先ず決心すべきだ!
(ホルムズ海峡危機対応について)

令和元年7月14日
山下 輝男


1 始めに
 米国の唐突なイラン核合意離脱に端を発した米・イ対立が遂にホルムズ海峡危機として顕在化しつつあり、我が国を含むタンカーがイランの革命防衛隊(IRGC)と思しき勢力の脅威を受けつつある。
 これに対して、米国は統参議長が言明した通り、有志連合の結成に向けて動き出した。
 我が国は、今参議院選挙の最中だが、今一関心が薄いようだ。
 日本は、国難とも云うべき事態に直面し、重大な決断を求められつつある。2016年施行視された平和安全法制は機能するのかを含め、我が国の対応について検討する。





2 米のイラン核合意離脱後のペルシャ湾における事案の頻発と有志連合結成の動き

(1)イラン核合意離脱(2018年5月8日)とイラン濃縮再開(2019年7月8日)
「核合意」は、4年前、アメリカのオバマ前政権が、英、仏、独、露、中と共に、イランとの間で結んだ。イランが核開発を大幅に制限する見返りに、関係国がイランに対する制裁を解除する内容となっている。
 トランプ政権は、イランが将来、核兵器を獲得するのを止められない「最悪の合意」だとして、2018年5月8日、一方的に離脱し、その後、イランに対する制裁を段階的に再開してきた。 
 (合意離脱から一年後の2019年)  
 2019年5月9日、イランは「核合意の履行の一部を停止」したと表明し、関係国に米国と一線を画すように要求した。
イランは7月8日、ウラン濃縮度が2015年の核合意で定められた規定上限を超えたと発表、それが実行されたことを、IAEAは7月8日確認した。イランは濃縮度を20%まで引き上げる可能性もあると警告している。


(2)ホルムズ海峡タンカー攻撃事件 2019年6月13日
 6月13日、日本に衝撃が走った。同日早朝、ホルムズ海峡付近で日本とノルウェーの海運会社が運航するタンカーが襲撃を受けた。攻撃は吸着型水雷(リムベットマイン)とも飛来物とも云われ、両船では火災が発生した。乗組員一名が負傷した。
 今回の事件は偶々安倍首相のイラン訪問中に起きたが、これが色々な憶測を呼んでいる。
 米国はイランの責任であると非難し、イラン革命防衛隊の仕業であるとし、その証拠もあるとしている。
 米国に英国及びサウジアラビアは同調しているが、日独は状況をやや慎重に見極めたいとしている。


(3)米国無人偵察機の撃墜事件 2019年6月20日
 イラン革命防衛隊は、6月20日午前、イラン上空でアメリカの偵察ドローン(小型無人機)を撃墜したと発表し、写真を公開した。グローバルホークが撃墜されたことに米国は衝撃を受けている。IRGCはイラン領空を侵したからとしているが、米国は反論している。

(4)英国タンカー拿捕未遂事件(2019年7月10日)
 米CNNテレビは、米当局者2人の話として、イラン革命防衛隊の小型艇がホルムズ海峡で英国のタンカーの拿捕を試みたが失敗したと報じた。護衛に当たっていた英海軍のフリゲート艦が警告したため未遂に終わったという。英領ジブラルタルでのイランタンカー拿捕に関連した報復ともみられる。

(5)米、イラン沖での船舶護衛で有志連合結成、協力打診等 2019年7月11日
 報道によれば、トランプ政権が、イラン沖などを航行する民間船舶を護衛するために同盟国の軍などと有志連合の結成を目指し、日本、他の同盟国に協力を打診したとされる。日本政府は、その打診があったことは認めているが、詳細は明らかにしていない。

(6)英国の艦艇派遣発表  2019年7月12日
 英国は、ペルシャ湾に2隻目の軍艦を派遣し、警戒レベルを引き上げたと発表した。
 英当局は2隻目の派遣について、あらかじめ計画されていた交代に伴うもので、世界で最も重要で不安定な石油輸送路の一つに引き続き英海軍が存在することになると述べた。




