動き始めた対中包囲網を確固たるものにせよ!

T・Y生

(H25/1/14) 

1 はじめに

 21世紀の最大の課題は云うまでもなく、今や世界第二の経済大国となり、軍事費を増大させつつ、アジアの覇権を着々と築きつつある「異形の大国」である中国に、如何に立ち向かうかである。
 そのような観点から、JBpressに「中国重視から大転換の米国、この好機を逃すな、中国の侵略を許さないためにASEAN、インドとの強い連携を」と題して投稿した。
(2010/12/13掲載 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5042
 野田民主党政権では思い切った戦略転換が出来なかったが、昨年末誕生した安倍政権は着々と対中包囲網の構築に動いているやに思われる。本稿は、動き出した対中包囲網の状況を俯瞰し、その包囲網を確固・確実にするために我が国が採るべき方策を提示せんとするものである。

2 既掲載論文の骨子

 勃興する大国中国は、その経済力を背景に、軍事力を増強し、東シナ海や南シナ海の内海化による資源等の獲得、西太平洋の覇権獲得を狙っている。これに対して、米国は明確に戦略転換をし、対中牽制に乗り出した。日本としては、この機に日・韓と印を両翼とし、グアムを扇の要とした戦略体制を築くべしとし、台湾~ASEANを弧の一部とし、後方拠点としての州も含む環太平洋連携の構築を提唱した。

3 対中包囲網の狙い

 自由と民主主義を基調とする価値観を共有する諸国との連携により、先ずは、中国のアジア・太平洋地域における覇権獲得を直接的に阻止し、中・長期的には、唯我独尊、傲岸不遜、傍若無人、威丈高、独善的、強圧的・高圧的な中国の態度変化を促し、協調的国際社会の一員足らしめることにある。
 譲歩や妥協では、中国の覇権阻止は勿論、中国の態度変化は決して期し得ない。

4 動き始めた対中包囲網

(1)日米同盟の強化
 前民主党政権特に鳩山政権時代に大きく毀損した日米同盟を建てなおすことが急務である。唯一の超大国である米国との連携なくして中国に対抗するのは至難であり、日本の将来もないのは自明である。そういう観点から、新政権が米国との同盟強化に乗り出そうとしているのは心強い限りである。安倍首相は、外国訪問の第一番目に米国を選び、日米首脳会談で日米の連携を確認し、信頼関係を再構築したい意向を表明し、米国としても望むところであった。然しながら、米国側の政権再発足等に伴うタイトな日程の為に少々延期されたのは止むを得ない。
 日米両政府は、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の再改定に向けての協議を開始する予定である。米軍との連携を高めて自衛隊の役割を強化するのが狙いだ。日本周辺地域の警戒監視活動に加え、災害救援やサイバー空間などを含めた防衛協力などについても話し合うと見られる。
 一方、オバマ米大統領は1月2日、国防予算の大枠を定める2013会計年度(12年10月~13年9月)国防権限法案に署名し、同法は成立した。在沖縄海兵隊のグアム移転関連予算の凍結が2年ぶりに解除されたほか、沖縄県の尖閣諸島に日米安全保障条約が適用されることを再確認する条項が盛り込まれている。尖閣法案の成立も心強い限りである。

(2)日韓関係改善の動き
 安倍政権は、先の衆院選の政策集で明記していた2月22日の政府主催の「竹島の日式典」開催を見送る決心をしたと伝えられる。この式典は、従来島根県が、竹島を日本に編入した2月22日に毎年式典を開催していたものを政府主催に格上せんとしたものである。竹島問題で悪化した日韓関係の修復を重視し、首相就任早々に開催する必要はないと判断したと伝えられる。(少なくとも現時点においてはということか?)
 安倍首相は、年明け早々に、自民党の額賀元財務相を、首相の特使として韓国に派遣した。額賀氏は、朴槿恵次期大統領とソウルで会談し、「東アジアの安定のためにも日韓関係が一番大事だとの首相の思い」を伝え、親書を手渡した。竹島問で冷え込んだ日韓関係の改善に向けたメッセージを朴氏に伝えたとみられる。
 政府は前政権以来、李明博大統領による竹島上陸を受け、対抗措置の一環として、国際司法裁判所(IJC)への単独提訴も辞せずとして準備を進めていたが、日韓関係改善を優先して、当面提訴しないこととした。安倍政権としては、ICJでの決着が望ましいとの立場は変えないものの、単独提訴は先送りし、韓国の対応を見極める方針であるという。
 斯様に、1月25日の大統領就任式への安倍首相の参列の環境整備も整いつつあり、関係改善への道筋が見え、弾みがつくのではと期待されている。
 更に、米国の強い意向もあったのだろうが、日米韓3国による防衛・外務当局者による安全保障協議を定例化する方針を決たとも報ぜられた。(1月10日)

