額して軍の近代化を図ってきた中国は第四・第五の戦場をも含む全てのドメインでの優位性確保を狙っている。米国に追いつき追い越すのも十分にあり得るとの根強い見方はあるが、基礎体力の差は歴然だ。近い将来を含めても追い抜けないだろう。従って、中国は、米国の弱点に対する攻撃能力を高めて、手出しをさせない或いは痛いしっぺ返しを食らわせる戦力造成に励むことになるのだろう。
 それと現在実効支配している南シナ海の島嶼軍事拠点の更なる拡充を図るだろうが、先般のASEAN諸国首脳会議で懸念が表明されたように中国にとっては好ましくない方向に動き始めている。
 知的財産を含む米中の貿易に対する争いはそのパワーの巨大さ故に米国に軍配が上がりそうだ。更に、5Gに関連する覇権争いもEUが米国と歩調を揃えたことで、先は見えた。米国も自国経済への影響を見極めつつ、圧力を加え続けるだろう。
また、中国からの資産流出が止まらないことは、前途を悲観してのことだろう。

 米中覇権争奪戦の最大のリスクはトランプ大統領の予測不可能性だ。ペンス副大統領に重要演説をさせて、自らは外交のフリーハンドを握って主導しようとする。それが思わぬ方向に進まないという保障がない。大統領選挙対策上、何を決心するかも予測不能だ。
 勿論、中国も安易に妥協することは国内政治上容認できない。厳しい対決状態が当分続くとみるべきだろう。
 両国の我慢比べが続くが、独裁国家の方が有利だ。我慢できなくなった米国の豹変があり得るのか。そこが読み切れぬ。

7 中国の最大の弱点克服は可能か?
 55も存在すると云われる中国国内の少数民族問題と国内における貧富・所得格差は中国のアキレス腱である。米国は、このことをよく承知していて、中国の人権問題を採り上げて中国に対応を迫っている。有効な戦略手段であると理解していることはペンス副大統領の昨年10月演説からも明らかだ。
 一旦改善傾向にあったジニ係数も2年連続上昇し、貧富の差が拡大しているとされる。相変わらず、相当数の暴動も発生しており、米国との経済戦争が長引けば、貧富の格差拡大に起因する大暴動の危険性もあろう。
 これらの問題点改善の処方箋はあるのだろうか?何れにしろ、現在の中国の態勢を大胆に変えない限り困難だが、それが共産党一党独裁体制下で許されるのか?独裁体制だから出来るとも云える?

8 中国は変わり得るのか?
 数多の内憂外患を抱える中国は、この国難に如何に対処するのだろうか?
日米豪印と同様の自由と民主主義を基調とする国家体制への大転換を行う、或いは偉大なる中国の復興という目標を飽くまでも堅持して、じり貧状態を甘受する。この過程での国家体制の変換はあり得るのだろう。
 内憂は抑え込みつつ、米国の外圧に対しては柔軟に対応し、隠忍自重・臥薪嘗胆して、。捲土重来を期す。この為には、トップへの強力な権力集中が必要だが、習近平はそれを入手し、国内基盤は盤石だ。
 国内批判をかわすため、包囲網の弱点に対する一点突破によって局面打開を期すことがあり得るだろう。何れにしろ、共産党一党独裁という体制維持を絶対目標としての生き残りを策すだろう。

9 終わりに
 常識的に考えれば、米中の覇権争奪戦は、米国大統領の変節等特段の状況変化がない限り、米国有利と見て良かろう。問題は、中国がソフトランディング出来るかどうかだが、紆余曲折を経ながら、ある程度の混乱をも伴いながらそれを目指すのだろう。中国がソフトランディングを目指すのであれば、我が国にとっても喜ばしいことであり、相応の支援は考慮すべきだろう。勿論、日米の戦略調整は必要だが・・

(了)