3 エネルギー安全保障上の影響について
 緊迫の度を増すホルムズ海峡危機だが、日本にとって極めて重要な影響があると云わねばならない。日本の原油輸入量の中東依存度は2018年度で88%であると推計される。ホルムズ海峡を通過する日本船舶は年間延べ1700隻に上り、そのうち約500隻がタンカーである。野上官房副長官が「ホルムズ海峡の航行の安全確保は日本のエネルギー安全保障上、死活的に重要だ」と強調したが(日経電子版2019/7/11)、正にその通りである。
 2015年9月に成立、2016年3月末に施行された平和安全法制の議論の過程で様々に論じられた事態がいま正に起きつつある。




4 自衛隊派遣の枠組み等
 トランプ大統領は、6月25日、日本などに対してホルムズ海峡を通過するタンカーを自国で守るようツイッターで求めた。
 これを受けてか否かは定かではないが、トランプ政権が有志連合の結成を目指し、日本を含む関係国に協力を求めたと報じられたのは前述(2(5)項)の通りである。
 日本政府も具体的な検討を始めたものと察せられるが、当然ながらその詳細は明確ではない。
 考えられる枠組みは以下の通りであると云われる。
 ①平和安全法制に基づく「存立危機事態」と認定して集団的自衛権の限定行使
 ②平和安全法制に基づく「重要影響事態」と認定して多国籍軍の後方支援
 ③自衛隊法に基づく海上警備行動
 ④海賊対処法に基づく船舶の護衛
 ⑤国際平和支援法に規定する国際平和共同対処事態と認定しての諸外国軍隊への協力支援活動
 ⑥特措法の制定による派遣


 以下これらについて、その概要と課題について考察する。




5 各枠組みの概要等及び有志連合参加に係る課題等
(1)存立危機事態
 ア 概要
(ア)意義
 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
(イ)事態認定は個別具体的な状況に即して判断すべきものであり、あらかじめ定型的、類型的に決めておくことは困難とされる。
(ウ)主に攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、その規模、推移などの要素を総合的に考慮し、我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民が被ることとなる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断 
(エ)事態認定の上、「他に適当な手段がない」、「必要最小限度の実力行使」という条件を満たせば自衛隊に防衛出動を命ずることが出来る。
(オ)従来個別的自衛権のみが認められるとしてきたが、「新たな解釈においては、新三要件の下で極めて限定された範囲において、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする我が国自衛の措置としての武力の行使を認めているが、これを国際法上の概念で整理すれば、限定されたものであるとはいえ集団的自衛権の行使と言わざるを得ないとして、限定容認と表現される。

 イ 有志連合参加に係る課題等
 本枠組みによる場合、武力攻撃事態と同様の権限行使が可能で、目的達成にはそれなりに有効である。然しながら、特定国家(?)による非公然武力組織や跳ねっ返り分子による攻撃を当該国からの我が国に対する武力攻撃と認定し得るのか?どのような状況であれば存立危機事態なのか、現状は果たして存立危機と言えるほどの危機的状況と言えるのか?等々ハードルは高い。


(2)重要影響事態
 ア 概要等
(ア)意義
 重要影響事態とは、そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態を云う。
(イ)本事態に際して自衛隊の行う活動は、①米軍に対する後方地域支援 ②後方地域捜索救助活動 ③船舶検査活動 及び④その他重要影響事態に対応するために必要な措置である。
(ウ)支援対象は、日米安保の目的達成に寄与する活動を行う米軍に加え、国連憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊及びその他これに類する組織である。
(エ)武力行使との一体化に対する回避措置
 ①他国の武力行使との一体化を回避
 ②自衛隊員の安全確保の為、「現に戦闘が行われている現場」では活動しない、必要により活動の一時休止、防衛大臣は実施区域を指定し、必要あれば指定変更または活動中断を命じる。
(オ)武器使用について
 自己保存型の武器使用の他宿営地防護の措置としての武器使用ができる。