(3)首相等の東南アジア歴訪
 安倍首相は、ベトナム、タイ、インドネシアを16日から4日間の日程で訪問する予定であり、総理に先立ち、岸田外相や麻生副総理も最初の訪問国にASEAN諸国を選んでおり、東南アジアで影響力を増す中国を牽制する狙いがあると推測されている。強力な楔になるか。

(4)日ソ関係改善
 安倍首相は、就任早々にロシアのプーチン大統領と電話会談し、日露首脳会談の早期開催を呼び掛け、自身の訪露について調整を行うこととしたと報ぜられているx。
首相訪露に先立ち、森元総理を特使として派遣する予定であり、関係改善の萌芽を感じさせる。

5 中国の分断策

 中国としても、手を拱いている訳ではない。最近の報道から推定すれば、以下のようなものがある。まだ、他にもあるのかも知れないと云うより、色々な策を講じているだろう。

(1)日・韓連携分断策
 中国政府の高官は、1月11日、訪問先の韓国で、所謂日本との歴史問題について、「中国と韓国は明確な態度を取らなければならない」と述べ、韓国との連携を呼び掛けた。
 また、中国及び韓国は、昨年12月に、国連大陸棚限界委員会に大陸棚延長申請を行っており、日本政府はこれに対して口上書を国連に提出した。
 大陸棚に関して、中国と韓国の利害は厳密には対立しているとはいえ、一面からは、中・韓が連携して日本に揺さぶりをかけているやにも思われる。杞憂であることを祈りたい。

(2)南シナ海行動規範に関するASEAN諸国分断策
 米・中がせめぎ合う東南アジアにおいては、領有権問題の紛争防止の新たなルール(行動規範)を巡り米中が鋭く対立している。中国の強硬な反対と一部の親中派国(カ ンボジア、マレーシア等)の対応により昨年末の東アジアサミットやASEAN首脳会議でも行動規範を決定することが出来なかった。特に、米国とミャンマーの関係改善(最近の最大のトピックス?)に脅威を覚えていると思われる。(中国の引き延ばしと分断作戦)
 このような中、1月12日の報道によれば、ASEANの今年の議長国ブルネイが、慣例となっている非公式外相会議を開催しないことを決定したと云う。領有権問題の対立回避との思惑だとされる。これも中国の影響力行使の一端である。

6 確実にするための方策

 日米同盟の深化については、特に述べる必要もなかろう。割愛する。以下、関係国毎 に、如何に対応すべきかを述べたい。

(1)対韓関係
 極めて遺憾ではあるが、中国への対応を考えるならば、当面韓国との関係を改善するのは致し方ないことだ。大なる脅威に対応する為の止むを得ぬ決断である。諸懸案事項を一時的に棚上げしてでも、関係改善を図るべきだ。それは日本にとっては正に苦渋の決断ではあるが、為さねばならぬ決断である。
 この際、大事なことは、韓国が「日本が譲歩し、韓国の行為を容認した。」と誤解をしないように釘を刺し、我が国の立場を明確に伝えるべきだ。韓国国民の良識を期待したい。
 日・韓が、共同して、迫り来る巨大な龍に対抗しない限り、双方共に立ち行かないことを、韓国にしっかりと認識させる努力を官民挙げて実施すべきであろう。日本側の誠意を理解できない筈はないと思いたい。個人的には、提訴先送りも式典開催見送りも極めて残念であるが、大局の為に涙を呑んで認めなければならない。韓国は、このような我が国の良識を察すべし。
 今後開催が予定される日米韓の定例安保協議を機能させるための先ずは信頼関係の構築や実行可能な共同作業を進めるべきだろう。また、締結目前であった軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の署名を早急に行うべきだろう北朝鮮や中国に適切に対処するためにも本協定は不可欠だ。

(2)対ASEAN
 ASEANNは決して一枚岩ではない。中国はこの地域に親中国派を着々と育てている。経済協力・支援や投資、中国系華僑による影響力も行使して、ASEAN諸国を取り込む作戦に出ている。
 日本としては、引き続き、米国と共同して、南シナ海の行動規範策定に関する連携を図らねばならない。波高し南シナ海周辺域に、多国間の連携枠組みを構築する必要性が高くなっており、日本はその構築に積極的に関わるべきである。
 また、東南アジア諸国に対して、積極的な経済協力を行う必要があろう。日本企業の投資・現地進出支援、ODAの活用等あらゆる手段を駆使して、親日国の更なる拡大と強化・連携を図るべきだ。水道や鉄道インフラ等の進出をさらに推進することも必要だ。これらの全ての活動が、チャイナリスクの回避にも繋がる。「対中一辺倒」のリスクは先の反日暴動で十分に認識した筈だ。

