海洋国家戦略と海上警察力
(第3回/全5回)

冨賀見 栄一

3.激動する海洋東アジア

 東アジアの地理的概念については、従来からこの地域を構成する国の枠組みを含め様々な意見があり明確なものはない。1997年タイ通貨バーツの急落による「アジア通貨危機」に対処するため、同年12月マレーシアにおいてASEAN10カ国+日・中・韓三ヶ国の13カ国が参集する「東アジア首脳会議」が開催された。この会議以降、「東アジア」を冠する国際会議は、これら13カ国に限定したものが多くなっている。この東アジア域内で覇権を確保したい中国は、これら13カ国に限定する「東アジア共同体構想」を推進したいとしているが、2002年1月小泉首相(当時)がシンガポールで政策演説した「東アジアコミュニティ構想」においては、13カ国にオーストラリアとニュージーランドが参加、更に2005年12月クアラルンプール(マレーシア)で開催された第1回東アジア首脳会議(EAS)には、日本側の意向どおりインドも参加している。この様に日本は「東アジア」の地理的範囲をインドやオセアニア諸国などを含む開かれた地域であると捉えている。日本の考える「東アジア」には以上列挙した国以外にも極東ロシア、北朝鮮、台湾、スリランカなども含まれている。
 これら東アジア諸国は、その大部分の国は日本海、東シナ海、南シナ海などの海洋に面し、島嶼を多く抱える地理的特性を有している。そして多くの国が民族、宗教の多様性や歴史的背景の違いから、政治民主化の遅れ、民族独立運動など不安定な国内政治問題を抱えている。また、これらの国々に囲まれた海洋は東西交易の主要な航路で、海底地下資源の有望な海域でもあり、この地域は国際的にもホットなエリアとなっている。そこでこれらの国々に囲まれた海洋を極めて大雑把に東アジア地域の海洋として、これらの地域を「海洋東アジア」と称することとしたい。
 この海洋東アジア諸国の経済力を比較すれば、大きな格差があり、軍事力の面からも国力格差は歴然と存在している。また、水面下においては日本と中国との海洋東アジアのリーダー役を巡る主導権争いがあり、ODA支援などを含めた外交政策が展開されている。
 最近、海洋東アジア地域では諸々の動きがあり、この地域の海洋に関する国家間の衝突やトラブルは、頻繁に報道されているのでその内容は承知のことと思うが、この地域の国々の動きを大観すると、大陸国家「中国」は国家経営のため海洋国家としても顕著な動きを見せ、半島国家「韓国」はソウルオリンピック以降、国家戦略を海洋国家戦略に切り替え、「極東ロシア」は日本海、北太平洋方面に着実に経済進出を続けている。海洋国家「日本」も遅ればせながら2007年7月に海洋基本法を施行し、海洋における権益確保を重要な国家戦略として諸施策を漸次推進するように成りつつある。グローバル化する国際社会の中で、人口問題、食糧問題、資源問題等の諸問題への対応には、地球表面積の約7割を占め、地球最後のフロンティアである海洋に依存せざるを得ない状況の中、新たな世界経済の牽引役となっている中国を中心に海洋東アジアでは、その軍事力・経済力等を背景に、隣国同士が海洋権益を巡って相互に激しく対立・衝突する事案が多くなってきており、諸々な国際摩擦が頻発しているのが、この海洋東アジアの現状である。(第3回 了)