 イ 有志連合参加に係る課題等
 法的に許容される活動を行う能力はあるが、抑々重要影響事態と認定できるのか?我が国に対する直接の武力攻撃に至る恐れがあるのか?米軍は日米安保の目的達成のために活動しているのか?国連憲章の目的達成のために行動しているのか? 等々の疑問に応えられるか?
 またぞろ、戦闘地域か否かの不毛な論争が惹起し、武力行使との一体化論争が起きる可能性が高い。更には、海上における戦闘地域との概念は如何なるものか?
 共同作戦行動をとらざるを得ないと思料するが、それと武力行使との一体化を峻別し得るのか疑問でもある。


(3)海上警備行動
 ア 概要
(ア)意義等
 海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合に、総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動を命ずる。
(イ)権限等
 警職法第7条の規定が準用されるほか、海上保安庁法の一部の規定が準用され協力要請や立ち入り検査などの権限を行使できる。

(ウ)実績
 海外における海上警備行動は、2009年3月、ソマリア沖・アデン湾において日本船舶防護のため発令されたが、同年7月に海賊対処法が制定され、本法に基づく行動は行われていない。

 イ 有志連合参加に係る課題等
 海上警備行動は、飽くまでも海上における警察権行使による治安維持・警備であり、今回のような事態を想定しているとは言い難い。
 また、本法を適用する場合、自国の船舶のみが護衛対象となる。更に、警備対象が武装組織であることを考慮するならば、隊員の安全確保上問題が多い。


(4)海賊対処行動
 ア 概要
(ア)意義等
 海賊行為に対処するため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において海賊行為に対処するため必要な行動を命ずる。承認を得る場合、対処要項を提出する要あり。
(イ)武器使用権限等
 警職法第7条に基づき武器を使用できるほか、他に手段がない場合、その事態に応じ合理的に必要な限度において武器を使用することが出来る。
(ウ)活動実績等
 2007年7月の海賊対処法施行に伴い、派遣海賊対処行動水上部隊と同航空部隊を派遣し、船舶護衛・ゾーンディフェンスと警戒監視に任じている。また、ジブチに行動支援隊を配置している。更には、CTF151の司令部に司令官を含む要員を派遣している。

 イ 有志連合参加に係る課題等
 本法に基づく派遣は飽くまでも海賊対処であり、今般の事態が海賊対処事態と認定するには無理がある。よしんば、海賊又は同様の非国家武力組織と認定したとしても、今般の事案から考えられる脅威は一般的な海賊の武器・組織レベルを遙かに凌駕しており、現行権限では自衛隊部隊の安全確保は厳しい。


(5)国際平和支援法に基づく共同対処事態における活動
 ア 概要
 先般の平和安全法制整備において、国際社会の平和及び安全の確保の為、国際平和共同対処事態に際し、諸外国の軍隊等に対する協力支援活動が行えるように国際平和支援法が制定された。国連総会又安保理の決議が必要であり、①物品役務の提供の協力支援活動 ②捜索救助活動 ③船舶検査活動を行うことが出来る。
 武力行使との一体化回避措置や武器使用権限は重要影響事態と同じである。

 イ 有志連合参加に係る課題等
 一般法にもとづく派遣となり、派遣決定の迅速性は担保されるが、国連総会または安保理決議が必須であり、現時点においては、現今のホルムズ海峡危機に関連する決議は存在していない。


(6)特別措置法を制定して自衛隊部隊を派遣
 ア 過去特措法を制定して自衛隊部隊を派遣した例
 ○イラク人道復興支援特措法に基づく活動(2004.1~2009.2)
 陸上自衛隊は「人道復興支援」のため、比較的治安が安定しているとされたイラク南部の都市サマーワの宿営地を中心に活動し、2006年(平成18年)7月に撤収した。航空自衛隊は陸自の撤収後も輸送活動を継続していたが、2008年(平成20年)12月に輸送活動を終了した。
 ○テロ対策特措法に基づく補給支援活動等(2001.11~2007.11)
 海上自衛隊がインド洋(公海)に派遣され、護衛艦(イージス艦)によるレーダー支援や、補給艦による米海軍艦艇などへの給油等の支援活動が行われた。
 ○補給支援特措法による補給支援活動(2008.1~2010.2)
 テロ対策特別措置法が失効することを想定して、海上自衛隊のインド洋への派遣によって、海上阻止活動に参加する国に対して補給を行う活動を「再開」した。