(3)対印
 インドは、安倍新政権に熱い眼差しを送っているという。インドの有力紙は、新政権の誕生を「両国関係を急速に拡大させる絶好の機会」と評した。インドは、日本人にとって遠い国であったが、近年日印関係は政治、経済、安全保障の各分野で急速に進展しているが、これは、双方の根底に、中国に対する共通の思いがあることに発している。
 巨視的に眺めれば、日印は中国を挟んで向き合っているとも云える。このような両国関係には共通の利益がある。経済面にとどまらず、ウィンウィンの関係にあるとも云える。我が国のシーレーンを考えても日印の協力は不可欠だ。

(4)対露
 日露間の最大の懸案事項は言うまでもなく、不法に占拠された北方領土である。領土問題解決に向け平和条約締結の作業を加速化させる必要がある。幸いなことにプーチン大統領は、北方領土解決に前向きと伝えられる。双方が受け入れ可能な解決策に向けての際どい交渉が続けられよう。日露双方にとって、領土問題の解決は益になる。シベリア開発とエネルギー問題、北極航路の開発も双方に益をもたらす。対中警戒心の強いロシアにとって日本との提携は望ましいことである。双方が教条主義に陥らずに交渉を纏めることが望まれる。
 対中牽制の大局の為に、妥協せざるを得ない面もあるとは思うが、その結果を国民に説明して納得させうる強いリーダーシップがあるだろうか?日比谷焼打ち事件等ど起きぬよう、或いは国民に臥薪嘗胆を強いること躊躇わぬ強いリーダーシップが必要かもしれぬが…

(5)対台湾
 アジアにおいて親日的な台湾が、引き続き我が陣営の留まることが肝要だ。敵陣の突破には、弱点を狙うのが常道である。台湾防衛は、米国の台湾関係法で担保されているとは言え、台湾自体が、弱点とならないためには、米国や日本の適切な関与が必要だ。
 今まで、台湾に対して日本は冷た過ぎたのではないか?台湾を彼の国側に追いやらぬように配意せねばならない。政治・経済・文化的な官民交流を促進させるべきだ。中国の反発は当然予期して、対策を講じておくことは当然であろう。今まで余りにも中国の顔色を窺い過ぎた。

(6)対豪州
 グアムと豪州は、対中抑止ラインの支援後拠である。近年、経済のみならず安全保障分野でも、豪州との関係が進展しつつあるが、今後ともそれを促進させることが必要だ。

(7)その他の国家諸国との関係強化
 国連、世界特にEUとの連携強化は言うまでもないだろう。

7 我が国の対応策

 何れにしても、強固な日米同盟の再構築と我が国の態勢立て直しが全ての基礎であり、それを背景に関係国との密接な連携を確立して、昇龍に対処すべきだ。
 我が国が、前項までに述べた事項以外に為すべきことは、以下のようなことであろう。

(1)防衛体制の強化(防衛費の増額等)
 日本の防衛費は、この10年間連続して減額されてきた。日本の防衛の現状は自国防衛に支障を及ぼす可能性すら否定できない状況だ。一方、中国は同じ10年間で約4倍に伸びている。彼我の戦力が逆転する日もそう遠くないかも知れない。
 集団的自衛権に関する政府の解釈変更も急務である。
 民主党政権下で策定された「防衛計画の大綱」や「中期防衛力整備計画」も必要な見直しをすべきだ。

(2)国家中枢危機管理態勢の再構築(緊急事態基本法、日本版NSCを含む)
 個々の内容については小生の下記の投稿論文等を参照して貰いたい。
 ①国家の危機管理態勢を建てなおすべし    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35379
 ②緊急事態基本法の制定を急げ       http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/12470

3)国力の再生(経済の再生)
 陣地防御における陣地の翼は、弱点となり易ので、強固なものにすることが戦術の常道である。そういう意味で、日本が弱い翼となってはならない。日本が同盟国から頼り甲斐のある国として強いリングとなる為には、総合的な国力の増大が必要であり、そのためには疲弊した経済の再生が喫緊の課題だ。動き出した経済再生策が奏功することを期待したい。非力な日本では同盟の重し足り得ない。

(4)対中関係について
 対中包囲・抑止の態勢は強化するが、その一方で、中国を国際社会の一員として向い容れるための方策をも模索せねばならない。戦略的互恵関係とは喧嘩もするが、必要な協力を模索することを否定するものではない。そのような関係を少しづつ拡大しつつ、価値観を共有する国家へと彼の国が成長することを期待することになろう。
 為すべき対抗措置を為しつつ、対話を維持・継続するという硬軟取り混ぜた対策が必要だ。

8 終りに

 大目的を達成するには、息の長い包括的な対応が必要である。そして、大なる目的達成の為には、妥協したくない相手とも妥協せざるを得ない場合すらある。また、対抗措置を講ずることのみに終始するのではなく、相手との対話のチャンネルを閉ざすことなく関係改善の道筋を見つけねばならない。
 異形の大国が何時までも異形のままであるとは思いたくない。何れはお互いが共通の価値観を持つ隣人になれるだろう。それを信じつつ、そのような努力を傾注しつつも、当面は為すべき対策をとることを躊躇してはならない。