現代の職人群像(自衛隊を支える仲間たち)

木村 孝彦

 アニメ映画「紅の豚」は飛行機大好き人間にはググッとくるものがあるように感じました。この映画をご存知の方といいましょうか、ファンの方はどんな人たちなのだろうと考えることがあります。映画の中では高校生ぐらいの女性飛行機設計技師と下町の普通のおばさんたちが、町工場のようなところで単発の水上飛行機を作り上げる場面がありましたね。これを、「ふむふむ」とか「なるほど」とか思いながら自分も仲間に入って飛行機作りを手伝いたいと思いながら見ていた方も多かったのではないでしょうか。

 私は縁あって自衛隊を退職後、日本飛行機という会社に就職することができました。会社は主としてボーイングなどの民間航空機の部品を生産する部門と海上自衛隊や航空自衛隊の飛行機、米海軍の飛行機などを整備する部門に分かれています。私はその整備部門で会社の諸作業を見せていただく幸運に恵まれました。飛行機が大好きという人は飛行機に乗って自由に空を飛びまわりたいという人と、その複雑な部品の集合体である機体そのものをいじりたい人に分かれるだろうと思います。私はこの複雑な構造の飛行機の内側を覗くことが大好きなものですから、会社のやっている作業を時々息抜きがてら見させてもらっております。海上自衛隊のP-3Cや、航空自衛隊のYS-11はもとより、米海軍・海兵隊のP‐3CやF/A-18、E-2C、H-60などの大型機や戦闘機、ヘリコプターなどの重整備も手がけていて、色々な整備作業を見ることができるのがなんともたまらない喜びであります。

 米海軍では、次期哨戒機がP-8(B-737ベース)採用により逐次更新されることになっているようですが、現行P-3Cも一部継続使用することとなっており、現在弊社で行っている重整備はその一環の作業です。この重整備では、主翼の下面外板や主翼前後の桁材などに継続使用困難な腐食が進行しつつある構造部材・部品の交換作業をやっておりますが、これが従来やっている定期的な整備とは異なるため、かなりな部分を分解しての作業となります。それが、次第に作業が進んで行き、色々な付属品が装着され、飛行可能な状態になっていく過程を見ていると、この整備作業に従事している社員の姿が、現代の職人のように思えてくるのです。最終的に綺麗に塗装されて出てくると、まるで新車が工場から出荷されてでもいるかのようにさえ見えるのです。

 会社にはベトナム戦争の頃を知っている社員もわずかですが残っており、その経験談も飛行機整備オタクには逃せない話です。岩国基地の滑走路で横転したTA-4 Sky hawkや、厚木基地でオーバーランしたA-7E CorsairⅡなど、「うちの会社でほとんど全部分解して修理し、又組み立てていって飛べるようにしたんだよ!」との苦労話が、職人魂の話を聞いているようなものです。ですから弊社社員は本当に飛行機オタクとも言うべき、はたまた飛行機整備の職人とも言うべき人たちなのです。彼らの職人魂の根源はどこにあるかといいますと、乗り物の中では最高の技術水準を集約している『飛行機』というものを製造レベルから扱っているということであり、その飛行機の安全なフライトのために欠かせない修理・整備に携わっているというプロ意識であり、空を飛ぶという飛行機の美しい姿であり、希少さに深く係わっているという意識であるように思います。中でも防衛省の飛行機は、それぞれわが国の安全保障のためにあるわけですから、会社の方も心の奥底では自衛隊を支えている意識も自然なもののようです。海上自衛隊のP-3Cが整備を終え、引渡しも終えて配属先の部隊に帰投するときの一場面ですが、自衛艦旗と会社の旗を振りながらタクシー・アウトしていくP-3Cを見送る社員の姿に、思わず目頭が熱くなったことを思い出します。自分たちで整備した飛行機、その内部の隅々まで知り尽くしている整備に携わった社員の汗の結晶でもある飛行機、これをユーザーであるお客様である自衛隊の航空部隊にお渡しする、なんとも言えない充実感と、やり遂げたことに対する誇り・満足感は、職人技というにふさわしいものであると思います。

 一方では、バブル経済が一転し、世界経済も低調な時代となってからは、緊縮予算の時代へと変貌しているのも事実です。この影響はボディーブローのようにじわりと米軍や防衛省・自衛隊にもマイナスの影響が出始めてきています。米軍も航空機の整備を一部入札方式で行うようになり、弊社にとっては厳しい情勢になっているようです。ここからは筆者の個人的な見解ですが、これはわが国の武器輸出三原則などの戦後の国是が影響し、例えば米軍航空機の整備が国内だけでしかできないこともあって、その入札にすら応じることもできない一因となっているのです。最近開発したUS-2という海上自衛隊の救難飛行艇や、XC-2という航空自衛隊の輸送機など直接戦闘に関係のないような飛行機などが輸出できるようにすることなどを含めて、見直す機運は高まっているように思います。また隣国韓国の発展もあらゆる面でライバルとなってきております。韓国は軍用のジェット練習機や、通常動力型の潜水艦などを輸出するとともに、米軍航空機の整備にも国が資金的支援を行って、整備コストを下げ、自国の航空機産業を育成・充実させていこうとする政策を推進している状況なのです。弊社を取り巻く環境や社会情勢も会社の存続に影響を及ぼしていることもしっかりと受け止めていかなければならないのです。

 弊社のように飛行機の部品を製造し、防衛省をはじめとする飛行機の整備を行っている会社ではありますが、社員の心の奥底には国の産業を支え、そしてまた自衛隊を支えているという使命感のようなものが、自分たちの仕事に対する誇りにつながっていることは間違いありません。そうしたことを感じさせる会社の飛行機整備のいろいろな作業に、これに従事する社員の職人魂を垣間見ながら、日本人のすばらしさのようなものを感じていることをお伝えしたかったのです。(了)