 イ 有志連合参加に係る課題等
 状況に即応した活動内容を規定し得るが、制定に時間を要することが懸念され、タイミングを失する可能性もある。




6 ホルムズ海峡危機への対応
 日本としては、対岸の火事視するのではなく、当事者として、この事態に如何に対処すべきか真剣に検討すべきだ。

(1)先ず、何を決心すべきか?
 何が出来るかは今後検討するとしても、国連安保理決議採択に向けた努力を続けつつ、そのような枠組みができるまでの国際社会の具体的・実際的な対応としての「有志連合」には賛同すべきだろう。日本の立場を国際社会に宣明することは重要だ。
 そして、日本の法的枠組みや能力を踏まえた役割分担に関する具体的な議論には積極的に参加すべきだ。


(2)イラン政府への働き掛けや国際世論の喚起等の外交努力を
 危機を更に拡大させないような外交努力は、言わずもがなと言うべきだが、当然為されるべきだ。唯、ここまで先鋭化してくれば欧米もイランも引くに引けないだろう。


(3)現行枠組みでの有志連合への参加について
 現行枠組みのうち、存立危機事態対処とするにはハードルがかなり高く、重要影響事態もハードルは低くない。海賊対処や海上警備行動は可能ではあるものの、実効性に疑問が残り、派遣部隊の安全確保も覚束ない。
 特措法の制定は、可能ではあるものの、状況がどのように変化するのかの見極め無くして法制定は困難だし、制定にも時間を要する。
 国際平和支援法による派遣が最も妥当性もあるが、現時点においては派遣を可能とする根拠決議が存在せず、常任理事国の拒否権発動の可能性も無きにしもあらずで、待ったなしの状況には即応し得ない。
 このように考えるとなかなか大変だが、何とか知恵を出したいものだ。

 有志連合参加各国との具体的な調整を通じて、上述の現行枠組みの中でも出来ることが有るかも知れぬ。出来ませんと全否定するのではなく、僅かばかりの可能性であっても追及してこそ日本は国際社会の一員としての義務の一端を果たしたと云えるだろう。
 有志連合との連携の一環として、有志連合の援護下に自国船舶を護衛するという方法もあるかも知れないし、有志連合の為に警戒監視網を構築して情報提供をすると云う方法もあるかも知れぬ。今こそ知恵を出すべきだ。


(4)更に責務を果たすために、何をすべきか?
 日本は、現行枠組みでの有志連合参加にも種々の制約があり、国際平和支援法も適応できず、傍観するしかないのか?
 金だけ拠出して世界の失笑を買ったことから何も学んでいないと云われるだけだ。最大の受益者たる日本が、リスクを取らなくて良いのか?

 現行枠組みの中での僅かばかりの責務を果たしつつも、状況に即応した役割を果たす為に為すべきことを具体化して特別措置法を制定する必要があろう。




7 日本がより積極的に貢献するためには?
 平和安全法制が整備され、自衛隊の海外派遣の枠組みが拡大し、オプションが増えたのは確かだが、如何なる状況にも切れ目なく対応できるようになったとの説明に齟齬があると云わねばならない。
 自衛隊の運用に関しては、法的に手枷・足枷の状態に置かないと暴走し、戦前のようになってしまうとの抜きがたい不信感が根底にあるので、使い勝手の悪い法的枠組みとなっている。
 国益を達成するための武力組織をしっかりコントロールできることは極めて重要だが、だからと言ってこのような使えない法律では困る。運用に幅を持たせて、実際の派遣に当たってしっかりと政治がコントロールしておけばよかろう。日本の政治家がしっかりとした見識を持って居れば十分だろう。
 このような観点からの自衛隊の運用の在り方の再検討を願いたいものである。




8 終りに
 時は参議院銀選挙の真っ最中であるが、ホルムズ海峡危機への対処が選挙の争点にもなっていない。残念だ。今こそ、議論すべきだと思うのだが・・
 また、軍隊は悪だ、暴走するものだとの妄想から脱却すべきではなかろうか?


(了)